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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2012年8月号 掲載        PDFファイル

 

グーグルがプライバシーポリシーを変更!

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

何が変わったのか?

前月号に、スマートフォンの登場で、プライバシー問題に新時代が到来したと記したが、それとは別に、今年になってグーグルがプライバシーの扱いを定めた「プライバシーポリシー」を31日から変更すると発表し、世界中で激しい議論を巻き起こしている(a)

グーグルは、今回の変更理由を次の2つとしている。

1は、従来プライバシーの扱いを定めた文書が製品別に70以上もあったので、そのうち60以上の文書を整理統合して1つにまとめたという。

2は、従来1つのサービスで取得した情報を他のサービスでは利用できないことがあったが、今後はAndroidのスマートフォンも含めて、全サービスで取得した情報を1つに統合し、これを全サービスで利用できるようにして、サービスの向上を図るという。

例えば、検索サイトで料理のレシピを検索した人が後でYouTubeの動画サイトを利用するとき、検索履歴を利用して料理のビデオの視聴を薦められるようにするという。また、例えば同じ「ジャガー」を検索しても、検索者の履歴情報からネコ科の動物と自動車のいずれを優先して表示するかを判断し、利用者の便宜を向上させるという。

このように利用履歴を取得されることを望まない人は、「グーグルアカウント」へログインせずに、検索、地図、YouTube(視聴のみ)などを利用することもでき、その場合は履歴が取得されることはない。これは、Androidのスマートフォンも同じだという。

そして、グーグルが今までに利用者から収集した情報はいつでもインターネットで見ることができ、そこにある履歴情報は必要なら削除できるようになっている。

今回の変更は、取得する情報を増やすわけではなく、従来から取得していた情報の活用範囲を他のサービスにも広げるだけだという。

広告料収入でビジネスを成り立たせているサービス提供事業者としては、サービスの質を改善して利用者を増やそうとするのは当然である。また、できるだけ有効な広告を表示して、広告料収入を増やそうとするのも当然だ。利用者も、その恩恵で多種多様なサービスを無料で利用できる。そういう意味では、今回の変更は基本的には極めて常識的なものだ。

 

全世界から猛反発!

今回のグーグルの変更に対し、全世界のプライバシー保護団体などが直ちに行動を起こした。

今年124日にグーグルがプライバシーポリシーの変更を発表すると、米国の下院議員8名が連名で、グーグルに質問状を送付した(b)。それに対し130日にグーグルから13ページにわたる回答があり、詳細がかなり判明した(c)

227日には、フランスの情報処理および自由に関する国家委員会(CNIL)が、EUのデータ保護機関の代行として、グーグルに書簡を送付し、予備調査の結果、今回の変更はEUのデータ保護指令に反することが判明したため、調査が完了するまで変更の実施を見合わせるよう要求した(d)。しかし、グーグルはこれを拒否し、予定通り変更を実施した。だが、その後CNILから69項目の質問が出され、その回答でより詳細が分かってきた(e)

プライバシーの問題では透明性の確保が重要である。グーグルが当初から、誰でも疑問に思うような点を明らかにしておけば、今回のような議論の混乱をかなり減少できたと思う。不明点が多ければ、誰でも疑心暗鬼になる。

229日には、日本の総務省が経産省と連名で、グーグルの日本法人に、日本の個人情報保護法と電気通信事業法の遵守が重要だと通知した(f)

我々は、全世界に提供されているグーグルのサービスを使っていて、その中でグーグルの日本法人の役割は極めて限定されたものである。EUの書簡がグーグル本社のラリー・ペイジCEO宛なのに対し、日本政府の通知は社長もいない日本法人宛だ。今回の日本政府の通知に実質上どれだけの意味があるのだろうか?

 

Androidの扱いが問題!

特にAndroidのスマートフォンの扱いについては問題があるようだ。2例挙げよう。

1は、まだ透明性が不足していることだ。

グーグルは、パソコンで取得したデータとスマートフォンで取得したデータを統合して保管するという。確かに小生のアカウント情報には、スマートフォンの機種や端末識別番号も登録されている。しかし、スマートフォンでは、このほか通信や通話の履歴、現在地情報なども取得するというが、これらは現在小生のアカウント情報には登録されていない。何らかの理由で現在は収集してないのだろうか? それとも、実際には収集しているが、登録されてないのだろうか? 透明性を向上させる余地はまだある。

2に、Androidのスマートフォンでも、パソコン同様、検索、地図、電話などはログインしないで使うことができ、そうすれば利用履歴は残らないとグーグルは言う。しかし、現在小生が使っているサムスンのGalaxy SUでは、使用開始時からログイン状態になっていて、個別のアプリケーションで適宜ログイン/ログアウトすることはできない。これがパソコン同様に容易にできないと、これらのアプリケーションはログアウト状態でも使えるというグーグルの主張は空文に帰すことになる。

 

[関連記事]

(a)  "Privacy Policy", 1 March 2012, Google  (http://www.google.com/intl/en-GB/policies/privacy/archive/20120301/)

(b)  "Letter to Google", January 26, 2012,  Congress of the United States

(c)  "Google Letter about Privacy", January 30, 2012, Google

(d)  "Letter to Google", 27 FEV. 2012, CNIL

(e)  "Google Answer CNIL", April 20, 2012, Google

(f)  「グーグル株式会社に対する通知」、2012年2月29日、総務省 (http://www.soumu.go.jp/menu_kyotsuu/important/kinkyu02_000117.html)

 


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