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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー2013年4月号 掲載        PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)

      

ITの昨日、今日、明日 

 

2回 なぜワープロはなくなった?

 

酒井ITビジネス研究所  代表 酒 井 寿 紀

 

1980年代から1990年代にかけてあれほど広く普及していたワープロが、その後さっぱり見かけなくなってしまいました。なぜなのでしょうか? 情報機器での専用機と汎用機の盛衰を振り返って見ましょう。

 

専用コンピュータから汎用コンピュータへ

1960年代前半までのコンピュータは、10進数の演算だけしかできない事務用と、2進数しか扱えない科学技術用の2つに分かれていました。しかし、1964年にIBM2進数も10進数も扱えるシステム/360を発表して、汎用コンピュータ(メインフレーム)の時代が始まりました。

その後もいろいろな業務に専用のコンピュータが作られました。

列車の運行制御、プラントの制御、ロケットの打ち上げなどでは、誤動作や停止が許されません。そのため、プロセス・コンピュータ、フォールト・トレラント・コンピュータなどと呼ばれる、信頼性に特に配慮したコンピュータが作られました。しかし、汎用コンピュータの信頼性が向上すると、これらのシステムも汎用コンピュータの二重化などによって実現されるようになりました。

また、データベースの処理には特殊な演算が頻出するので、データベース・マシンという、検索などを高速化した特殊な装置が開発されました。しかし、コンピュータは技術の進歩が速いため、一度専用機を作ると、汎用機の進歩に合わせて専用機も次々と開発を続ける必要があります。それに見合うメリットは期待できないと、これもその後消えてゆきました。

こうして、途中でいくつもの専用機が登場しましたが、結局汎用コンピュータに吸収されてしまい、これが大型コンピュータの主流の座を占め続けました。

そして、1990年前後から、汎用コンピュータはサーバと呼ばれる新しい製品群に徐々に切り替わってゆきました。当初はいろいろな構成のサーバがありましたが、最近はインテル系のマイクロプロセッサを使ったものが大勢を占めています。

現在、この汎用コンピュータからサーバへの流れとは別の大型コンピュータは、科学技術専用のスーパーコンピュータだけです。しかし、現在その上位500システムの88%には、一般のサーバと同じインテル系のマイクロプロセッサが使われています。

 

すべてパソコンに

初期のオンラインシステムには、文字情報の入力と表示の機能だけで、データ処理がまったくできないダム端末が使われていました。「ダム(dumb)」とは「知能がない」という意味です。

1970年代に生まれたパソコンは、当初はオモチャのようなものでしたが、やがて性能や機能、信頼性が向上し、企業の業務でも十分実用に耐えるようになりました。そのため、パソコンを端末として使い、端末側でも簡単なデータ処理を行うようになりました。

一方、自動車や航空機などの設計に使われるシステムはCAD (Computer-Aided Design)と呼ばれ、それにはエンジニアリング・ワークステーションと呼ばれる端末が使われました。それは、パソコンより高性能なCPUとグラフィック処理のLSIを使い、OSに高機能のUNIXを使った非常に高価なものでした。

しかし、パソコンの性能がどんどん向上し、ゲームの高度化などでグラフィック処理の性能も上がると、パソコンに大画面のディスプレイを接続すればCAD端末としても十分使えるようになりました。そのため、エンジニアリング・ワークステーションという製品分野は廃れてしまいました。

1970年代の末に、日本語をカナで入力すると漢字に変換してくれるワードプロセッサ(ワープロ)が生まれました。それは当初、百万円以上する高価なものでした。

しかし、パソコンが進歩すると、パソコンのソフトでワープロの機能を実現できるようになりました。そして、図や表の挿入、文書の保管や送付も要求されるため、ワープロ機能だけの製品は姿を消しました。

 

スマートフォンさえあれば

2007年にアップルがiPhoneを世に出し、スマートフォンの時代が始まりました。

スマートフォンがあれば、電話やメールができるだけでなく、写真も撮れます。小生は最近、デジタルカメラを持ち歩くことがなくなりました。

インターネットでダウンロードしたり、CDからコピーしたりした楽曲をスマートフォンに入れておけば、携帯音楽プレーヤーは要りません。操作性は多少落ちますが、音質はまったく変わりません。

その他、スケジュールや住所録を収容したPDA、電子辞書、小型電卓、ボイスレコーダー、歩数計などを日常携帯している人も多いでしょう。しかし、スマートフォンにはこれらの機能がすべて備わっています。

近年、デジタルカメラ、電子辞書、携帯型ゲーム機などの出荷台数が減少しています。これにはスマートフォンの影響もあると思います。これらの製品の中には将来姿を消すものがあるかもしれません。

 

なぜ汎用機に?

なぜこのように専用機が次々と汎用機に吸収されていくのでしょうか?

企業が、新しい半導体技術などを活用して社会に役立つ製品を提供しようとすると、その時の技術レベルの制約から、単機能で原価、大きさ、電力などを抑えたものをまず提供することになります。しかし、技術が進歩すると、同程度の原価や大きさで多数の機能を盛り込むことができるようになります。

また、特殊な用途のために特別に開発された高価な製品の機能や性能も、技術が進歩すると、生産台数が多くて安価な汎用機でも実現できるようになります。

そして、情報機器では、LSIやソフトウェアなどの開発費が原価に占める割合が非常に大きいため、製品の種類を減らすことが極めて重要です。

これらの事情から、種々の専用機が汎用機に吸収されてきたのだと思います。今後もこういう傾向は続くと思いますので、新しい専用機が生まれては消えてゆくでしょう。専用機を作る方も使う方も、このことを頭に置いておく必要があります。

 

[関連記事]

(a) 酒井 寿紀、「専用製品から汎用製品へ」、OHM、2005年11月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2005/ar0511ohm.htm)

   


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