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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2014年8月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
死後のデータの扱い
最近はインターネットで、無料で個人のデータを公開できるようになった。メール、ブログ、SNS
(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、スケジュール管理などを無料で提供している事業者のサービスを利用すればよい。
これらのサービスでは、サービス提供者が利用者のデータを自社のサーバに格納して預かることになる。メールのサービスのために連絡先のメールアドレスのファイルも預かる。こうして、スケジュール表、アドレス帳などをインターネット上のサーバに置いておけば、世界中のどこからでも、どの端末からでも利用できるので大変便利だ。
こういうサービスを活用して、自作の写真やビデオや文書を公開している人も多い。わざわざ自分のウェブサイトを開設しなくてもよいので、手間もカネもかからない。
公開に当たっては、誰でも閲覧可能にするか、仲間内だけで閲覧可能にするかを指定できる。また、自分だけしか利用できない、バックアップ・ファイルの格納場所として利用できるものもある。
これらの無料サービスは、普及しだしてからせいぜい10年程度なので、その利用者の大半は現在まだ生存している。しかし、人間はいずれ死ぬ。利用者の死後、これらのデータはどうしたらいいのだろうか?
利用者側としては、次のような要望が考えられる。
個人的なメールなどは、プライバシー保護上、死後に即刻廃棄したい人もいるだろう。一方、写真、ビデオ、文書などは、少なくとも一定期間公開を続け、家族や友人などが引き続き閲覧できるようにしておきたい人もいるだろう。遺族の中にも、故人のSNSでの交信記録などを思い出として残しておいてもらいたい人もいるだろう。
これらのユーザーニーズに応えることは、サービス提供者にとってユーザーサービスの一環である。
一方、サービス提供者にとっては次のような問題がある。
公開されている写真、ビデオ、文書の中には、閲覧者が多く、作者の死後も掲載しておいた方が、サイトの人気を維持するために有益で、また引き続き広告料収入も期待できるものもある。しかし、作者の死後こういう利用価値がまったくないコンテンツも多い。
そして、今後死んだ人のデータ量がどんどん増え、いずれ生きている人のデータ量を超える。そのため、サーバの設備容量が無限に増え続け、何らかの対応策が必要になる。
これらの問題に対して、サービス提供者はどう対応しようとしているのだろうか? 代表的な事例を見てみよう。
フェイスブックの「追悼」の扱い
SNSのフェイスブックでは2009年10月から、利用者が死亡した時、その家族、親戚などが死亡した人のアカウントを「追悼(memorialized)」扱いに申請できるようになった(a)。「追悼」扱いになると、誰もそのアカウントにログインできなくなり、データの追加、変更、削除が不可能になる。「友達」の追加や削除、プライバシー設定(閲覧者の限定)の変更もできなくなる。
当初は、この「追悼」扱いのアカウントを閲覧できるのは、そのアカウントの「友達」だった人に限られていた。しかし、2014年2月から、生前のプライバシー設定に基づいて閲覧できるようになった(b)。そのため、全員に公開されていた写真などは、引き続き誰でも閲覧できる。
グーグルの「アカウント無効化管理」
グーグルのアカウントを取得すれば、メール、ブログ、SNS
、写真・ビデオ共有、ファイル共有などのサービスを無料で使える。これらのサービスの利用者のデータはグーグルのサーバに格納される。
これらのデータについて、グーグルは2013年4月に、アカウント設定の中の「アカウント無効化管理(Inactive
Account Manager)」で、次のような指定をできるようにした(c)。(1)
最後のログインから3〜18か月の指定した期間経過後、アカウントは「無効(inactive)」になる。(2)
「無効」になる1〜3か月前の指定した時点に警告をくれる。(3)
アカウントが「無効」になった時点でアカウントを削除して全データを廃棄するか、または事前に登録した10人以内の人(いわばデータの相続人)に通知することができ、通知された相続人は、事前に指定されているデータを3か月以内にダウンロードできる。
こうして、グーグルの無料サービスを利用して写真、ビデオ、文書などを公開している人は、事前にデータの相続人を決めて死後の扱いを託しておけば、死後の扱いをグーグル任せにしないで、別途公開するなり廃棄するなりできるようになった。
今後の問題は?
現在個人が無料サービスで公開しているデータの中には、閲覧者が多く多数のリンクが張られているものもある。しかし、上記のような死後の扱いでは、現在の公開がいつまで続くかはまったく業者任せだ。今後、試行錯誤を繰り返しながら、利用者もサービス提供者も満足のいく方法を探っていくことになると思われる。
そして、有料のサーバで公開しているデータは、契約者が死亡すればすべて廃棄され閲覧不能になる。
インターネットでデータを公開している人は、死んだときの財産の相続とともに、データの取り扱いも考えておかないといけない時代になった。
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(https://www.facebook.com/notes/facebook/memories-of-friends-departed-endure-on-facebook/163091042130)
(b) "Remembering Our Loved Ones", February 21, 2014, Facebook
(http://newsroom.fb.com/news/2014/02/remembering-our-loved-ones/)
(c) "Plan your digital afterlife with Inactive Account Manager", 2013/04/11, Google
(http://googlepublicpolicy.blogspot.jp/2013/04/plan-your-digital-afterlife-with.html)
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