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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2014年7月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
スマートフォンがクルマの中に
2013年8月号と9月号の本コラムで、今後のカーナビゲーション(カーナビ)を取り上げ、次のように記した。
クルマが常時インターネットにつながるようになり、その接続にはスマートフォンが広く使われるようになる。そうなると、車載器はスマートフォンの画面の表示と入力操作だけを行う簡単なものでよくなる(1)。スマートフォンと車載器のインタフェースについて、MirrorLinkという標準仕様を制定しようという動きがあるが、スマートフォンの2大陣営のグーグルもアップルも参画していない標準化にはあまり意味がない(2)。
この問題はその後どうなっただろうか?
アップルとグーグルが本格的に進出
アップルは2013年6月に、iOSを使った同社のスマートフォンを車載器に接続するiOS
in the Carというシステムを発表した。これによって、スマートフォンの画面がダッシュボードのディスプレイに表示され、簡単なボタン操作と音声入力で、スマートフォンのカーナビ、電話、メール、音楽再生などの機能が使えるようになるという。
今年3月に、この名称はCarPlayに変更され、接続方法などが具体的に明らかになった。そして、フェラーリ、メルセデス・ベンツ、ボルボが採用を発表した。アップルによると、BMW、フォード、GM、PSA、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研、三菱自動車、富士重工業なども採用予定という(a)。
一方、グーグルのAndroidを使ったスマートフォンのカーナビ機能は、2009年以来欧米を中心にしてスマートフォン単独での簡便なカーナビとして使われてきた。これを車載器と連動する方式について、グーグル自身はまだ正式に発表していないが、今年3月にメルセデス・ベンツの求人広告からその一部が漏れて話題になっている。それによると、グーグルもProjected
Modeという名前で、アップルのCarPlayと同様にスマートフォンを車載器に接続する計画を推進中で、メルセデス・ベンツはアップルとグーグルの両社のスマートフォンに対応しようとしているようだ(b)。
こうして今年は2大スマートフォン陣営がクルマのダッシュボード上で本格的に競争を始めることになった。
なぜスマートフォンか?
なぜこのように、専用のカーナビに替ってスマートフォンが使われようとしているのだろうか?
2013年8月号にも記したように、スマートフォンでインターネットに接続すれば、モバイル通信を二重に契約する必要がなくなる(1)。
そして、頻繁に使う行先、電話番号、メール・アドレス、好みの音楽などをスマートフォンに登録しておけば、それをそのままクルマの運転中も使え、データを更新するたびにカーナビにもコピーする必要がなくなる。
また、スマートフォンのデータは、複数のクルマで共用でき、クルマを買い替えたり、レンタカーを利用したりするときもそのまま使える。そして、1台のクルマを家族や友人と共用するときも、自分のスマートフォンを接続すれば自分のデータだけを利用できるので、自分には必要のない他人のデータに煩わされることがなく、また自分のプライバシーが侵されることもない。
電話帳、アドレス帳などは個人に結びついた情報で、これを1つのモバイル端末に登録しておけば、自宅でも、職場でも、旅行中でも、いつでもどこでも最新情報を利用できるのがこれからの生活環境だ。それをクルマの運転中も可能にするのが、CarPlayやProjected
Modeなのだ。
今後の問題は?
自動車メーカーは、従来、他社との差別化の重要な要素として、カーナビやマルチメディアに力を入れてきた。そのため、その根幹を他社にゆだねるのには大きな抵抗があると思われる。自動車メーカーには、自分達がクルマのユーザーのニーズを一番よくつかんでいるという自負があり、今後グーグルやアップルがそのニーズに適切に応えてくれるだろうかという危惧もあるだろう。
しかし、今後のユーザーニーズに応えるには、スマートフォンをベースにしたシステムの採用が不可避と思われるため、自動車メーカーは早く割り切って新技術を取り入れる必要がある。その上で、従来蓄積したカーナビなどの技術をどう生かすかが今後の課題だ。
カーナビメーカーに今後要求されるのは、スマートフォンに対応した簡易車載器の提供になる。2014年4月12日の日本経済新聞によると、アルパインは今秋欧米でCarPlayに対応する車載器を発売するという。価格は500〜700ドル(5〜7万円)程度の見通しで、従来のカーナビの半額程度だという。今後、CarPlayやProjected
Modeに対応するこういう製品が他のカーナビメーカーからも発売されるものと思われる。
2013年9月号に、MirrorLinkはグーグルもアップルも参加していないため成功が疑問だと記したが、両社がスマートフォンでのダッシュボードへの進出を鮮明にした現在、MirrorLinkの存在意義はますます薄れた(2)。
(1) 「スマートフォンがカーナビに!」,
OHM, 2013年8月号,
オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1308ohm.htm)
(2) 「続・スマートフォンがカーナビに!」,
OHM, 2013年9月号,
オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1309ohm.htm)
[
(b) "Mercedes-Benz has just leaked Google's 'Projected Mode' in-car tech", March 2nd 2014, TechRadar
(c) (本記事執筆後グーグルは”Projected Mode”を"Android Auto"という名称で正式に発表)
"Google gives us a simulated ride with Android Auto", 2014/06/25, Engadget
(http://www.engadget.com/2014/06/25/android-auto-hands-on/)
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