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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2013年7月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
3Gか、Wi-Fiか?
スマートフォンをインターネットにつなぐときは、携帯電話回線(3Gと4Gがあるが、以下3Gと略記)か無線LAN(以下:Wi-Fi)のいずれかを使う。ユーザーにとっては、できるだけWi-Fiを使った方が費用がかからない。定額契約をしていれば費用は変わらないが、3Gの通信量が少なければ、部分的に従量制を取り入れた料金体系を使って安く済ますこともできる。そして、Wi-Fiの方が高速だ。通信事業者にとっても、できるだけWi-Fiを使ってもらった方が、3Gの周波数帯域逼迫の問題が緩和される。
このように、Wi-Fiは両者にとってメリットがあるにも関わらず、通信事業者は必ずしもWi-Fiの利用の普及に力を入れて来なかった。例えば、2009年11月に当時のNTTドコモの社長は、「(あくまで3Gが中心で)Wi-Fiは補完的に使うもの」と言っていた(1)。
また、前に本コラムに記したように、Androidのスマートフォンを自分で使ってみて、Wi-Fiの使い勝手の悪さに驚いた(2)。
このように、3GとWi-Fiの使い分けについて問題が多かったため、今後は「固定網でできることは固定網(+Wi-Fi)で」、「モバイル網はモバイル網でしかできないことだけに」という考えが必要だと指摘した(3)。
このスマートフォンのWi-Fi対応の問題は、その後どうなっただろうか?
各社がWi-Fiに注力
スマートフォンのWi-Fi接続は、その後改善されつつある。
3大通信事業者中、公衆無線LANのアクセスポイントの設置に最も非積極的だったNTTドコモも、最近はその設置に力を入れている。2012年2月に8,100か所だった同社のアクセスポイントは、現在12万か所を超え、急速に他社に近づいた。現在3社とも、ファストフード店、コンビニエンスストアなどへの展開に力を注いでいる。
そして、一部の新幹線や航空機でもWi-Fiが使えるようになった。
また、以前はスマートフォンやタブレットのWi-Fiの接続設定が任天堂やソニーのゲーム機より手間がかかったが(2)、最近のWi-Fiの親機では簡便に設定できるようになった。
そして、自宅のWi-Fiのほか、公衆無線LANについても、自動的に電波を検出して接続するものも現れた。
このように、通信事業者や機器メーカーの努力によって、問題が多かったスマートフォンのWi-Fi接続はかなり改善された。では、この問題はすっかり片付いたのだろうか?
今後の望ましい姿は?
現在でもまだ問題が多いのが実態だ。
データの同期や更新は、指定したときかWi-Fiが使える環境下だけで実施すれば十分なのに、3Gしか使えないところで自動的に始まることがある。
また、街を歩いていると、自動的にWi-Fiの電波を検出してどんどん登録するが、認証が必要で契約していないアクセスポイントは登録されても使い道がない。
そして、Wi-Fiの環境下で安心してインターネットを使っていると、いつの間にか3Gに切り替わっていて、莫大な通信料を請求されることがある。これが最も馬鹿馬鹿しい。
そこで小生は、通常は3Gでのデータ通信を一切禁止する設定にした。スマートフォンでインターネットを使うのはWi-Fiの設備があるところが大半なので、これで十分だ。こうすれば、3Gしか使えないところで、自動的にデータの同期や更新が始まることも、広告が配信されることもない。もちろん、街角でコンビニやレストランなどを探す時は、データ通信を許可するモードに切り替える必要があるが、そういうケースはそれほどなく、電話はいつでもかけられるので、問題はない。
こういう使い方をすれば、通信料は極わずかで済むので、小生のようにWi-Fiの環境下でスマートフォンを使うことが多い人にはお勧めだ。ただ、現在のAndroidではデータ通信のオン/オフの切り替えに多少手間がかかるので、これがワンタッチでできるようにして欲しいものだ。現在、こういう機能をサポートするアプリケーション・ソフトもあるようだが、これはOSの基本機能にするべきである。
要するに、スマートフォンのデータ通信は、「Wi-Fiが主で、3Gが従」が望ましい姿だ。そうだとすると、現在のように、「通信事業者の主たる収入源は3Gで、公衆無線LANは3Gの契約を獲得するための無料のオマケ」というビジネス形態は改める必要がある。公衆無線LANを3Gと同格の独立したビジネスとして成り立たせる必要がある。
そのような時代が来れば、3Gの主対象は一般のスマートフォンではなく、車載機のように、もっぱらWi-Fiが使えないところで使われる機器になるのではなかろうか? もっとも、車載機とインターネットの接続にスマートフォンが利用される可能性はあるが。
(1)
「孫社長「Wi-Fiが答えだ」 山田社長「Wi-Fiより3G」 ソフトバンクモバイルとドコモが新サービス」,
ITmediaニュース,
2009年11月10日
(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/10/news128.html)
(2)
「自分で自分の首を絞める通信事業者」,
OHM, 2011年12月号,
オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2011/ar1112ohm.htm)
(3)
「3GとWi-Fi、いずれが主役?」,
OHM, 2012年4月号,
オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2012/ar1204ohm.htm)
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