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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2012年5月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
見切れないほどの番組が
ケーブルテレビにもいろいろあるが、ここで取り上げるのは、何10チャンネルも見ることができる多チャンネル放送である。
日本のケーブルテレビではJ:COMが最大だが、小生は居住地の関係でITSCOM(イッツコム)に加入しているので、ITSCOMで現在のサービスの一端をご紹介しよう。
契約内容によって異なるが、約5,000円/月で50チャンネルほどのテレビ番組を見ることができる。海外のドキュメンタリには、世界各地の風物や歴史の真相究明などを扱った見ごたえのあるものが多い。映画のチャンネルでは、過去に見逃した名画を見ることができる。海外のニュース番組では、欧米のメディアが世界の動きをどう捉えているかが分かる。
その他、ゴルフ、音楽、アニメ、囲碁・将棋などの専門チャンネルもある。費用がかなり高いが、他の手段では入手できない貴重な情報が豊富なので、利用している人も多いことと思う。
Netflix、Hulu登場
ところが最近、米国などで、ケーブルテレビを解約したり、必要最小限の契約に変更したりする人が増えているという。ケーブルテレビの配線を切断するので
“cord cutting”と呼ばれている。その原因としては、不況の長期化などいろいろ考えられるようだが、インターネットを利用したVOD
(Video on Demand)の台頭がその1つだという。VODといっても、番組全体をダウンロードしてから見るのではなく、ダウンロードの開始と同時に視聴を始められるストリーミング方式のものである。
その代表的なものを2例ご紹介しよう。
現在最も普及しているのは、米国で2007年にVODのサービスを開始したNetflixで、約8ドル/月で、見たい映画やドラマを見たいときに無制限に見ることができる。視聴方法は、2011年7月のニールセンのリポートによれば、ゲーム機のWiiやPS3、Xbox
360を介してテレビで見ている人が全体の50%で最も多い。次に多いのがパソコンの画面で見ている人で42%だ。パソコンやブルーレイディスク・プレーヤをテレビにつないで見ている人(計25%)、インターネット接続機能付きのテレビで見ている人(6%)がこれに続いている。合計が100%を超えるのは、複数の方法を利用している人がいるためだろう(a)。
Netflixの契約者は、米国、カナダ、英国などの合計で、2,300万人に達したという。米国のケーブルテレビの契約者が約1億人なので、そのほぼ1/4に相当する。
Hulu(フールー)というサービスも、同様にインターネットを使ってドラマや映画をVODで配信している。2008年3月に米国で無料サービスを開始し、2010年11月に、コンテンツを充実して、約8ドル/月の有料サービスを始めた。Huluは日本でも2011年9月からサービスを提供しているが、料金が1,480円/月で米国に比べて高い。
Huluのサービスを提供している会社は、NBCユニバーサル、FOXエンターテイメント、ディズニー-ABCテレビジョンなどの合弁なので、偏りはあるがコンテンツが豊富である。当初は利用できる機器がNetflixに比べて少なく、前出のニールセンの調査では89%がパソコンでの視聴者だ(a)。しかし、最近テレビに接続して視聴できる機器が増え、またAndroidのスマートフォンなどでも利用できるようになった。
Huluの2011年末の有料の契約者は約150万人ということで、Netflixに比べればまだ1/10以下だが、2011年の1年間だけで5倍以上になったので、今後Netflixの強力な競争相手になると思われる。
なぜVODか?
前記のように、ケーブルテレビには見ごたえのある番組が多いが、難点は放送時間が決まっていることだ。スポーツの実況中継などは別にして、映画やドキュメンタリを放送時間に合わせて見る必要はまったくない。そこで、録画予約を利用することになるが、見たくもない番組の大海の中から見たいものを探し出して予約するのは厄介だ。
本でも音楽でも、読みたいもの、聴きたいものを探すときは、ジャンル、作者、作曲家などで絞り込むことができるが、テレビ番組は放送時間順に並んでいるだけで、検索の手段がないので、見たいものを探すのが大変だ。要するに「放送」という番組の提供方法は、映画やドキュメンタリには合わないのだ。
そのため、見たい番組を見たいときに見ることができるVODの仕掛けが望まれるのだが、今までは技術的な問題のため不可能だった。しかし、最近のブロードバンドを使ったインターネットでこれが可能になったので、今後はこのVODが従来の多チャンネル放送に取って代わるものと思われる。
トラフィックが問題
VODの大きな問題はデータ量が莫大なことだ。サンドバイン社の調査によると、2011年9月の北米のインターネットの下り方向の全トラフィックのうち、Netflixが実に28%を占めているという。現在の限られたコンテンツでさえこういう状況なので、今後コンテンツが充実して利用者がさらに増えれば、インターネットがパンクするのは目に見えている。そのため、インターネット網の増強とともに、課金方法の見直しが必要になると思われる。
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