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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2013年10月号 掲載 PDFファイル
オープンか、クローズドか?・・・アップルのシェアが示すもの
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
アップルのシェアは?
アップルのスマートフォンiPhoneは2007年に登場した。これは、電話、メール、ウェブのほか、写真、動画、音楽、ゲーム、電子書籍などが扱え、これによってスマートフォンは新時代を迎えた。
ガートナーの統計によると、2010年以降の全世界のスマートフォンの出荷台数で、アップルのシェアは15%から25%の間を上下している(a)。しかし最近は、2012年第2四半期に19%だったシェアが、2013年第2四半期には14%に減少したという(b)。
一方、OSにAndroidを使ったスマートフォンが2008年に登場した。これはiPhoneより1年以上遅れて登場したが、2010年第2四半期にはiPhoneのシェアを抜き、その後も増え続けて2013年第2四半期には79%のシェアに達した(a),
(b)。もはやほぼ完全にスマートフォンの市場を制したと言えよう。
2010年に、アップルのタブレットiPadが現れた。これは、無線LANか携帯電話回線でネットワークに接続され、10インチ程度のタッチパネルの画面で操作するもので、従来のこの種の製品よりはるかに洗練されていて、タブレットの新時代が始まった。
そして、2012年にはAndroidが本格的にタブレットにも対応するように改善され、それを搭載したタブレットが各社から発表された。
ストラテジー・アナリティクスの統計によると、2012年第2四半期から2013年第2四半期にかけての全世界のタブレットの出荷台数のシェアは、アップルが47%から28%に減ったのに対して、Android陣営は51%から67%に増えたという(c)。タブレットもスマートフォンと同じ道をたどりつつある。
さかのぼって、1981年にIBMがIBM
PCでパソコンに参入し、これが業界標準になってパソコンの新時代が始まった。
そして、1984年にアップルのMacintoshが登場した。これは、当初からマルチウィンドウやアイコンをマウスでクリックする機能など、いわゆるGUI
(Graphical User Interface)を備えた先進的なものだった。一方、IBM
PC系のOSであるマイクロソフトのWindowsのGUIが実用になったのは1990年代に入ってからである。それにもかかわらず、1990年代の半ば以降、パソコン市場ではWindows系が90%以上の圧倒的なシェアを占め続けている。
なぜアップルのシェアは低い?
革新的な製品を世に出した企業は市場で圧倒的に有利なはずだ。にもかかわらず、アップルがマイクロソフトやグーグルに追いつき追い越されたのはなぜなのだろうか?
マイクロソフトやグーグルが「オープン」戦略を取ってきたのに対して、アップルは「クローズド」戦略を取ってきた。
両戦略は2つの面で大きく異なる。1つはOSとハードウェアの関係だ。マイクロソフトのWindowsやグーグルのAndroidは全世界のハード・メーカーの製品に使われているが、アップルのMac
OS(パソコン用OS)やiOS(スマートフォン、タブレット用OS)はアップルの製品にしか使われない。
もう1つは、アプリケーション・プログラム(AP)の扱いだ。WindowsやAndroidでは、誰でも自由にAPを開発して販売できるが、iOSのAPはアップルの審査に合格したものしか認められず、アップルの販売サイトでしか販売できない。
このように、オープンではハードへの参入が自由なので、多くの企業が製造・販売を手がける。そのため、価格、性能、信頼性などの熾烈な競争が展開される。そしてオープンでは、高価だが高性能なもの、性能は劣るが安価なものなど、多様なハードが揃い、またAPに参入する企業も多いため、APの品揃えも豊富になる。
こうして、オープンなものは多数の企業が必死に拡販に努めるので、全体としてのシェアが増えていく。
一方、クローズなものは、1社がハードもOSも提供し、APも1社の支配下にあるため、システムとしての整合性、安定性には勝る。アップルのパソコンがある程度のシェアを維持し続けているのはこういう利点があるからだ。しかし、数の勝負でオープンに勝てないことは、現実が示す通りだ。
IT製品ではシェアが重要!
オープンの最大の問題は、統制不足で混乱を来たす恐れがあることだ。特に、Androidは自由に改変できるため、端末メーカーが自社の特長を出すために勝手に改変し、似て非なるAndroidが多数出現する恐れがあり、Androidの世界のfragment化(バラバラになること)として一時騒がれた。その後、グーグルもこの問題の重要さを認識し、Androidの改変の扱いを厳しくしたことは本コラムでも前に取り上げた(1)。オープンといっても自由放任ではだめで、適切な司令塔が不可欠だ。
IT製品のユーザーにとっては、シェアが大きく、事実上の標準になっていて、ユーザー間で自由にデータを交換でき、世界中どこへ行っても現地の機器を同じ操作で使えることが極めて重要である。これを実現するにはオープンを基本にするしかなく、上記のような問題があるとは言え、クローズドではユーザーのこのような要求に応えられない。
(1)
「自由か、統制か?・・・Androidの進む道」,
OHM, 2012年2月号,
オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2012/ar1202ohm.htm)
[関連記事]
(a) "Mobile Operating System", Wikipedia, (http://en.wikipedia.org/wiki/Mobile_operating_system)
(b) "Google-Microsoft feud over YouTube app escalates to 'death blow'", August 16, 2013, Computerworld
(c) "Android Dominates the Tablet Market in 2013 2Q", July 29, 2013, Strategy Analytics
(http://www.strategyanalytics.com/default.aspx?mod=pressreleaseviewer&a0=5403)
(d) 酒井 寿紀、「Windowsの巻き返しなるか?
(http://www.toskyworld.com/archive/2011/ar1106ohm.htm)
(e) 酒井 寿紀、「Androidがスマートフォンの市場を席巻!?」、OHM、2010年3月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2010/ar1003ohm.htm)
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