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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2014年10月号 掲載        PDFファイル

 

Windowsの更改が進まない訳は?

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

 

Windows XPのサポートが終了

20144月にマイクロソフトのWindows XPのサポート期間が終了した。XP2001年にリリースされたパソコン用のOSである。その後、Windows VistaWindows 7Windows 8と引き継がれてきたので、XPは現在のWindows 88.1を含む)の3世代前のOSで、リリース後12年以上経っている(a)

最近のWindowsのサポート期間は、通常リリース後10年間なので、XPのサポート期間はこれらに比べても長い。そのためマイクロソフトは、OS更改のメリットを強調して、新OSへの切り替えを盛んに薦めている(b)

その対応状況について、「日経コンピュータ」2014724日号が、ノークリサーチの調査結果を紹介している。それによると、年間売上高550億円の中堅中小企業の20144月時点での状況は、「XPの利用を今後もしばらくは継続する」が13%もあったという。その理由は、「利用中の業務システムがXP以外のOSでは動かない」が31%で、「PCOSの刷新に必要な費用が捻出できない」が24%だったという。

マイクロソフトは、新OSへの移行は容易で、メリットが多いと強調しているが、現実には移行への抵抗が根強いようだ。小生のOS更改の経験からその理由を考えてみよう。

 

OSのバージョンアップに便乗して拡販?

ひとつの問題は、自社開発のソフトに限らず、市販のソフトや機器についても、OSを更改すると使えなくなってしまうものが多いことだ。

例えば、小生がWindows Vistaで使っていた2009年版の会計ソフトは、64ビット版のWindows 7以降では使えない。そのため、小生はWindows 8に切り替えた現在でも、実用上は支障がないため、2009年版をVistaのパソコン上で使っている。

また、Windows XPで使っていた宛名印刷ソフトは、Vistaでは使えず、新バージョンの購入を余儀なくされた。そして、その新バージョンもWindows 8では使えず、再び有償のアップグレードが必要だった。

周辺機器についても、Vistaで使っていたスキャナーにはWindows 7以降のドライバが用意されてないため、これを使うにはVistaのパソコンを残しておく必要があった。

将来のOSの変更に対応できるソフトや機器の開発には困難を伴うが、ベンダーは極力、長期間使える製品の開発に努めるべきだ。例えば、OS64ビット化などは10年以上前から予想できたはずだ。そして新OSに対応するための最低限の変更は、機能強化とは分けて無償で提供するべきだ。

現状は、OSのバージョンアップに便乗して新製品を売り込もうとするハード/ソフトのベンダーが多いようだ。

 

新製品が機能後退?

しかし、カネと手間をかけてソフトや機器を新製品に切り替えれば、従来と同等なことができるときはまだいい。実際は、新製品では従来できたことができなくなることがしばしばある。

小生はウェブページの作成にマイクロソフトのFrontPageというソフトを使っていたが、このソフトは2003年版を最後に廃版になった。その後継ソフトは、新機能を大幅に取り込んだものだが、操作方法が大きく違い、また従来の機能で十分なユーザーには余計な機能が多くて使いにくい。そして、FrontPageWindows 7以降では使えなくなった。

また最近のソフトには、従来クライアント側で行っていた処理をサーバー側に移し、クラウド・サービスとして提供するようになったものが多い。アドレス帳やスケジュール表の管理、写真や音楽のファイルの管理、パスワードの記憶機能などだ。

クラウド・サービスには利点もあるが、情報漏洩、データ消失等のリスクがあるため、利用を避けたい人もいる。新ソフトにはクラウド・サービスしかないとき、小生を含め、こういう人は古いソフトを使い続けるしかない。

また、小生がVistaで使っていたプリンタは厚手の封筒にも印刷できたが、同じメーカーの新製品では、これができなくなった。そして、旧製品のプリンタにはWindows 8用のドライバがないため、Vistaのパソコンも継続使用している。

 

最低10年間は使える製品を!

このように、Windowsの更改が進まないのは、Windowsを取り巻く製品にも大きな原因があるように思う。

そして、そもそもシステム更改のニーズが減りつつあることが根底にあると思われる。

パソコンも、事実上の世界標準のIBM PCが生まれてから30年以上経ち、いまや成熟製品になった。今までのような急激な進歩はもう望めない。そうなると、新製品に真っ先に飛びつくより、安定して使っている現システムを使い続ける方がだんだん得策になってくる。特に、定型業務に使っている企業では、機器が壊れない限り、現在のシステムを「塩漬け」状態で使い続ける方が、カネもかからず、システム更改に伴うリスクも避けられる。

そのため、今後ハード/ソフトのベンダーには、機器の修理費は別にして、10年以上は追加出費なしに使える製品の提供が求められる。これはベンダーの自主性に期待するしかないことだが、ユーザーやメディアには、ベンダーの姿勢に目を光らせ、適確に情報を開示することが求められる。

   

関連記事]

(a)  "Windows lifecycle fact sheet", Microsoft

       (http://windows.microsoft.com/en-us/windows/lifecycle

(b)  "Windows XP support has ended", Microsoft

       (http://windows.microsoft.com/en-us/windows/end-support-help)  

    


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