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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2012年7月号 掲載 PDFファイル
プライバシー問題に新時代到来!・・・スマートフォンで
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
スマートフォンで何が変わった?
日本では、2005年に通常「個人情報保護法」といわれる法律が施行され、ITに絡むプライバシーの保護が強化された。その後、プライバシー保護は、過剰反応など種々の問題を抱えつつも、改善に向かって進んできた。しかし、最近のスマートフォンの出現で環境条件が大きく変わった。
2007年にアップルのiPhone、2008年にAndroidのスマートフォンが登場した。このスマートフォンでプライバシー問題は何が変わったのだろうか?
スマートフォンはGPSなどを使って現在の位置を測定し、地図に「現在地」を表示する。この現在地と時刻の情報の履歴を取っておけば、利用者がいつ、どこにいたかが分かる。他の情報と付き合わせれば、立ち寄った店や食事をしたレストランまで分かることもある。
また、スマートフォンには「端末識別番号」という全世界の携帯電話端末に個別の番号が付いていて、プログラムで読み取ることができる。これは利用者が変更できないので、この端末識別番号をキーにして、種々のプログラムの利用履歴を付き合わせれば、誰が、いつ、どこで、何をしたかが全部分かる。「誰が」には、氏名、性別、生年月日、職業などの情報が含まれ、「何を」には、ウェブの閲覧、ビデオの視聴、メールの送受信、電話での通話、などが含まれる。
そして、Androidでは誰でも自由にプログラムを開発してGoogle
Play(旧名:Androidマーケット)というオンライン販売サイトで提供でき、これらのプログラムからも、「現在地」、「端末識別番号」、「連絡先(友人の電話番号やメールアドレスなどを含む)」などの情報を読み取ることができる。ただし、これらの情報を取得するためには、そのプログラムでこれらの情報を必要とすることを表明する必要があり、Androidから何を取得しているかは利用者が調べられるようになっている。
狙いは行動ターゲティング広告
プログラムが取得したこれらの情報のビジネスへの活用が始まっている。
従来インターネットの広告では、コンテンツの内容に関連した公告を掲載する「コンテンツ連動型広告」が主流だった。例えば、自動車関連の記事にはクルマの公告を掲載するという具合だ。
もう一つの方法に、利用者の属性(性別、年齢層、居住地など)や閲覧履歴によって、広告配信先を絞り込む「行動ターゲティング広告」がある。例えば、自動車関係の記事を最近よく見ている若い女性には、閲覧するページに関係なく若い女性向けのクルマの公告を掲載するものだ。
スマートフォンは、パソコン以上に利用者の属性や最近の行動を詳細に把握できるので、広告配信会社はこれを行動ターゲティング広告に最大限に活用しようとしている。そこで、プライバシー侵害のリスクが増える。
リスクがいっぱい
従来の行動ターゲティング広告では、1サイト内での閲覧の履歴を収集し、広告の配信に利用するのが一般的だった。その場合、個人を特定する氏名などの情報は収集しないのが普通で、プライバシー侵害の恐れは比較的少なかった。
ところが、複数のサイトから収集した情報を突合せて、利用者の行動をより詳細に把握しようとする広告配信会社が出てきた。これが1企業グループ内で行われれば、必ずしも違法とは言えないが、企業間での個人情報の売買に結びつけば問題になる。
そして、スマートフォンでは、端末識別番号によって、収集したデータの突合せがより容易に、より正確にできるようになり、「現在地」など収集できる情報も増えた。そのため、プライバシー侵害の恐れが格段に高まった。
こうして収集された情報が広告配信だけに使われるなら被害は小さいが、他に悪用されたら深刻な被害を蒙る可能性がある。そのため、利用者の方も防衛策を講じるように求められているが、非現実的で効果が疑わしいものが多い。
例えば、Androidのプログラムをインストールするときは、それがAndroidからどういう情報を取得しているか調査しろとか、無料のプログラムには収集したデータの販売を目的とするものがあるので、極力使うなとか言われている。しかし、いずれも実現困難で、こういうことを厳密に守ればスマートフォンのメリットは半減する。
要するに、利用者による防衛策には限界があり、これだけでは問題は解決しない。
スマートフォンは未成熟
現在のスマートフォン、特にAndroid系では、どのプログラムからでも、何でも見ることができる。これがプライバシー侵害のリスクを高めている。一般のプログラムが自由に参照できるデータには制約を設けるべきではなかろうか?
また、法規制やガイドラインもスマートフォンの実態を踏まえて見直す必要がある。その際重要なのは、各国が足並みを揃える必要があることだ。外国のサイトを利用する人も多いし、法律が及ばない外国のサーバーを使って悪事を働く者もいるからだ。
いずれにしても、プライバシーの問題は利便性とプライバシーのトレードオフである。現状は、その一方を重視する勢力同士が激しくぶつかっており、折り合い点を見つけるにはまだ相当時間を要するようだ。
[後記]
「総務省がスマートフォンのプライバシー問題に関する提言を公表」(ブログ、12/8/11)もご参照下さい。(12/8/11)
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