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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー 」2015年10月号 掲載 PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)
ITの昨日、今日、明日
酒井ITビジネス研究所 代表 酒 井 寿 紀
最近新聞などで、「IoT」(Internet
of Things:モノのインターネット)という言葉をよく目にします。これは、どのようなもので、これからどうなっていくのでしょうか?
「言い出しっぺ」はイギリス人
IoTという言葉を初めて使ったのは、ケヴィン・アシュトンというイギリス人です。この人は、1999年にマサチューセッツ工科大学に「オートIDセンタ」という組織を作って、すべての商品に無線タグを取り付ける活動を始めました。そうすることによって、小売店のレジの合理化、店頭での品切れ防止などを図ろうとしたのです。この計画には、米国最大の小売業者であるウォルマートなどが大変力を入れました。しかし、無線タグの価格の問題などのため、これは当初の計画のようには進みませんでした。
アシュトン氏は、商品の流通過程だけでなく、将来は、その製造工程から消費者が廃棄するまで、一貫したコードを付けておくことによって、製品事故があった時の追跡、修理の時の製造来歴の調査などにも役立つと唱えました。そして、製品の膨大なデータを蓄積し、流通させるのにインターネットが使われるようになると考え、1999年に、同氏はそれを「モノのインターネット」と名付けました。
しかし、この言葉はすぐにははやりませんでした。むしろ、似たような意味の「M2M」(Machine-to-Machine)という言葉の方が広く使われえていたように思います。ところが、携帯電話回線を使ったインターネットの普及でこういうシステムが非常に簡便に実現できるようになり、いわゆる機械の範囲を超えて広く使われるようになると、IoTという言葉の方がより一般的になりました。
では、IoTはどういうものに使われているのか、実例を見てみましょう。
監視カメラから遠隔医療まで
現在の渋谷の駅前交差点のライブ映像を、全世界からいつでもインターネットで見ることができます。また、動画ではありませんが、浅間山の噴火の状況なども常時チェックできます。これらの映像は、無人の監視カメラがインターネットに送出しているのです。
また、世界中で使われている自社製品の稼働場所や稼働状況をインターネットで自社のセンタに送り、機器の点検や修理に活用している企業もあります。工作機械のように一定の場所で使われるものは、固定回線のインターネットでもデータを送れますが、携帯電話回線のインターネットの出現によって、建設機械のように稼働場所がしょっちゅう変わるものについても、それが可能になりました。
クルマで出かける時は、道路の渋滞状況が非常に心配です。VICSを装備していれば主要な道路の渋滞状況は分かりますが、車両の流れを検知していない道路の状況は分かりません。
そこで一部の自動車会社は、自社の車両に携帯電話回線でインターネットに接続する機能を装備し、一定時間間隔でクルマの現在位置などを自社のセンタに送信しています。こうして集まったデータから区間ごとの平均速度を算出して、渋滞情報や目的地までの推定所要時間を自社のクルマに配信するのです。走行中の車両自体が渋滞状況の検出器(プローブ)として使われるので、プローブ情報システムとも呼ばれています。
現在は自動車会社ごとに別のシステムですが、将来は全車両のデータを統合して渋滞情報の精度を上げることが望まれます。
日本の市街地には、いたるところにジュースなどの自動販売機が設置されています。その管理会社にとっては、商品の品切れ防止と補充頻度の低減が大きな課題です。そのため、自動販売機に商品の残数のセンサと携帯電話回線への接続機能を設け、センタで残数を常時監視するシステムが現れています。
一人暮らしの人にとっては、外出先で自宅のエアコンのスイッチを入れることができれば、帰宅したときに自宅が適温になっているので快適です。こういうことができるように、インターネットで電源のオン/オフや設定変更ができ、どこからでもスマートフォンで操作できるエアコンが現れています。今後はさらにいろいろな家電製品でこういうことができるようになると思います。
インターネットが普及する前から遠隔地の機器間でデータを送受信しているシステムは多数あります。例えば、気象庁の雨量や地震の震度のデータ、警察の道路交通情報の収集システムなどです。これらについても、今後インターネットの活用による経費の節減が課題になると思われます。
また、高齢者の増加に伴い、遠隔医療の実施が期待されています。患者に、血圧、脈拍、血糖値などのセンサを取り付けて、携帯電話回線を使って医療センタで常時監視するのです。インターネットによる人の監視をIoTに含めることには違和感を覚える人もいるかもしれません。しかし、技術的には、これは家畜の管理と同じようなものなのです。
このように、多くの機器がインターネットに接続されるようになりつつあります。そして、機器単体をインターネットに接続するだけでなく、機器同士を連携させて、まったく新たなシステムを実現しようとする活動も始まっています。スマートグリッドと呼ばれるものは、各家庭や工場の電力消費量と、太陽光発電などによる発電量を常時把握し、地域全体で電力の需給を最適化しようとするものです。
2020年に500億?
コンピュータの稼働台数は、本格的に使われだした1960年代以来どんどん増え続け、今世紀に入ってスマートフォンが出現するとさらに一段と増えました。しかし、2017年にはスマートフォンの稼働台数が全世界の人口75億人の3分の1に達すると言われています。そのため、人が使うコンピュータのこれ以上の劇的な増加はもう期待できそうもありません。
したがって、人以外のものを対象にする市場を開拓しないと、IT産業のさらなる発展は困難なのです。そこで現れたのがIoTです。IoTはコンピュータのユビキタス化の究極の姿なのです。
米国のシスコシステムズ社は、2020年(注)に500億のモノがインターネットに接続されると予想しています(1)。しかし、全製品、全家畜などがIoTの対象になる可能性があることから、数量の将来予想は極めて困難なことを承知しておく必要があります。
(注) 掲載誌の「2017年」を「2020年」に訂正。
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(1) "Seize New Product and Revenue Opportunities with the Internet of Things", Cisco Systems
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