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(株)エム・システム技研 「エムエスツデー2013年1月号 掲載        PDFファイル (エム・システム技研のサイトへ)

      

ITの昨日、今日、明日 

 

1回 アナログからデジタルへ

 

酒井ITビジネス研究所  代表 酒 井 寿 紀

 

みんなデジタルに

昔は、音楽を聴くときはみんなレコードで聴いていました。これは、音波の波形をそのままレコード盤に記録したアナログ方式でした。しかし、1982年にデジタル方式のCDが発売され、レコードは今や骨董品になってしまいました。

昔のカメラはみんな銀塩フィルムを使ったアナログ方式のものでしたが、1990年代に急速にデジタルカメラが普及し、2002年には全世界での出荷台数がフィルムカメラを追い抜きました。

映画の媒体にもアナログ方式のフィルムが使われていましたが、現在販売されているビデオはデジタルのDVDなどです。家庭で撮影する映像にも、昔はアナログの8mmフィルムが使われていましたが、今はデジタル方式のビデオカメラに変わりました。

電話も昔はアナログ信号でしたが、基幹回線からデジタル化され、最近のIP電話では、加入者回線も含めてすべてデジタルになりました。

このようにすべてがデジタルの方向に向かうのはなぜでしょうか? そして、それは我々の生活や社会にどういうインパクトを与えたのでしょうか?

 

デジタル化のインパクトは?

(1) 機器が安価に

デジタル方式の機器には、コンピュータと同じような半導体技術が使われます。それは20121月号の『エムエスツデー』誌の「コンピュータの50」に記しましたように、「ムーアの法則」で10年に100倍というペースで進歩を遂げてきました。そのため、デジタル技術がいったんアナログ技術と肩を並べるようになると、その後は半導体の進歩に伴って、高性能化、小型化、低価格化が急速に進みます。

こうして、テレビ並みの大きさだったステレオ装置が、スピーカーは別にして、今やポケットに入るようになりました。また、カメラやテープレコーダは、今や携帯電話に組み込まれるようになりました。

(2) データの保管が容易に

アナログ方式で記録したものを保管するには、音声はテープ、写真はフィルムかアルバム、映像はVHSテープなどという具合に、さまざまな媒体が必要でした。そして、それらの媒体には、時代とともに何種類もの規格が現れ、それらのものを再生できるようにするには、各規格に対応したプレーヤーを用意しておくか、新規格の媒体にコピーし直しておく必要がありました。

しかし、デジタルの情報は、音声も写真も映像も同じデジタル記憶装置に保管しておくことができます。ファイル形式は技術の進歩に伴って変わりますが、古いファイル形式のものもソフトを用意しておけば再生でき、また新しいファイル形式に変換することも容易です。

デジタル記憶装置にもいろいろありますが、現在はハードディスク・ドライブ(HDD)が最も簡便で、1万円弱で2テラ()バイトのものが手に入ります。普通のスナップ写真は圧縮すれば1メガバイト以下になるので、このHDD1台に200万枚以上の写真を入れておくことができます。これをアルバムで保管しようとしたら部屋がいっぱいになってしまうでしょう。

(3) データが劣化しない

アナログのデータには劣化が付きものでした。レコードの音質は繰り返し聴いているうちに悪化し、写真は変色し、古い映画はキズで雨が降っているようになりました。しかし、デジタル方式ではこういうデータの劣化がありません。

デジタルデータを構成している各ビットは、物理現象を利用して記憶しているため劣化しますが、読めなくなる前に再生すれば、完全にもとの姿に戻せるのです。長距離電話は中継所で元の状態に戻すので、近距離と変わらない音声品質を維持できます。また、フラッシュメモリや光ディスクにもデータを保持できる期間に限界がありますが、一定期間内に書き換えれば元の状態を保てます。しかも、アナログ量をデジタル化したものは、たとえ何ビットか読めなくなっても全体の品質にたいした影響はありません。

デジタルデータの品質はこのように永久に不変なので、名画をデジタル化して保存しておけば、原画がいたんだ時、少なくともデジタル化した時点でどうだったかが分かり、修復が容易になります。そのため、歴史的作品のデジタル化が急がれています。

(4) 加工、編集が容易に

アナログの写真を修整するには高度な技術が必要で、見合い写真をきれいに修整してくれる写真館は繁盛しました。しかし、デジタルカメラで撮影した写真は、パソコンの画像処理ソフトで、背景を消したり、顔色をよくしたり、素人でも簡単にできます。

また、アナログの時代に映像を編集するには、フィルムを物理的に切り貼りするか、磁気的に記録したテープから、必要な部分を再生して新しいテープにコピーする必要があり、大変面倒でした。これはリニア編集と呼ばれます。

しかし、デジタル方式ではノンリニア編集と呼ばれる技術が使えます。撮影した映像を1コマずつ並べて画面の表示し、必要な部分を選んで、その映写順を指定するだけでいいのです。試写して気に入らなければいくらでもやり直せます。フィルムを無駄にすることもなく、コピーし直す手間も要りません。

(5) コピー、送付が容易に

アナログの写真を知人に送付するときは、プリントした写真を郵送する必要がありました。しかし、デジタルカメラの写真はメールで簡単に送れます。

映画のフィルムは、上映する映画館の数だけ複製して、運輸会社が映画館に配送していました。しかし、最近の「デジタルシネマ」では、デジタル化した映像ファイルを、衛星通信などを使って映画館に配信しているものもあります。物理的に物を運ぶ必要がないのです。

デジタルシネマには、撮影、編集、配信、上映、すべて一貫してデジタル情報で行っているものもあります。2002年に米国の一部で上映された「スターウォーズ:エピソードU」がその走りだと言われます。

ただし、コピーや配信が容易になったための弊害も出ています。違法コピーによる著作権侵害は後を絶ちませんし、インターネットに流出したプライバシー侵害の写真を完全に回収することは不可能です。

 

[関連記事]

(a) 酒井 寿紀、「アナログからディジタルへ」、OHM、2006年3月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2006/ar0603ohm.htm)

  


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