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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2013年3月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
WiMAXとLTEが合流?
2008年8月号の本コラム「WiMAXとLTEが合流?」で、当時競い合っていた2つの高速無線通信技術の将来を取り上げた(1)。WiMAXは今世紀に入って実用化が始まっていた新しい無線通信技術で、LTEは第四世代の携帯電話回線として計画されていたものだ。
その記事に、両者は技術的に極めて近いため、「適用分野や開発時期の違いからくる両者の差は今後狭まっていき、両者が並存する必要性は減少していくと思われる」と記した。
また、携帯電話各社は次世代にLTEを採用する方向なので、「これらの企業にとってWiMAXを採用する必要性はあまりない」と記した。
そして、「こういう状況を踏まえると、今後WiMAXの規格はできるだけLTEに近づけることが望まれ、また、LTEの規格は将来WiMAXも吸収しやすいものにすることが望まれる」と指摘した。
この問題は、その後どうなっただろうか?
WiMAXが続々とLTEに
2007年のiPhoneの登場以来、スマートフォンやタブレットが急速に普及した。これらのモバイル端末に使われる回線は携帯電話回線かWi-Fiで、WiMAXが使えるものはほとんどない。そのため、ユーザーが新しく欲する回線はLTEになり、通信事業者もLTEに力を入れざるを得ない状況になった。
一方、WiMAXとLTEの技術的差がその後さらに縮まった。LTEの上りと下りの同時通信には、FDD(周波数分割)とTDD(時分割)の2方式がある。欧米、日本などではFDDが使われているが、中国ではTDDが採用され、TD-LTEと呼ばれている。WiMAXはTDDを使っているため、このTD-LTE
は(FDD)LTE以上にWiMAXに近い。
こういう状況から、多数のWiMAXの通信事業者がLTEまたはTD-LTEへの移行を進めている。
2009年からWiMAXを展開し、現在世界最大のWiMAXの事業者である米国のクリアワイアは、2013年以降TD-LTEに移行する計画だという。
ロシアのヨタは2012年にモスクワでTD-LTEへの切り替えを始めた。
韓国のKTは、国家プロジェクトでWiMAXの一種のWiBroを推進してきたが、LTE系への移行を進めている。
マレーシアのパケット・ワン、YTLもLTE系への移行を計画している。
こういう通信事業者の動向に呼応して、WiMAX用の半導体を供給していた、米国のインテルやビーシーム(2010年にブロードコムが買収)、フランスのセクォンス・コミュニケーションズなどは、LTE系の製品に重点を移している。
また、WiMAX用の通信機器を販売していた、フランスのアルカテル・ルーセント、イスラエルのアルヴァリオン、米国のエアスパンなども、現在はLTE系に力を注いでいる。
WiMAXフォーラムが白旗
WiMAXフォーラムは2001年に設立された業界団体で、WiMAXの機器の相互運用性の検証などを行い、その普及を推進してきた。ここが2012年10月30日にWiMAXの新しいロードマップを発表した(a)。
そのプレスリリースは、「今後他の通信技術との協調と共存の方向に進める」という、雲をつかむような話だ。しかし、複数の報道によれば、WiMAXリリース2.1という新規格を2013年3月までに制定し、無線通信にTD-LTEを使えるようにするという(b)。
実態は、WiMAXの通信事業者によって既に行われつつあるTD-LTEへの切り替えをWiMAXフォーラムとして事後承認するのに近いものになると思われる。実質的に同じでも、通信事業の認可には政府がからんでいるので、WiMAXフォーラムとして正式に承認することが重要なのかもしれない。
この発表の翌日、日本で2009年からWiMAXを展開してきたUQコミュニケーションズは、リリース2.1の採用を検討すると発表した(c)。翌日といっても、日米の時差を考えれば実質上同時発表だ。UQは、WiMAXフォーラムにこの方針転換を働きかけていたのだと思われる。
WiMAXの教訓は?
このようなWiMAXの状況が示す教訓を3つ挙げよう。
第1に、WiMAXの規格が途中で固定通信から移動通信に広がり、最終的な規格の確立までに時間がかかりすぎたことだ。固定通信だけでも、開発途上国などの通信回線の整備が不十分な地域で、加入者回線の代替としての需要が相当あった。したがって、固定通信の段階でシンプルな規格を確立していれば、LTEと競合することなく、かなりの市場を獲得できたと思われる。
第2に、WiMAXとLTEの類似性と適用分野の重複から、いずれこうなることはかなり前から予想でき、無駄な投資を避けられたはずだということだ。
第3に、政府が周波数帯域を割り当てるとき、それを使用する通信技術を限定することが多いが、これが民間企業の合理的な事業推進を妨げる恐れがあることだ。通信技術は進歩が激しいので、柔軟な対応が必要である。しかし、WiMAXに使うという取り決めで割り当てられた周波数は、その後状況が変わっても、他の通信方式に簡単に切り替えるわけにいかない。
(1) 「WiMAXとLTEが合流?」,
OHM, 2008年8月号,
オーム社
(b) "WiMAX opens arms to TD-LTE at last", 31 October, 2012, Rithink Wireless (http://www.rethink-wireless.com/2012/10/31/wimax-opens-arms-td-lte.htm)
(c) 「次世代サービス「UQ WiMAX 2+(仮称)」の導入について」、2012年10月31日、UQコミュニケーションズ株式会社
(http://www.uqwimax.jp/annai/news_release/201210311.html)
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