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ヨーロッパ今昔シリーズ (7)

ヴェネツィア今昔

酒井 寿紀

はじめに

この「ヨーロッパ今昔シリーズ」を始めたいきさつについては「パリ今昔」の「はじめに」をご覧下さい。

「現在」の写真はすべてGoogleのStreet Viewによるものです。

「約100年前」の写真はすべて当時の写真集から取ったものです。撮影日時、発行元等の記載はなく不明です。

新旧対比表

No. 約100年前(1900~1920年頃?) 現在(2020年)
1

 サン・マルコ寺院 (Basilica di San Marco)
 サン・マルコ広場の東側にあり、ドゥカーレ宮殿(No. 4)に続いている。
 9世紀から13世紀にかけて何回も改築されたが、それ以降はほとんど変わってないという。
 旗を掲げる3本のポールの台座は1505年以来のものだという。

2

 サン・マルコ広場 (Piazza San Marco)
 
サン・マルコ寺院の左脇からサン・マルコ広場を見たところ。
 今も昔も、手前で2匹のライオンの子供がこっちに尻を向けて広場の方を見ている。
 但し、昔ライオンの前にあった街灯は今はない。

3

 サン・マルコ寺院[内部] (Basilica di San Marco)
 サン・マルコ寺院の祭壇。
 ほとんど変わってないように見受けられる。

4

 ドゥカーレ宮殿1 (Palazzo Ducale)
 左の建物がドゥカーレ宮殿で、この左手にサン・マルコ寺院(No. 1)がある。
 運河の向こうに見えるのがサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会。
 右の写真の左下に積んであるのは巨大な「すのこ」で、出水時はこれを並べてその上を歩く。
 私が2000年に行った時はサン・マルコ広場が水浸しで、「すのこ」の上しか歩けなかった。     

5

 ドゥカーレ宮殿2 (Palazzo Ducale)
 No. 4を運河側から見たところ。1340年に建てられたという。
 かつてはヴェネツィア共和国の総督(ドージェ、Doge)の公邸で、政治の中心だった。
 現在は美術館として使われている。
 ティントレットの「天国」という世界最大の油絵(約25X7m)がここにある。     

 ドゥカーレ宮殿(中庭)(Palazzo Ducale)
 建物はほとんど変わってないようだ。

 奥に見えるドームはサン・マルコ寺院(No. 1)のドーム。

 ドゥカーレ宮殿前のゴンドラ乗り場
 右端の建物はドゥカーレ宮殿。その奥を右に行くとサン・マルコ広場に出る。
 護岸や街灯は昔のままのようだ。
 運河の対岸に見えるドームはサンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会。

   

 ため息の橋 (Ponte dei Sospiri)
 左の建物はドゥカーレ宮殿の裏側、右の建物は牢獄。
 宮殿の裁判で有罪になると、罪人はこの橋を渡って牢獄へ。

 

 アッカデーミア橋から見た大運河 (Canal Grande)
 
左手前の建物は1565年に建てられた「カヴァッリ=フランケッティ(Cavalli-Franchetti)館」。
 19世紀には一時ハプスブルク家に所有され、現在は国際的学術団体に使われている。
 右のドームはサンタ・マリア・デッラ・サルーテ(Santa Maria della Salute)教会

10

 リアルト橋 (Ponte di Rialto)
 12世紀の船をつないだ橋に始まって、何回も架け直され、
 現在の石造の橋が完成したのは1591年だという。

11 

 パラッツォ・デズデモーナ (Palazzo Desdemona)
 15世紀に建てられ、コンタリーニ家が所有していたため、パラッツォ・コンタリーニとも呼ばれる。
 コンタリーニ家の人とその妻が、「オセロ」の主人公とデズデモーナのモデルと言われる。
 両隣の家を含めて外観はまったく変わっていない。

 
12 

 リオ・サン・バルナバ (Rio San Barnaba)
 
ヴェネツィアにはこういう狭い運河(Rio)が無数にある。
 運河の右の白い建物はサン・バルナバ教会。奥はその鐘楼。


おわりに

"Street" はなくても "Street View" はある!

「ヴェネツィア今昔」を作るにあたって先ず心配したのが、「ヴェネツィアで "Street View" が使えるのだろうか?」ということだった。

ヴェネツィアでは道路と言えば大小の運河で、それをゴンドラやヴァポレット(Vaporetto; 水上バス)で行き来する。陸上には運河に沿った狭い通路がある位で、クルマはまったく使えない。自家用車もタクシーもトラックもない。"Street View" は、一般に屋根の上に360度の風景が撮れるカメラを積んだ特殊なクルマが街中を走り回って撮影したものだが、ヴェネツィアではどうしているのだろうか? もちろん、ヴェネツィア以外にもクルマが入れない公園等は世界中に多数あり、そういうところでも "Street View" は使えるが、そういうところは街のごく一部で、街全体にわたって撮影用のクルマが全く使えないのはヴェネツィアぐらいだろう。

こういう心配はあったが、とにかく他の都市と同じように作業を始めてみることにした。そしてできたのがこの「ヴェネツィア今昔」である。どのようにして撮影したのかは分からないが、他の都市とあまり変わらない程度の写真が用意されている。

古い写真をよく見ると、No. 8, 9, 12等、運河に架かっている橋の上から撮ったものがかなりある。昔のカメラはシャッター速度が遅く、揺れる船上で撮影することが困難で、地上のスペースは非常に限られているため、こうならざるを得なかったのだろう。橋の中央部はゴンドラの往来のため高くなっているので、撮影に便利だったためもあるだろう。こういう場所は、 "Street View" でも使っていることが多いので、同じ地点を容易に見つけられる。

最も変化のない街

ヴェネツィアの「新旧対比表」を見てみると、今までに取り上げた都市の中で、ヴェネツィアが一番この100年間の変化が少ないように思われる。100年前との違いがはっきり分かるのは、サン・マルコ広場の街灯が少なくとも1本は減っていることぐらいだ。(No. 2)

もちろん、写真にはないが、ヴァポレットの乗り場等、この100年間に新設されたものもあり、また、リド島など最近開かれたところには新しい建造物も多いものと思われる。しかし、100年ほど前の写真集に載っている旧来のヴェネツィアの名所は、現在もほとんどそのままの姿なので驚く。この100年間「塩漬け状態」が続いたようだ。

 

 (完) 2021年5月23日


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