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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2011年6月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai
Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
Androidのタブレットが勢揃い
本コラム3月号の「WintelからAndrarmへ?」に記したように、昨年4月にアップルがiPadを発売して以来、タブレットの市場に火がついた。そして、その大半はOSにグーグルのAndroidを使っている。デルが昨年6月に英国でStreakを発売し、サムスンは10月にGalaxy
Tabを発売した。今年2月にはモトローラがXoomを発売し、4月には台湾のエイサーが発売した。そして、5月には台湾のHTCが発売の予定だという。また、台湾のASUS、東芝、パナソニック、ソニーなども発売を予告している。これらはすべてAndroidを使ったタブレットだ。
Androidはもともとスマートフォン用のOSで、今年2月に一般にリリースされたバージョン3.0がタブレット向けに強化されたものである。本バージョンの登場を待っていたメーカーも多いと思うので、今年はいよいよAndroidのタブレットの商戦が本格化するだろう。
Windowsも登場
一方、2009年10月にリリースされたマイクロソフトのWindows
7もタブレット用の機能を大幅に強化している。マルチタッチのタッチスクリーンを使って画面を拡大・縮小する機能、タッチスクリーン向けの手書き入力機能などだ。また、タブレットはハードディスクの替わりにフラッシュメモリを使うので、フラッシュメモリに適したファイル管理を用意している。
これらの機能を生かしたタブレットが昨年来何機種か発表されている。
韓国のLGは、2010年内にAndroidのタブレットを発売すると予告していたが、これを延期し、昨年11月にWindows
7のタブレットを発表した。
ASUSは今年1月、Androidと合わせてWindows
7のタブレットを発表した。エイサーもWindows
7のタブレットの発売を予告している。
富士通はこの4月からWindows
7のタブレットを全世界で順次発売するという。東芝も今年前半に発売するということだ。
また、現在Androidのタブレットを販売しているデルは、今年後半にはWindows
7のタブレットも発売するという。
このように、昨年はAndroidでiPadに対抗しようとする動きが活発だったが、最近Windows
7を使ったタブレットも現れつつある。
閉鎖社会対オープンな世界
現在のタブレットの市場はアップルのiPadが開拓したものだ。しかし、iPadはアップルしか販売せず、そのアプリケーション・プログラム(AP)はアップルが運営するApp
Store経由でしか買えない。こういう閉鎖的な社会のため、その普及には限界があると思われる。アップルのMacintoshの普及に限界があったのと同じだ。これは、同様に閉鎖的なタブレットであるリサーチ・イン・モーションのBlackBerry
PlayBook、ヒューレット・パッカードのTouchPadなどについても同じである。
したがって、今後はAndroidとWindowsの両陣営がオープンなタブレットの市場で熾烈な戦いを繰り広げることになると思われる。
二股作戦が正解?
iPadのOSであるiOSは、もともとスマートフォンのiPhoneで使われていたものだ。そのため、iOS用のAPの流通市場であるApp
Storeには、ゲームや書籍閲覧ソフトなど、iPhoneとiPadに共通のAPが多数揃っている。
Androidも、もともとスマートフォン用に開発されたもので、現在そのAPの流通市場であるAndroid
Marketに並んでいるのは、スマートフォン向けのAPだ。今後Androidのタブレットが多数現れれば、タブレット向けのAPも揃うだろう。
こういう背景から、iPadやAndroidのタブレットは「画面の大きいスマートフォン」という色合いが濃い。
一方、オフィスや自宅でパソコンを使ってしていることを、外出先や旅行先でも同じようにしたいというニーズがある。このニーズに対しては、従来ノート・パソコンで対処してきた。タブレットは、このノート・パソコンをさらに簡便にしたものでもある。
オフィスや自宅のパソコンは圧倒的にWindows系が多いので、こういうニーズのためにはAndroidよりもWindows系の方が適している。Windows
7を使ったタブレットは、こういう市場を狙ったものと思われる。
別の見方をすれば、Androidのタブレットは個人向けが中心で、Windows
7のタブレットは企業向けが中心と言うこともできよう。
このように、両者が狙う市場は多少ずれている。しかし、タブレットをゲームや読書に使うと同時に、外出先ではモバイル・パソコンとしても使いたい人も多いだろう。また、Android上でWindowsのAPと同等のことができるようになる可能性もある。したがって、将来は両者がまともに競合することも考えられる。
Androidの方が多少早く戦端を切ったが、勝敗は所詮仲間作りの成否によるので、その帰結がどうなるかはまだ分からない。
こういう状況の下で、ハードウェア・メーカーとして1つの戦略は、デル、ASUS、エイサー、東芝などのように両方の市場に参入しておくことかもしれない。天下の形勢がどうなるか分からず、天下の形勢を決定付けるような力が自社になければ、それが一番確実な戦略である。
[関連記事]
(a) 酒井 寿紀、「マイクロソフトとグーグル、ハード参入の真意は?」、OHM、2012年9月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2012/ar1209ohm.htm)
(b) 酒井 寿紀、「オープンか、クローズドか?・・・アップルのシェアが示すもの」、OHM、2013年10月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1310ohm.htm)
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