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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー2015年1月号 掲載        PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)

      

ITの昨日、今日、明日

  

9回 テレビゲームがITの新時代を切り開いた!

 

酒井ITビジネス研究所  代表 酒 井 寿 紀

 

スーパーマリオが大活躍・・・ファミコン

1983年に任天堂がファミリーコンピュータ(通称:ファミコン)を発売して、テレビゲームの新時代が始まりました。ファミコンは爆発的な売れ行きを示し、国内累計販売台数が3年半で1,000万台に達しました。1990年代に入ってソニーやマイクロソフトが参入するまでは、この市場はファミコンの独壇場でした。

当時は、大型コンピュータの端末の画面が白黒で、文字が表示されるだけでした。ところが、14,800円のファミコンに接続したテレビの画面では、色鮮やかなスーパーマリオが飛んだり跳ねたりするのです。

やがて、大型コンピュータの端末にもカラーの画像が表示されるようになりました。

また当時の端末は、一般的にキーボード入力と文字の表示だけに使われ、データの処理はすべてコンピュータ本体で行われていました。そのため、端末からの指令に対する応答に時間がかかっていました。ところがファミコンのカーレースやシューティングのゲームでは、ボタン操作に瞬時に画面が反応するのです。

やがて大型コンピュータの端末にパソコンが使われ、一部の処理がユーザーの手元で行われるようになって、応答時間が大幅に短縮しました。

このように大型コンピュータは、いろいろな点でファミコンをはじめとするテレビゲームの後を追いかけて進歩してきました。しかし、テレビゲームが影響を及ぼしたのは、こういう技術面だけではありません。

当時のコンピュータのソフトには、必ず分厚いマニュアルが添付されていました。ところがファミコンのゲームには、遊び方を説明したマニュアルなどほとんど付いていませんでした。簡単な説明書があっても、子供たちはそんなものを見もしないで遊び始めるのが普通でした。いろいろ試してみて、隠し機能を捜し当てたり、バグを見つけて利用したりするのも楽しみ方のうちでした。

こうして育った世代は、分厚いマニュアルよりも、直感的に操作できるソフトの方を望むようになりました。「説明書がないのけしからん」という態度から、「やってみてできれば、それでいい」、「1つの方法がダメでも、他の方法でできればいい」という考え方に変わりました。

最近のスマートフォンなどのソフトにはほとんどマニュアルが付いていませんが、ファミコンはコンピュータのソフトがマニュアルレス化の方向に進む下地を作ってくれました。

コンピュータのOSなどの基本ソフトは、当初はハードの無料の付属品でした。ところが、その量がどんどん増えて、無料で提供するのが困難になりました。そのため、コンピュータ会社は基本ソフトの有償化を図ろうとしましたが、無料だったものの有償化はなかなか受け入れてもらえず、困っていました。

ところが、ファミコンで遊ぶためには有料のソフトを買う必要があることは、ファミコンで育った世代には常識でした。こうして、ファミコンはソフトの有償化をバックアップしてくれたのです。

当時の大型コンピュータでは、業務用のソフトは自社で開発するか、ソフト会社に発注して作らせるのが一般的でした。つまり自家製かオーダーメイドです。それに対し、多数の企業が使える汎用性があるレディーメイドのソフトはパッケージソフトと呼ばれ、欧米ではかなり早くから普及していましたが、自社の伝統を尊重する日本ではなかなか広まりませんでした。

ところがファミコンでは、大量に揃っているゲームソフトの中から自分が欲しいものを買ってきて遊ぶのです。ソフトのパッケージ化を進める上でも、ファミコンは貢献しました。

 

加速度センサ登場・・・Wii

2006年に任天堂がWii(ウィー)を発売しました。これに添付されているリモコンを手に持って、テニス、ゴルフ、ボーリングなどをプレーする時と同じように腕を振れば、これらのスポーツで遊ぶことができます。ボールの打ち方が悪いと、テニスでボールをネットに引っかけたり、ゴルフでOBを出したりします。これを実現しているのは、リモコンに内蔵されている加速度センサとジャイロスコープです。

2007年以降、スマートフォンにも加速度センサやジャイロスコープが内臓され、自動的に画面の縦横を切り替えたり、機器を振ることによって操作を取り消したり、歩数計のソフトで歩数をカウントしたりできるようになりました。

今後のウェアラブル端末の時代には、これらのセンサを腕や脚に複数取り付けて身体の動きを詳細に計測し、スポーツのトレーニングなどに活用するようになると思われます。

 

ジェスチャー入力が可能に・・・Kinect

2010年にマイクロソフトがKinect(キネクト)を発売しました。これを同社のゲーム機Xbox 360に取り付けると、ゲーム機の前で、リモコンを持たず素手でジェスチャーをするだけで、いろいろなスポーツやゲームができます。Kinectは可視光線のカメラのほか、赤外線のプロジェクタとカメラを備えていて、機器の前にいる人物の動きを3次元的に認識し、これによって素手で遊ぶことができるのです。

この技術を利用して、リモコンを使わずにジェスチャーだけで簡単な操作ができるパソコン、テレビ、照明機器、エアコンなどが検討されています。

 

今後はスマートフォンが先導?

このようにテレビゲームが、ある面ではスーパーコンピュータ以上にITの新時代を切り開いてきたのはなぜなのでしょうか?

テレビゲームの累計販売台数のベスト3は、ソニーのPlayStation 2が約1.5億台、同社の初代PlayStationと任天堂のWiiがそれぞれ約1億台という大変な数です。1機種の販売台数が多ければ、多額の開発費を投じても元が取れるので、他の製品に先駆けていろいろな新技術を取り込んできたのです。そして、テレビゲームは所詮オモチャですから価格を抑える必要があり、安く実現する方法が真剣に検討されました。その結果新技術の価格が下がり、他のIT製品にも適用されていったのです。

現在はスマートフォンがさらに出荷台数を増やしつつあり、2013年には全世界で10億台を超えたということです。そのため、今後の新技術の先導役はスマートフォンに引き継がれるものと思われます。

 


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