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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2014年4月号 掲載        PDFファイル

 

成るか、ビットコインによる通貨革命?

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

 

ビットコインで何ができる?

ビットコインは、インターネット上で使えるデジタル通貨の一種である。インターネットの両替店で、円やドルなどの通常の通貨をこれに換えることができ、ビットコインを売って通常の通貨に戻すこともできる。

こうして入手したビットコインは、インターネット上の財布サービスに預けておくことも、自分のパソコンやモバイル端末に入れておくこともできる。

そして、このビットコインを使って、オンラインショップで商品やゲームソフトなどの買い物ができる。また、ビットコインが入ったモバイル端末で買い物ができる実店舗もある。

通常の通貨での買い物と違い、ビットコインを使えば、世界中どこへ行っても両替の必要がない。また、クレジットカードと違い、売り手にとっても手数料の負担がない。そして、クレジットカードや銀行口座を使う場合と違い、買い手の情報が残らないので麻薬などの違法取引にも使われている。

また、金融機関を介さずに世界中どこにでも無料で送金できる(a)

そして、ビットコインは投機に使われている。

ビットコインは、円やドルと同じように、通貨の名称であると共にその基本単位の名前でもあり、その場合はXBT(またはBTC)と記される。2013年初めには1 XBT2,000円以下だったが、201312月には一時10万円を超えた(b)1年間で50倍以上になったわけだ。まだビットコインを使える店が少ないのに、最近急激にビットコインの購入者が増えたのは、投機目的の人が多いためだと思われる。1980年代の日本の地価やゴルフ会員権などと同じで、バブルがバブルを呼んでいる状況だ。

逆に現在ビットコインではできないものに、一般の銀行での預金や送金、証券会社での株や債券の購入、政府機関への税金の納入などがある。

 

通貨を政府の手から奪い取ろう!

このビットコインは、誰が、いつ、どういう動機で作ったのだろうか?

ビットコインの創始者は、2008年にナカモト・サトシという偽名でその構想を発表し、2009年初めからそのシステムがインターネット上で稼動しだした。それ以来、真犯人(?)捜しが世界中で行われているがいまだに見つかっていない。この「ナカモト・サトシ」は2010年までインターネット上に存在していたが、その後忽然として姿を消してしまった。

最初に発表した構想やその後の質疑応答から、この創始者の動機は次の2つのように思われる。

(1) 現在の通貨は各国の政府や中央銀行の管理下にあり、その時の政権の政策によって金利が上下し、通貨の供給量が増減する。そして、各国の金融危機でその国の通貨が暴落することもしばしばある。こういう各国の経済状況や政策に振り回されない、全世界共通の安定した通貨を作りたい。

(2) インターネットを駆使することによって、各国の中央銀行や一般の銀行、クレジットカード会社などの通貨に関連する業務を大幅に不要にし、消費者の各種手数料などの負担を劇的に減らしたい(c)

 

ボランティアによる監視団を活用

この2つの目標を達成するには、インターネット上で集中管理機構を設けずにデジタル通貨を発行できればいいのだが、それには次の2つの大きな問題がある。

(1) デジタル通貨では、「お札」に相当するものの二重使用の防止が大きな問題であり、通貨を集中管理する機構がある場合はそこが監視すればいいのだが、そういうものがないときどうしたらいいか?

(2) 一般に中央銀行は、経済活動の発展状況に応じて通貨の供給量を調整することによって、インフレやデフレの防止を図り、通貨の価値を妥当な範囲に維持しているが、中央銀行のようなものがないとき、通貨の供給量をどうやって調整するか?

ビットコインの創始者は、これらの問題を次のような方法で解決することを考えた。

ビットコインの全取引を暗号化してインターネットで公開し、二重使用のような不正がないかボランティアにチェックしてもらう。そういうボランティアを募るため、チェックしてくれた人には、与えられた条件を満たす特殊なコードを生成してもらい、早い者勝ちで報奨金を与える。報奨金目当てのボランティアは、金山に金の採掘に行く人のようなものなので、マイナー(miner)と呼ばれている。

報奨金はほぼ10分ごとに1件与えられ、当初の21万件(大体2009年〜2012年の4年間)は50 XBT/件とし、その後21万件ごとに半額に減らす。したがって、現在の報奨金は25 XBTである。この報奨金がビットコインの供給量のすべてで、最初の約4年間に供給される総量は1,050XBTになる。その後は約4年ごとに半減するので、総供給量は永久にその2倍の2,100XBTを超えない。

こうして、際限のない通貨の供給による通貨価値の暴落(インフレーション)を防止する。

20142月現在、発行済のビットコインは約1,200XBTで、為替レートは5万円/XBT前後なので、現在のビットコインの時価総額は6,000億円程度である。5年前にはまったく存在したかったこれだけの金融資産が現在地球上に存在しているわけだ(b)

次号で、このビットコインにはどういう問題があり、各国政府はどう対応しようとしているのかを取り上げたい(e)

 

[関連記事]

(a)  "bitcoin" (https://bitcoin.org/en/)

(b)  "CoinDesk", (http://www.coindesk.com/)

(c)  Satoshi Nakamoto, "Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System", Nov. 2008

(d)  "Bitcoin Wiki", (https://en.bitcoin.it/)

(e) 酒井 寿紀、「続:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年5月号、オーム社

        (http://www.toskyworld.com/archive/2014/ar1405ohm.htm)

(f) 酒井 寿紀、「続々:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年6月号、オーム社

        (http://www.toskyworld.com/archive/2014/ar1406ohm.htm)

   


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