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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2011年12月号 掲載 PDFファイル
自分で自分の首を絞める通信事業者
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
スマートフォンで回線がパンク
アップルが2007年にiPhoneを発売して以来、スマートフォンが急増している。2011年6月には、日本の携帯電話端末の月間販売台数の半分以上がスマートフォンだったという。
これに伴って、携帯電話回線(以下:3G回線)のトラフィックが激増した。総務省の調査によると、日本の移動通信事業者5社の月間トラフィックは、2010年6月から2011年6月の1年間に約2倍になったそうだ(a)。これは、スマートフォンでパソコン同様にウェブの閲覧やメールの送受信ができるようになったためと思われる。
トラフィックの増大によって3G回線の容量が逼迫し、都市部の人口密集地では通信速度が低下する現象も起きているという。
その対策として、通信事業者各社はさまざまな手を打っている。
その1つは、負荷の無線LANへのオフロードだ。これは3G回線の替わりに無線LAN経由でインターネットにつなぐことによって、3G回線の負荷を減らすものである。
もちろん自宅や職場の無線LANでもいいが、さらに無線LAN経由の割合を増やすため、各社は無料の公衆無線LANの提供に力を入れている。例えば、NTTドコモは、全国の空港、駅、カフェなど、6,800か所にアクセス・ポイントを設置して、2013年3月までは無料で提供するという。
また、1台の端末のトラフィックが一定期間に一定量を超えると、以後定められた期間、通信速度を規制する方策も各社がとっている。例えばドコモは、直近3日間のトラフィックが300万パケットを超えると通信速度を制限している(b)。
そして、課金の定額制の見直しの動きもある。定額制だといくら使っても負担が増えないため、通信インフラの費用の受益者負担の点からも問題だという考えだ。米国でも主な通信事業者が最近定額制を従量制に変更した。
こういう状況なので、通信事業者各社は、トラフィックの抑制、無線LANの併用に真剣に取り組んでいるものと思っていた。ところが、最近スマートフォンを使い出して、実態は必ずしもそうではないということが分かった。ドコモが取り扱っているサムスンのGalaxy
SU(OSはAndroid)という限られた事例だが、現状の一端をご紹介しよう。
トラフィックはまだ減らせる!
スマートフォンを購入してブラウザを開くと、ドコモが運営するオンライン販売サイトである「ドコモマーケット」の画面が表示された。こんな重たい(データ量の多い)ページを毎回開く必要性はまったくない。小生はパソコンでも「ホームページ」は「空白」にしているので、スマートフォンでもそうしようと思ったが、これができない。存在しないページを指定しても、ウェブの検索を始め、「ページが見つかりませんでした」と表示される(c)。
このほか、メールサーバーや、グーグルのクラウド・サービスとの同期の設定も、気を付けないとトラフィックがいたずらに増える。
トラフィックをどんどん増やし、定額制の契約をすれば、ユーザーは使い放題に使え、事業者は高収益を確保できて、一見双方ともハッピーに見える。しかし、これが3G回線の逼迫を招き、事業者は自分の首を絞めている。
通信事業者は、利便性の高いサービスの提供でトラフィックを増やし、収益の増大を図るとともに、無益なトラフィックを抑えて、サービスの質の維持を図る必要がある。
無線LANを使いやすく!
小生の場合、外出先でスマートフォンを使うことは少なく、自宅で使うことの方が多い。自宅には無線LANの設備があり、ノートPC、ゲーム機などを接続しているので、スマートフォンも無線LANで使えば、通信速度も速く、通信料金もかからない。小生以外にも、スマートフォンを無線LANが使える自宅、職場、公共施設などで使うことが多い人がかなりいるはずだ。こういう人たちにとっても同じである。
そこで無線LANの設定を試みたが、小生が使っているバッファローの無線LANルーターのAOSSというセキュリティ・システムの設定法の説明が見当たらない。AOSSは広く一般に使われていて、例えば任天堂のゲーム機などにも説明がついている。ウェブ情報を調べて対処したが、これではこういう作業に慣れてない人は困るのではなかろうか?
また、ドコモの公衆無線LANの設定など、3G回線でしかできず、無線LAN経由ではできないものがある。何でも無線LAN経由でできることが望ましいが、少なくとも何ができ、何はできないかの説明が必要だ。
これでは無線LANのユーザーの拡大は難しい。公衆無線LANのアクセス・ポイントの増強の前にやるべきことがあるようだ。
3G回線と無線LANを平等に!
無線LANが使えるところでは無線LANを使い、それが使えないところでは3G回線を使って、高速なデータ通信を安く行いたい。移動中もこれらが自動的に切り替わって、シームレスに通信を続けられればさらによい。そして、無線LANが使えなくなったときは何らかの警告が欲しい。
3G回線と無線LANは、インターネットの接続手段として平等に扱ってもらいたいものだ。そのためには現在の事業形態の見直しが必要かも知れない。
[関連記事]
(a) 「1年で2倍に膨れあがったトラフィック、無線LANオフロードが不可欠に」、日経コミュニケーション 、2011/10/04、日経BP社
(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Active/20111004/370060/)
(b) 「ドコモの通信速度制限、10月1日より「直近3日間で300万パケット」、ケータイWatch、2009/10/1、Impress
(http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20091001_318672.html)
(c) 酒井 寿紀、「Galaxyを使ってみて(1)・・・Wi-Fiは使うな!?」、Tosky's IT Review、2011年9月11日
(http://toskysitreview.blogspot.jp/2011/09/galaxy1wi-fi.html)
(d) 酒井 寿紀、「3GとWi-Fi、いずれが主役?」、OHM、2012年4月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2012/ar1204ohm.htm)
(e) 酒井 寿紀、「NTTドコモがやっとWi-Fiに本腰に!」、Tosky's IT Review、2012年7月6日 (http://toskysitreview.blogspot.jp/2012/07/nttwi-fi.html)
(f) 酒井 寿紀、「スマートフォンはWi-Fiで!」、OHM、2013年7月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1307ohm.htm)
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