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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2014年5月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
ビットコインの問題は?
前号で取り上げたビットコインを含む仮想通貨(またはデジタル通貨)にはどういう問題があるのだろうか? ここでは行政面の問題を取り上げよう。
第1に、金融犯罪防止や消費者保護上の問題がある。ビットコインはインターネット上で匿名で使えるので、麻薬の取引などに使われる恐れがある。そのため、資金洗浄などを通常の通貨と同様に厳しく取り締まる必要がある。
また日本にあったビットコインの取引所のマウント・ゴックスが本年2月末に経営破綻し、多数の利用者が財産を失った。こういう事態から消費者を保護する必要がある。
そのため、取引所の認可や取引の報告などは最低限必要と思われる。
第2に、税制上の問題がある。モノやサービスの購入に消費税(付加価値税、売上税を含む)を課税している国では、ビットコインで購入した時も当然課税される。しかし、通常の通貨でビットコインを購入(つまり通常の通貨をビットコインに両替)した時は、ビットコインを金の地金や宝石のようなモノとみなせば課税対象になるが、これを通貨の一種とみなせば、通貨間の両替なので課税されない。
また、ビットコインを安く買って高く売った時、これを商品を安値で仕入れて高値で売った時のように所得として扱うか、それとも為替レートの変動によるキャピタルゲインとして扱うかで税金も変わってくる。ビットコインの保有期間も影響する。このような税制上の扱いが問題になる。
各国政府の対応状況は?
では、これらの問題に対して、各国は現在どのように対応しているのだろうか? ごく一部の断片的な情報だが、昨年来の報道から拾ってみよう。
米国では、2013年3月に財務省の金融犯罪等を取り締まる部局が、現在の資金洗浄等に関する法律がビットコイン等の仮想通貨にも適用されると発表した。そして、ビットコインを扱う事業者には、設立時の登録、取引の報告が要求されると表明した(a)。
2013年11月に、上院の国土安全保障・政府問題委員会が、仮想通貨に関する公聴会を開催した。この委員会に、当時のFRB(米国の中央銀行)のバーナンキ議長は書簡を送付し、「仮想通貨は将来、迅速で、安全で、効率のよい決済手段を提供するようになる可能性がある」と述べた(b)。
またこの上院委員会のカーパー委員長は、「過剰な規制によって、ゆりかごの中の赤ん坊を殺すようなことをしてはならない」と注意を促した(c)。
米国では、このように仮想通貨に対して前向きな意見が多いが、実際の対応は犯罪防止面が先行していて、各州での税制上の扱いなどはこれからだ。
イギリスでは、歳入税関庁が2013年11月に、ビットコインは金券(バウチャー)のようなもので、購入時に付加価値税が課税されると表明した。しかし、その場合一般の通貨をビットコインに両替すると20%の付加価値税が課税され、不都合である。そのため、2014年3月に、ビットコインは外貨と同様に、その購入時は付加価値税が課税されないことになった(d)。
このように、仮想通貨の税制上の扱いは世界中でまだ流動的である。
ドイツでは、2013年6月に、1年以上保有したビットコインにはキャピタルゲインが課税されないと報道された。また、同国の財務省は2013年8月に、ビットコインは「経済価値の単位」であり「私的通貨」だと表明した(e)。これは、ビットコインが「モノ」よりも「通貨」に近いということで、今後の扱い方に大きく影響するものと思われる。
シンガポールの内国歳入庁は、2014年1月に、ビットコインについてのキャピタルゲイン課税、所得税、付加価値税の扱いを明確化した。税制全般にわたって扱いを明確にした点で、同国は世界の先端を行くといわれている(f)。
これらの状況が示すもの
第1に、各国はバラバラに対応策を試行中で、今後基本的な考え方を統一する必要があることだ。
しかし、各国とも中央銀行や財務省が中心になって対応していることは、ビットコインがもともと現在の通貨の代替品として考案されたものである以上当然であろう。これをモノの一種とみなすのには無理があるように思う。
第2に、日本は他の国に比べ対応が極めて遅れていることだ。
マウント・ゴックスの破綻以来、日本では急に大騒ぎになったが、それまで政府のビットコインに関する見解の発表はなかった。3月5日の日本経済新聞に、「政府が取引ルールを示すのは主要国で初めて」とあるのを目にしてわが目を疑った(1)。本記事の情報元の政府関係者も記事を執筆した記者も、昨年来の各国政府の動きを知らなかったのだろうか。鎖国中の江戸時代にいるような錯覚に陥った。
第3に、仮想通貨は、蒸気機関やインターネットなどと同様に、技術革新が社会に大変革をもたらすものの1つになる可能性があることだ。その可能性を無視するべきではないという米国のバーナンキ前FRB議長やカーパー上院議員の言に耳を傾ける必要がある。
マウウト・ゴックスの破綻に際して麻生太郎財務大臣は、「(ビットコインは)どこかで破綻すると思っていた」と述べたという(2)。ビットコインにも種々の問題はあるが、このように単純に切って捨ててよいかは疑問である。
(1)
「仮想通貨に取引指針」,
日本経済新聞,
2014年3月5日
(2)
「ビットコイン「破綻すると思っていた」」,
朝日新聞,
2014年2月28日夕刊
(b) "BERNANKE: Bitcoin 'May Hold Long-Term Promise'", Nov. 18, 2013, Business Insider
(http://www.businessinsider.com/ben-bernanke-on-bitcoin-2013-11)
(c) "US Senator Tom Carper Sees ‘Good Things’ in Bitcoin", January 8, 2014, CoinDesk (http://www.coindesk.com/senator-sees-good-things-bitcoin/)
(d) "UK Eliminates Tax on Bitcoin Trading, Publishes Official Guidance", March 2, 2014, CoinDesk
(http://www.coindesk.com/top-uk-tax-agency-eliminate-20-levy-bitcoin-trading/)
(e) "Germany officially recognises bitcoin as “private money”", August 19, 2013, CoinDesk
(http://www.coindesk.com/germany-official-recognises-bitcoin-as-private-money/)
(f) "Singapore Government: This is How We Intend to Tax Bitcoin", January 9, 2014, CoinDesk
(http://www.coindesk.com/singapore-government-how-we-intend-tax-bitcoin/)
(http://www.toskyworld.com/archive/2014/ar1406ohm.htm)
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