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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー2016年1月号 掲載        PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)

      

ITの昨日、今日明日

  

第13回 AI(人工知能)は人間を超えるか?

酒井ITビジネス研究所  代表 酒 井 寿 紀

 

チェスや将棋の名人が敗退!

まだコンピュータの製作が大学や研究所の研究対象だった1960年頃、簡単なコンピュータを作ると学園祭などで展示していました。コンピュータは元々計算を主目的にしたものですが、計算して見せても来場者はちっとも面白くないので、よく「三ツ山崩し」というゲームで来場者と対戦させていました。

このゲームは、マッチ棒などを三つの山に積んでおいて、対戦者が交互に一つの山から1本以上のマッチ棒を取り、最後の1本を取らされ方が負けというものです。簡単な勝ち方があるのですが、初めてやる人にはそれを見破るのは難しく、結構ウケていました。 

その後コンピュータが高速になり、記憶容量も増えて、複雑な論理操作ができるようになると、次々と高度なゲームへの挑戦が始まりました。

ゲームの中ではオセロが比較的単純なため、最も早くコンピュータが人間並みの強さになりました。1ゲームだけですが、1980年に早くもコンピュータが当時の世界チャンピオンを破りました。

チェスでもコンピュータ対人間の戦いが続きました。これは指す手の選択肢が多すぎて、最後まで読み切ることが三ツ山崩しやオセロのように簡単にはできないため、人間並みの強さになるにはかなり時間がかかりました。しかし、1997年に、IBMが開発した「ディープ・ブルー」というチェス用の特殊なコンピュータが当時の世界チャンピオンのカスパロフを破りました。

将棋は、取った駒を活用することができるため、さらに複雑で、より時間がかかりました。しかし、2012年に米長邦雄元名人を破るまでになりました。

コンピュータの処理能力の進歩はまだまだ続くので、一たび世界チャンピオンクラスを破れば、人間との力の差はどんどん開いていきます。チェスや将棋のような有限な盤面での競技は、いずれ三ツ山崩しのように最終局面まで完全に読み切ることができるようになると思われます。

 

「ワトソン」、クイズ王を破る!

米国のテレビに「ジェパディ!(Jeopardy!)」という人気クイズ番組があります。3人で戦い、英語での質問に、ボタンの早押し競争に勝った人が回答できるのです。質問は6つの分野に分かれていて、正解した回答者が次の質問の分野を選びます。

例えば、「空港」という分野の質問は、「2006年に60年になったロンドンのこの空港は、それまでに14億人の乗客を扱いました」(正解は「ヒースロー」)などです。また、「歴史上の女性」という分野の質問には、「この女性は1887年から彼女が死んだ1936年までヘレン・ケラーの先生でした」(正解は「サリヴァン」)というものがありました。

IBMが「ワトソン(WatsonIBMの創業者の名前)」という特殊なコンピュータを開発してこのクイズに挑戦しました。質問の英文が他の回答者と同時にテキスト情報で与えられ、司会者がそれを読み終わってランプが点灯後、回答が分かれば他の回答者と同様に物理的にボタンを押して、音声合成で回答するのです。

ワトソンはディスクの中に、ウィキペディアの全文を含む2億ページのデータを蓄えて、あらゆる分野の質問に備えていたとのことです。

このワトソンが2011年に「ジェパディ!」のそれまでの2人の賞金王と戦い、優勝して100万ドルの賞金を獲得しました。

こうして、コンピュータがいろいろな分野で、自然言語での質問に対して人間と同等以上の速さで答えられることが示されました。IBMは現在この技術のビジネスへの展開を進めています。

 

「かな漢字変換」が一段と利口に

日本語のコンピュータへの入力には「かな漢字変換」という面倒な作業が必要です。1つのかなに対して1つの漢字しか対応しないときは話は簡単ですが、例えば名前の「ひろし」に対して、「弘」、「博」、「洋」、「宏」のように候補が多数ある時は厄介です。そこで気の利いたかな漢字変換のソフトは、ユーザーの過去の使用実績を記憶しておいて、その人の使用頻度が高い漢字から順に表示するようにしています。

最近のソフトは、さらに姓と名前の関連まで覚えておいて、その人の過去の使用実績から、同じ「ひろし」でも、ある姓に対しては「博」に、別の姓に対しては「洋」に自動的に変換してくれます。

また、めったに使われない漢字を入力するときは、最初は手書き入力などが必要ですが、何回も使っているうちに自動的に変換してくれるようになります。

このように、学習能力を備えていて、使えば使うほど個々のユーザーの要望を満たしてくれるようになるソフトが増えています。

 

「特異点(シンギュラリティ)」が来る?

このようにして、コンピュータは単なる計算だけでなく、人間の頭脳のさまざまな論理的作業を代行してきました。これはAI (Artificial Intelligence:人工知能)と呼ばれています。そして、前記の例のほか、機械翻訳、個々の消費者の嗜好に合った商品の推奨など、多方面への応用が広がっています。

最近このAIの進歩に警鐘を鳴らしている人達がいます。AIが進歩して人間を追い越す時点を「特異点(シンギュラリティ)」と名付けて、2030年のうちにこの特異点が来るだろうと主張しているのです。そして、特異点に達すると、機械が自己増殖して新しい機械を作り出すので、人間の手に負えない機械が世の中に氾濫する時代が来るというのです。

しかし、計算速度や記憶容量でコンピュータが人間を追い越したのは50年以上前です。そしてこの20年間に、チェスや将棋で人間に勝つようになりました。

現在は、翻訳や顔認識の能力も人間に近づいています。そして、近年中にクルマの自動運転も実現するだろうと言われています。

しかし、コンピュータは、モーツァルトに負けない音楽を作曲したり、ピカソに劣らない絵を描いたりできるようになるでしょうか? また、「ひらめき」が必要な、アインシュタインやエジソンに匹敵する発見・発明ができるようになるでしょうか?

人間の能力には様々な面があります。コンピュータの能力が人間を超える時点を特異点と言うなら、コンピュータの歴史は特異点の連続でした。そして特異点は今後も続くでしょう。それはもはや特異点とは言えないのではないでしょうか?

 


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