home > Tosky's Archive >
(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2013年9月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
前号に、今後のカーナビはスマートフォンと簡便な車載機の組み合わせが主流になると思われると記した。今回は、企業がこの問題にどう取り組んでいるかを見てみよう。
調査会社のIDCによると、2013年第1四半期にはグーグルとアップルのOSを使ったスマートフォンの出荷台数が、全体の92%を占めたという。そこで、まずこの2グループのスマートフォンについて見てみよう。
グーグルは同社のOSであるAndroid用のカーナビのアプリを2009年10月から提供している。これは、行き先の音声入力、音声案内、道路の渋滞状況の表示、所要時間の推定などの機能を含むもので、無料である。
一方、アップルのiPhoneは、2012年9月までは独自の地図やカーナビのアプリを持たず、グーグルのアプリをユーザーに提供していた。しかし、同社は地図やナビのアプリの重要性を認識し、2012年9月に独自のアプリの提供を始めた。これは当初不良が多く、社長が謝罪する破目に陥ったが、その後同社はその改善に全力を注いできた。
こうして、現在は両社ともスマートフォンでの地図やナビのアプリの提供、機能強化に力を入れている。
特に欧米では従来PND
(Personal Navigation Device)という小型のカーナビが広く使われてきたが、近年その売り上げが減り、上記のようなスマートフォンのカーナビ機能に取って代わられつつある。しかし、スマートフォンの小さい画面では、見にくく操作性も悪い。また音楽は大型スピーカーで聴きたい。そのため、スマートフォンが大画面とスピーカーを備えた簡便な車載機と連動することが望まれるが、現在大手企業でグーグル系やアップルのスマートフォン用の簡易車載機を提供しているところはないようだ。
標準化の動き
最近、スマートフォンと簡易車載機の標準インタフェースを制定しようという活動が始まった。これは、元々ノキアの研究所で始まったものだが、2011年2月にCCC
(Car Connectivity Consortium)という団体が設立され、現在はここが推進している。現在のメンバーは94社で、自動社会社では、トヨタ、ホンダ、GM、メルセデス・ベンツなど、スマートフォンのメーカーでは、サムスン、ソニー、ノキアなど、車載機のメーカーでは、アルパイン、JVCケンウッド、パナソニックなどが加入している(a),
(b)。
CCCによって2013年2月にMirrorLink
1.0という標準仕様が公開された。これはスマートフォンの画面を車載機に伝える機能を中心とするものだが、今後は自動車内の各種センサーの情報をスマートフォンに伝える方法の標準化なども検討するという。
現在、アルパイン、JVCケンウッド、パイオニア、パナソニック、ソニーなどがMirrorLinkの規格を満たす簡易車載機を発表している。
現状の問題は?
このような現状の問題点は何だろうか?
まず第1は、「MirrorLinkの正体は何か」ということだ。
現在、スマートフォンの市場では、グーグル系とアップルの製品が市場の90%以上を占めている。ということは、これらの製品はスマートフォンの市場で事実上の標準になっているということだ。しかし、グーグルもアップルもCCCには加入していない。両社は改めて標準仕様を制定する必要性など感じていないためだと思われる。
ノキアはスマートフォンの市場で出遅れ、マイクロソフトと組んでWindows
Phoneを使って何とか遅れを挽回しようとしている。そこで、「標準仕様」という「錦の御旗」の下にできるだけ多くの企業を糾合し、ノキアがそのグループの盟主になって、スマートフォンの市場の一半を獲得することを狙っているのだと思われる。グーグルやアップルに対抗するにはノキア1社だけでは無理で、束になってかからなければ勝ち目がないからだ。
90社以上の自動車会社やカーナビ・メーカーがこの話に乗ってきたのは、これらの企業も、グーグルやアップルの傘下に入って独自の事業展開ができなくなることは避けたいと考えたからだろう。この標準仕様が世界中で普及すれば、この2社に牛耳られなくて済むと考えるのはごく自然なことだ。
しかし、過去50年のITの歴史で、このように事実上の標準に対抗しようとした標準化の試みが成功した例はいまだかつてない。
第2の問題は、「MirrorLinkに頼るのは妥当か」ということだ。
MirrorLinkの正体が何であろうと、ビジネスとして成功すれば問題はない。しかし、現在MirrorLinkを謳っているスマートフォンのナビのアプリはほとんどが有料だ。例えば、パナソニックの簡易車載機が対応しているナビのアプリは年間3,800円である。それに対し、グーグルやアップルのアプリは無料だ。従来のカーナビ・メーカーがソフトだけを切り離して販売しようとすれば、有料にしたくなるのは分かるが、これでは勝負にならない。
従来のカーナビ・メーカーは、グーグルやアップルの事実上の標準を認め、そのスマートフォン用の簡易車載機の製造・販売を目指すべきだ。そして、過去に蓄積したソフト資産を生かすには、グーグルやアップルのナビのアプリの付加機能としての活用を考えるべきだと思われる。
「標準化」の美名に頼ろうとして失敗した例は枚挙にいとまがない。
(a) "
「Tosky's Archive」掲載通知サービス : 新しい記事が掲載された際 、メールでご連絡します。
Copyright (C) 2013, Toshinori Sakai, All rights reserved