南イタリア スケッチ旅行
酒 井 寿 紀
目次 ベースキャンプはナポリとパレルモに(本ページ)
ベースキャンプはナポリとパレルモに
イタリアの北の方には何回か行ったが、南イタリアには行ったことがなかったので、一度行ってみたいと思っていた。ナポリで洗濯物がぶら下がっている裏通りのスケッチを描きたいし、ポンペイの遺跡も見たい。映画「山猫」の舞台のシチリア島にもいろいろ古いものが残っていそうなので行ってみたい。
そこで、例によってベースキャンプ地を2箇所決めて、そこから日帰りで行けるところを訪れることにした。1箇所は上記のような理由からナポリにした。イタリア半島の長靴の先の方にも行ってみたかったが、今回はあきらめることにした。
もう1箇所はシチリア島最大の都市であるパレルモにすることにした。パレルモは島の西の方にあり、東岸にもメッシーナ、シラクーザなど、有名な街が多い。しかし、シチリア島は四国よりひとまわり大きいため、パレルモからこれらの街を日帰りで訪れるのは困難なので、今回はあきらめた。
イタリアに行くことにしたので、予習というわけでもなかったが、イタリア料理を食べようと、前にも何回か行ったことがある代官山の「アントニオ」というレストランに行った。
出てきたウェイトレスに、「今度シチリアに行く」と言うと、「この店を始めたアントニオさんはシチリア出身です」と言う。創業者がイタリア人ということは知っていたが、シチリアの出身とは知らなかった。「今の経営者はアントニオさんの息子さんで、たまたま今日は店に来ている」と言うので、シチリアでどこへ行ったらいいのか聞いてみることにした。
そうすると、「私の一族はシチリアの西端のマザーラ・デル・ヴァッロという街の出身です。その街の漁師が1998年にギリシャ時代の青銅の像を海中から引き上げました。それはミロのヴィーナスにも劣らない素晴らしいものです。2005年の愛知万博の時に日本にも来ました。今はマザーラの博物館で門外不出になっているので、もうマザーラでしか見られません。シチリアへ行くなら是非ともここへ行きなさい」と言う。
店にはその像の大きな写真が飾ってあり、確かに一見の価値はありそうだ。しかし、その自信過剰気味のお国自慢振りには、日本語がペラペラでもまさしくイタリア人だと感心した。
パレルモも島の西部にあり、マザーラは西端なので、ここなら日帰りで行けるかも知れない。パレルモから日帰りで行ける所を捜していたので、これはいいことを聞いたと思った。しかし、交通機関を調べると日帰りはちょっと無理なことが分かり、あきらめることにした。
今度アントニオに行ったら、「あんなに薦めたのに、どうして行かなかったんだ」と問い詰められそうなので、当分アントニオには行かない方がよさそうだ。
パレルモからどこに行くかはなかなか決まらなかった。娘さんがイタリアに住んでいる友人は、パレルモからアグリジェントというギリシャ時代の遺跡がある街に行ったという。それは島の南岸にあり、日帰りもできるかも知れないがかなり時間がかかりそうだった。
結局、最終的に決まらないまま出発の日を迎え、今から2年前の2010年6月に女房と二人でイタリアに出かけた。
ナポリには日本からの直行便がないので、ローマで乗り継ぐことにした。乗り継ぎは同じ航空会社の方が便利なため、航空会社はアリタリアにした。
成田で、ローマ行きの便の出発が多少遅れるとのことだったが、ローマで2時間以上の待ち合わせ時間があったので、ローマ-ナポリの便は変更せずにチェックインした。ところが、遅れ時間がさらに延び、ローマでナポリ行きの便の搭乗口に着くと、我々の乗る飛行機はもう出てしまっていた。長年の経験から、アリタリアの出発は必ず遅れると思っていたが、こういうときに限って正確なのだ。また、同じ航空会社で乗り継いだ時、航空会社がちゃんと把握していて、乗り継ぎ先まで案内してくれたことがあるが、最近のアリタリアは違うようだ。
それでも、アリタリアの職員は非を認め、後続の便への変更の手続きをしてくれて、荷物の引換券をチェックしてその便に積むように手配すると言い、夕食の券もくれた。
ところがナポリの空港で、いくら待ってもスーツケースが出て来ない。私にとっては初めてだったが、スーツケースの事故はよく聞くので、「ついにやられたか」と思って遺失物係りに行って処理を頼んだ。女性の職員は、「明日にはホテルに届くでしょう」と言う。
次の日、ナポリ市内を見て廻って、夕方ホテルに電話すると、スーツケースはまだ届いてないと言う。仕方がないので、衣料品店で着替えの下着などを買った。小生にとっては、絵の道具がスーツケースに入っていたので、これが一番の問題だった。女房は洗面道具や化粧道具をスーツケースに入れていて、これが一番困ったらしい。女性はこれがないと顔を洗うこともできないそうで、不便なものだ。小生は、昔アンカレッジ経由で長時間かけてヨーロッパに行っていたときの習慣で、洗面道具は途中で使うため機内に持ち込んでいたので、そういう問題はなかった。
2日目の朝、ホテルの人にアリタリアに電話してもらうと、荷物が見つかったので今日中にホテルに届けるということだった。これで一安心して、その日はポンペイに出かけた。それでも、アリタリアの言うことは信用できないので、昼過ぎにポンペイからホテルに電話で確認すると、荷物は無事着いたとのことだった。これで下着を買い足す必要はなくなった。
アリタリアは経営がおかしくなり、サービス体制にも問題が起きているようだ。もっとも、サービスに問題がある割には、リカバリー体制は割りとしっかりしているようだ。行方不明の荷物には番号を割り当てて、捜索状況はこの番号で電話かインターネットで常時調べられるようになっている。こうして何とかリカバーできれば、イタリア的には「ノープロブレム」なのだろう。