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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー 」2014年1月号 掲載 PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)
ITの昨日、今日、明日
酒井ITビジネス研究所 代表 酒 井 寿 紀
ユビキタス化の歴史
10年ほど前に「ユビキタス」という言葉が大変流行しました。当時は、一般の新聞や政府のプロジェクトなどでもよく使われました。
ユビキタスとは、元々キリスト教神学で、「神は至るところに存在する」という意味で使われる言葉です。それが米国で、「コンピュータが至るところに存在するようになる」という意味で使われるようになり、日本に伝わってきたものです。
ところで、コンピュータが我々の身の回りにどんどん増えだしたのは、いつからでしょうか? コンピュータの歴史を振り返ってみましょう。
コンピュータの実用化が始まった1960年代には、メインフレームと呼ばれる大型コンピュータが主役でした。それは文字どおり大きく、「マシン室」と呼ばれる専用の大きな部屋を占領していました。当時コンピュータを使えたのは、大企業か政府機関だけでした。
1970年代になると、ミニコンやオフコン(オフィスコンピュータ)が現れ、しだいに小さい企業や大学の研究室などでも使われるようになりました。
1980年代には、企業の部門ごとに小型のコンピュータを入れて分散処理を行う方式が流行しました。金融機関でも、本店の大型機とは別に、支店ごとに小型機を設置して一部の処理を分担するようになりました。
1980年代に実用になったパソコンが、1990年代にはコンピュータの主役になりました。ユーザーの手元のクライアント端末であるパソコンを、ネットワークを介して大型のサーバに接続して、データ処理を分担するシステムが一般的になりました。
そして、2000年代以降、クライアント端末としてスマートフォンやタブレットが現れ、今日に至っています。
このように最近50年間のコンピュータの歴史は、小型化、低価格化、数の増加の連続でした。ユビキタス化は何も今世紀に入って急に始まったわけではありません。
ユビキタス化は限界?
では、このようにして続いてきたユビキタス化は今後どうなるのでしょうか?
1960年代前半に最も数多く作られたコンピュータは、IBMの1401で、累計約1万台生産され、最盛期には全世界のコンピュータの約半分を占めていたといいます。したがって、当時の全世界のコンピュータの生産台数はせいぜい年間数千台だったと推定されます。
一方、2013年の全世界のスマートフォンの出荷台数は10億台を超えると予想されています。この50年間にコンピュータの出荷台数は10万倍以上になったわけです。平均して10年で10倍以上のペースです。
これが今までのユビキタス化の量的な実態です。こういう急激な増加は今後も続くのでしょうか?
2017年には全世界のスマートフォンの出荷台数が17億台になると予想されています。これは全世界の半分以上の人がスマートフォンを持つことを意味します。したがって、もう従来のようなペースでコンピュータが増え続けることは考えられません。
コンピュータの数の増加がもう限界だとすると、今後はどういう方向に向かうのでしょうか?
ウェアラブル・コンピュータの時代に
スマートフォンの次の世代のコンピュータとして、より身体に密着して常時使えるコンピュータが、最近いろいろ現れています。衣服のように朝から晩まで身に着けているので、ウェアラブル・コンピュータと呼ばれています。
その1つは、2012年から2013年にかけてソニー、サムスンなどが発表した腕時計型のスマートウォッチです。アップルも現在開発中だといわれています。
時計がポケットに入れる懐中時計から腕に付ける腕時計に進歩したように、コンピュータもポケットに入れるものより腕に付けるものの方がより便利だろうという発想です。
メーカーによって違いがありますが、代表的な機能をご紹介しましょう。
操作はタッチパネルか少数のボタンで行います。上下、前後の腕の動きで操作できるものもあります。
無線通信のBluetoothでスマートフォンに接続され、時計などごく簡単な機能以外は近くにスマートフォンがないと使えないものが一般的です。
マイクとスピーカーが付いていて、いちいちスマートフォンをポケットから取り出さなくても電話がかけられるものや、スマートフォン経由で簡単なメッセージを受信できるものもあります。
このように、現在のスマートウォッチはスマートフォンの補助的な位置付けです。スマートフォンから独立して、単独でどこまでできるようにするかが今後の課題だと思われます。
もう1つのウェアラブル・コンピュータに、2012年にグーグルが発表した「グーグル・グラス」という眼鏡型のコンピュータがあります。現在はソフト開発者向けのものだけですが、一般向けのものも2014年に発売されるということです。
現在のものは、レンズのない眼鏡のフレームにコンピュータが付いているものですが、将来はレンズも付けられるようになるそうです。この眼鏡をかけると視界の一部にコンピュータの画面が現れ、音声での指令や質問に対して、地図や回答などが表示されます。眼前の景色の写真やビデオの撮影もできます。
骨伝導(音声の振動を直接頭蓋骨に伝える方式)のスピーカーを備えていて、Bluetoothで接続されたスマートフォン経由で電話もかけられます。
フレームの右側のつるの部分がタッチパッドになっていて、画面のスクロールや項目の選択ができるようになっています。
この眼鏡をクルマや歩行用のナビに使えば、正面を向いたままで視界の一部にナビの画面が表示されるので便利です。
ウェアラブル・コンピュータの考えは30年以上前からありましたが、このようにやっと日の目を見ることができました。しかしその台数は、世界中の大半の人に行き渡ろうとしているスマートフォンを超えることはないと思われます。そのため、人が直接使うコンピュータの数の増加は終焉に近づきつつあるようです。
今後のコンピュータの数の増加は、機械に組み込まれて使われるものや商品に付けられるICタグのようなものが中心になるものと思われます。
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