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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー2015年4月号 掲載        PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)

      

ITの昨日、今日、明日

  

10回 ソフトはハードより固い?

 

酒井ITビジネス研究所  代表 酒 井 寿 紀

 

 

ソフトは長命?

われわれが日常使っているパソコンのソフトウェアは、生まれてからどれぐらい経っているのでしょうか? 

主なソフトの年数は表に示すとおりです。

ワードプロセッサのWord、表計算のExcel30年以上になります。また、画像編集のPhotoshop、ビデオ編集のPremiere24~25年経っています。

メインフレームやサーバのソフトの一例も表に示しました。

     現在広く使われているアプリケーションソフト
分  類

製品名

ベンダー 初版リリース 経過年数

パソコン用

 

     

ワードプロセッサ

Word

マイクロソフト

1983年(DOS版) 32

表計算

Excel

マイクロソフト

1985年(Mac版) 30

プレゼンテーション

PowerPoint

マイクロソフト

1987年(Mac版) 28

音楽制作

Cakewalk (SONAR)

ケークウォーク

1987年(DOS版) 28

画像編集

Photoshop

アドビシステムズ

1990年(Mac版) 25

ビデオ編集

Premiere

アドビシステムズ

1991年(Mac版) 24

メインフレーム/サーバ用

 

   

ERP(企業資源計画)

SAP

SAP

1973 42

3次元CAD

CATIA

ダッソー・システムズ

1981 34

 

ERP (Enterprise Resource Planning : 企業資源計画)のソフトのSAPは、元IBMのドイツ人5人によって開発されたものですが、商用版がリリースされてから42年経った現在でも世界中の企業で使われています。

3次元のCAD (Computer-aided Design)CATIAは、元々フランスの航空機製造会社のダッソーが自社用に開発したものですが、一般に公開されてから34年経った現在でも、ダッソーのほか、ボーイングやエアバスなどの航空機メーカー、ダイムラー、BMW、クライスラー、本田技研工業など多数の自動車会社で使われています。この間にCATIAに使われるコンピュータはIBMのメインフレームからUNIXWindowsのサーバへと変ってきました。

このように、1970年代から1980年代にかけて生まれたソフトが現在でも数多く世の中で活躍しているのです。もちろん当初リリースされたものに比べれば、機能が格段に強化され、マルチウィンドウやマウスによる操作など、OSの新機能を取り入れて操作性も改善されていますが、基本的なファイル形式は当初のものを引き継いでいるものも多数あります。

この間にハードウェアは大きな進化を続け、演算速度やメモリ容量は劇的に進歩し、周辺機器の接続方法や通信回線の使い方が大きく変化しました。ハードは、それに合わせて数年ごとに買い替えるのが一般的です。

それに比べると、ソフトは一つの製品をいつまでも使い続けています。どうしてなのでしょうか?

 

ソフトは「一強」に

ハードは、パソコンにしてもサーバにしても、同じような仕様の製品が世界中に多数あって競争しています。ユーザーはこれらの中から自分に最適なものを選べばいいのです。

しかしソフトの世界では、一時的に複数の製品が競っていても、やがて勝負が決まり、分野ごとに「一強多弱」の市場になりがちです。表に示したソフトは、すべてこうして勝ち残ってきた「一強」です。

ソフトが「一強」になってゆく理由の一つは、その原価のほとんどが固定費のため、ユーザーが多い製品が圧倒的に有利で、いったん市場シェアに差が付くと、それがどんどん広がることが多いためです。

そのため、ソフトのベンダーはあらゆる手を使ってシェアの拡大に努めてきました。たとえばマイクロソフトは、パソコンにOSだけでなくWordExcelもプリインストールすることによって、これらの製品のシェアを高めてきました。また最近は、ソフトを無料でダウンロードできるようにして、ユーザーの獲得を図っているところもあります。

中には、PhotoshopのベンダーがPhotoStylerのベンダーを買収したように、競合相手を買収してその製品の提供を打ち切り、その顧客を自社製品で取り込むというようなことも行われてきました。

このようにソフトの世界では、ハードの世界以上に企業の淘汰が激しいのが現実です。ここで気を付けないといけないのは、必ずしもいい製品が「一強」として生き残るとは限らないことです。たとえば、ワードプロセッサでは、1980年代には、米国では「WordPerfect」、日本では「一太郎」が高い評価を得て普及していましたが、両者ともWindowsへの対応の遅れとマイクロソフトのたくみな販売戦略によって、Wordに顧客を奪われてしまいました。

こうして「一強」がはっきりした分野が多い中で、まだ群雄割拠が続いている分野もあります。例えば、パソコンのソフトではブラウザやメールクライアント、企業用のソフトでは銀行の勘定系システム用パッケージやCRM (Customer Relationship Management : 顧客管理)のソフトなどです。

 

ソフトの切り替えには大変な労力が必要

ソフトがハードより長命になるのには、ユーザー側の事情もあります。

いったん一つのソフトを使いだすと、他のソフトへの切り替えが難しいのです。たとえば、ワードプロセッサや表計算のソフトを切り替えれば、過去に作った文書や図表を再利用することが困難になります。また、メールクライアントを切り替えれば、過去に送受信したメールを読めなくなり、宛名印刷ソフトを切り替えれば住所録ファイルが使えなくなる恐れがあります。

このように、ファイル形式の違いによる問題が起きるほか、操作方法の違いから、慣れるまでに相当時間がかかります。

ソフトを使い出すのは、いわばそれと結婚するようなもので、離婚・再婚には大変な労力が要るのです。

 

ソフトは一生使う覚悟で!

名前から、ハードは固いので容易に変形できないが、ソフトは柔らかいのでいつでも必要に応じて変えられると考えると、大きな過ちを犯すことになります。

ハードは3~4年経てば、より安く、より高性能で高機能のものが現れるので、その時点で一番いい製品を選べばいいのです。仕様が全世界で事実上標準化されているものが多いので、メーカーや生産国にこだわる必要はありません。メーカーが独自機能を宣伝しているような製品は極力避け、標準仕様に近い製品を選んで、買い替え時の選択肢を常に広げておくことが長期的には得策だと思います。

しかし、ソフトは違います。いったん使いだすと、前記のように切り替えが困難なため、個人用ソフトは一生、企業用ソフトも数10年にわたって使い続けることになる可能性が高いからです。

ソフトを選ぶときは、その時点での価格や性能、機能を比較するだけでは不十分です。より重要なのは永続性です。難しいことですが、ベンダーの素性や経営状態などをよく調べて、撤退したり買収されたりする恐れがないかを十分に確認する必要があります。

 


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