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オーム社 技術総合誌「OHM」2005年6月号 掲載        PDFファイル

(下記は「OHM20093月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)

 

WiMAXの登場で何が起きる?

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

YOZANが新通信サービスを発表

2005210日に、YOZANWiMAX(ワイマックス)を使った新通信サービスを発表した。同社は2002年に、東京電力グループの東京通信ネットワーク(TTNet)からPHS事業を買い取り、無線通信サービスを提供してきたが、このサービスをWiMAXに切り替えるという。WiMAXとはどういうもので、今後の通信の市場でどういう位置づけになるのだろうか?

 

WiMAXとは?

 現在、携帯端末に使われている主な無線通信技術には、携帯電話と無線LANがある。携帯電話の通信速度は、KDDIなどのCDMA2000 1x EV-DO (Evolution-Data Only)が最大2.4Mbpsで、2006年にNTTドコモがサービスを始めるというHSDPA (High Speed Downlink Packet Access)でも最大14.4Mbpsであり、光ファイバなどと比べれば遅い。一方、無線LANの通信速度は、802.11gが最大54Mbpsと速いが、電波の到達距離がせいぜい100m程度なので、一つの建屋の中でしか使えない。

そのため、無線LANの速度と携帯電話の到達距離を兼ね備えた無線通信技術が研究されてきた。その一つの802.16は、最大75Mbpsの速度で、10km程度離れた地点でデータ通信ができる。その詳細を定めた802.16-2004という規格が20046月に制定された。この規格では、移動中の通信はできないが、2005年中には802.16eという移動中にも通信ができる規格が制定される予定である。

そして、802.16の普及を推進する団体として、20016月に、WiMAX (Worldwide Interoperability for Microwave Access)フォーラムが設立された。この団体が今後各社の製品の本規格への適合を検査し、合格すればWiMAX認定製品と名乗れるようになる。

では、現在どんな企業がWiMAXに取り組んでいるのだろうか?

部品メーカーとしては、インテルがWiMAXに全社的に力を入れていて、顧客宅内装置用のLSI2005418日に発表した。そして同社は、802.16eの規格制定に合わせて、2006年以降、ノート・パソコン用や携帯電話用のLSIを発売する計画で、現在の無線LANのように、将来WiMAXがノート・パソコンの標準機能になることを目指している。また、富士通は2005422日、WiMAXの基地局と端末機器で使えるLSIを発表した。

装置メーカーとしては、英国に開発拠点を持つエアスパン・ネットワークス、イスラエルのアルバリオンなどがインテルのLSIを使った製品の出荷を計画している。また、カナダのWi-LANは、富士通と協力してWiMAXの製品を開発中という。2005年から2006年にかけて、これらのメーカーからWiMAXに対応した製品が続々と現れるものと思われる。

通信事業者としては、米国のタワーストリームが、IP電話のアクセス・ポイントに対する無線通信サービスを米国の5都市で試験的に提供しており、今後これをWiMAXに切り替える計画だ。そして、日本ではYOZANが、エアスパンの製品を使って20056月からフィールド・テストを始め、12月に商用サービスを開始するという。また、英国のBTは、四つの地方都市ですでに試験サービスを行っており、米国のAT&T2005年から試行を始めるという。

 

WiMAXの出番は?

このように多くの企業がWiMAXに取り組んでいるのは、WiMAXがいろいろな新しいビジネスの可能性を秘めているからだ。

その一つは、インターネットのアクセス回線の提供である。先進国の大都市ではADSLや光ファイバが普及しているが、全世界で見ればほんのわずかに過ぎない。WiMAXを使えば、ADSLなどのインフラがないところでも、高速のインターネット接続が可能になる。そのため、WiMAXは、まず開発途上国や僻地から普及する可能性が大きい。

WiMAX用の機器の生産が軌道に乗れば、基地局や端末機器を安く実現でき、しかもケーブルの敷設費用がまったくかからない。そのため、すでにADSLなどが普及しているところでも、新興企業がWiMAXで安いアクセス回線を提供し、ADSLなどからシェアを奪ってしまう可能性がある。

そして、移動通信用の802.16eが使えるようになれば、ノート・パソコンやPDAのインターネット接続に、無線LANや携帯電話回線の替わりに使われる可能性がある。そうなれば、無線LANのホットスポットを探しまわらなくても済むし、携帯電話の高額なデータ通信料を払わなくてもよくなる。

それだけではない。WiMAXを使った通信では、データ・音声・映像すべてにIP (Internet Protocol)が使われ、音声はネットワーク上のデータの1種に過ぎなくなる。したがって、携帯電話でもIP電話が容易に実現できるようになる。YOZANはこれを狙っている。

こういう状況なので、現在携帯電話に関わっている企業はうかうかしていられない。ノキアはWiMAXフォーラムの設立メンバーの1社だが、2004年に一時脱退し、翌月すぐ再加入した。これは、同社のWiMAXへの対応の戸惑いを端的に示しているのかもしれない。下手をすると、現在の携帯電話の覇者は、WiMAXの新興企業にシェアを食われてしまうおそれがある。そして、開発途上国や僻地のインターネット接続の方が、先進国の大都市のADSLなどより、安く、高速になってしまう可能性もある。

OHM20056月号

 

[後記] YOZAN200512月からWiMAXのサービスを開始していたが、基地局の展開の遅れなどにより事業が軌道に乗らず、20086月にWiMAX事業から撤退した。

前記のタワーストリームは、従来のネットワークを20084月から順次WiMAXに切り替え、現在全米9か所の大都市圏でWiMAXのサービスを提供している。

WiMAX全般のその後の状況については、「OHM20066月号「WiMAXはどうなる?」をご参照いただきたい。

 


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