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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2011年7月号 掲載 PDFファイル
恐竜は絶滅せず?・・・メインフレーム
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
最近メインフレームが急増?
米国のIDCという調査会社が、サーバーの売上高のオペレーティング・システム(OS)別の統計を発表している。それによると、2010年第4四半期の全世界のシェアは、Windowsが42.1%、Unixが25.6%、Linuxが17.0%、z/OSが11.3%、その他が4.0%だという。z/OSとはIBMが1964年のシステム/360の発表以来販売しているシステム/360系のコンピュータに使われているOSの最新版だ。いわゆるメインフレームのOSの代表である(a)。
1960〜1970年代には、現在のクライアントに相当するものはなかったので、コンピュータといえばサーバーであり、その大半をメインフレームが占めていた。そのため、サーバーの大部分を占めていたメインフレームのシェアが今や10%程度になってしまったということもできる。まさに隔世の感がある。
メインフレームはこのまま減少を続けて、恐竜同様、やがて絶滅する運命にあるのだろうか? 話はそう単純ではないようだ。
前記の統計によると、z/OSを使ったサーバーの売上高は、2009年第4四半期から2010年第4四半期にかけての1年の間に69%も増えたという(b)。これにはIBMの新機種発表のタイミングや販売政策などが影響していると思われるが、メインフレームの世界は一体どうなっているのだろうか?
メインフレームのソフトはどこへ行った?
1960〜1980年代にメインフレームで使われていたソフトは現在どうなっているのだろうか? 極めて断片的な事例だが、その一端を見てみよう。
機構設計やデザインに使われていたソフトに、元々ロッキードが航空機の設計用に開発したCADAMや、元々フランスの航空機メーカーのダッソーが自社用に開発したCATIAがあった。これらはIBMのメインフレーム用のソフトだったが、1980年代の後半にはUnixに移行した。これらの技術関係のソフトにはUnixのワークステーションが適していたため、早い時期にUnixなどに移行したものが多い。
ERP(企業資源計画)という、経営資源の統合的な有効活用を図るソフトでは、ドイツで開発されたSAPが最も普及している。これにも1970〜1980年代にはIBMのメインフレームが使われていたが、1990年代の前半になってWindowsやUnixのオープン系のOSが使われるようになった。
銀行のオンライン・システムには、各銀行に専用のメインフレームのソフトを使っているものが多い。現在でも日本の3大メガバンクはメインフレームを使っている。しかし、2000年代に入って、銀行のシステムにもオープン系のソフトが使われるようになった。シティバンクは100か国の銀行のシステムをインドで開発されたFLEXCUBEというソフトで置き換えつつある。日本でも新生銀行、じぶん銀行などはこのソフトを採用している。
1950年代にアメリカン航空が座席予約用に開発したSabre(セイバー)という予約システムや、ヨーロッパの航空会社が共同で開発したAmadeusという予約システムにもIBMのメインフレームが使われていた。しかし、2000年代に入って、これらについてもLinuxへの移行が進んでいる(c),(d)。
一方、ユナイテッド航空などの予約システムを運営しているトラベルポート社は、昨年IBMとのメインフレームのソフトの契約を2014年まで延長した。新システム開発の資金と期間に問題があったためだと言われている。
このような旅行関係の予約業務は、各種交通機関やレジャー施設などの予約とのウェブによる連携が重要なので、いずれすべてオープン系に移行するものと思われる。
メインフレーム・メーカーは2極分化?
前述のように、メインフレームからオープン系への流れは長期的にはもはや止まらないだろう。最大の理由は費用の差だ。シティバンクはFLEXCUBEの採用によって年間100億円近く低減できる見通しだという。
しかし、過去50年近くにわたって蓄積されたメインフレームのソフトが一朝一夕にはオープン系に移行できないのも事実だ。今後何十年にもわたって塩漬けに近い状態で使い続けられるメインフレームのソフトも多いことと思う。
ではメインフレーム・メーカーは、この現実にどう対応しているのだろうか?
ユーザーが多い企業は、従来通りメインフレーム専用のCPUを開発しても元が取れる。その代表格がIBMだ。同社は、メインフレームの上でLinuxも使えるようにして、さらにユーザーを拡大しようとしている。
一方、ユーザー数が少ないメインフレーム・メーカーにとっては、専用CPUの開発費の回収が困難だ。そのため、オープン系への移行を推進することになり、メインフレームは移行が完了するまでの「つなぎ」としての役割になる。NEC、富士通などはメインフレームのOSをインテルの汎用マイクロプロセッサ上でも使えるようにしている。
このように、従来のメインフレーム・メーカーの歩む道は二つに分かれることになりそうだ。いずれの道も、オープン系が主流になる中でユーザーを維持するのは容易ではないと思われるが、IBMには残存者利益を享受できる可能性もある。
[関連記事]
(a) "IDC: Dollarwise, Windows still leads the server market",
IBM Atop Q4 Worldwide Server Sales", 3/1/2011, InformationWeek
(http://www.informationweek.com/servers/ibm-atop-q4-worldwide-server-sales/d/d-id/1096366)
(c) "Sabre Flies to Open Systems", May 31, 2004, Computerworld
(http://www.computerworld.com/s/article/93455/Sabre_Flies_to_Open_Systems?pageNumber=1)
(d) "Amadeus moves all hotel GDS operations from TPF to open-systems Linux platform", Nov 30, 2007, Air Transport World
(e) 酒井 寿紀、「恐竜対コバンザメ」、OHM、2011年8月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2011/ar1108ohm.htm)
(f) 酒井 寿紀、「コバンザメは死なず?」、OHM、2011年9月号、オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2011/ar1109ohm.htm)
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