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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2010年11月号 掲載        PDFファイル

 

FMC時代の到来!?

 

酒井 寿紀Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所

 

スマートフォンがきっかけに

固定電話回線と携帯電話回線を使うことができるデュアルモードの携帯電話はFMC (Fixed Mobile Convergence)と言われ、一時大変話題になった。しかし、端末が高価なこともあってあまり普及しなかった。

NTTドコモは2004年に企業向けに「Passage Duple(パッセージ・デュプレ)」というFMCのサービスを開始し、2008年には個人向けに「ホームU」というサービスを開始した。しかし、現在ホームUで使える携帯電話端末は1機種のみである。また、イギリスのBT2005年に「BTフュージョン」というFMCのサービスを開始したが、2009年に撤退してしまった。

しかし、こうした状況が最近のスマートフォンで一変した。例えばiPhoneは、無線LANが使えるところでは無線LANを使い、使えないところでは自動的に携帯電話回線に切り替わって、シームレスにウェブの閲覧やメールの送受信ができる。従来のFMCと違いデータ通信についてだが、最近のスマートフォンはFMCをごく普通のものにしてしまった。

これらのスマートフォンは、基本機能としては、電話は携帯電話回線だけによるものが多い。しかし、サード・パーティーのソフトを使うことによって電話についてもFMCができるものもある。これは、インターネット上で音声を伝えるVoIP (Voice over Internet  Protocol)の技術を使うもので、インターネット電話と呼ばれる。インターネット電話を使えるのは無線LAN経由だけで、携帯電話回線では使えないものもあるが、これは通信事業者の経営上の都合によるもので、技術的問題ではない。

例えばiPhoneには、このようなVoIPのソフトを提供しているサード・パーティーが10社以上ある。その一つのTruphoneを使えば、12.95ドル/月で多くの国から全世界に無制限に電話をかけられる。

このようにして、スマートフォンのベンダーによって、ユーザーから見れば音声/データを含めた新しいFMCの世界が出現した。では、この新たなFMCについて、通信事業者は今後も部外者であり続けるのだろうか?

 

通信事業者も乗り出す?

上記のようなFMCに通信事業者が乗り出さないのは、電話の通話料の収入が減るのを恐れているためだ。しかし、サード・パーティーによるインターネット電話のメリットが一般に認められれば、たとえ通信事業者が携帯電話回線を使ったインターネット電話を禁じても、自宅や職場など無線LANが使える場所からの電話の多くはインターネット電話に流れていくだろう。メールと同じように、定額で全世界に無制限に電話がかけられるからだ。

そうなれば、通信事業者もこのインターネット電話に乗り出すことになると思われる。通話料の収入が減っても、まるまる他社に取られてしまうよりもましだからだ。そしてこれは、データ・音声・映像などすべての通信をIP網上で実施するという、現在推進中のNGN (Next Generation Network)の計画とも合致する。また、携帯電話での通話の一部を固定回線に流すことは、無線周波数の帯域不足の問題の解決にもなる。そして、自社のIP網を使ってインターネット接続や電話のサービスをすでに提供している事業者にとっては、新たな設備投資は限られる。

NTTの場合は法的制約もあって、固定網と移動網が実質上別会社によって運営されているという問題がある。しかし、この分離はもう実情にそぐわないので、早急に見直す必要がある。

また、通信事業者が自ら手がけるようになれば、ユーザーにとってもメリットがある。相互接続している通信事業者内の通話は、インターネットを使わず、通信事業者内で閉じたIP網だけでできるので、音声の品質や接続の信頼性が向上するからだ。そして、サード・パーティーと契約する必要がなくなり、契約を一本化できるのもメリットだ。

 

固定電話はなくなる?

このようにして、携帯電話端末が無線LANを介してアクセス網に接続され、それがインターネットや携帯電話の基幹網につながるようになるだろう。こういうアクセス網の多くは、すでに固定電話の基幹網につながっている。そして、NGNの時代には両基幹網は統合される。つまり、各家庭の回線終端装置までは共通で、その先に固定電話端末と、無線LAN経由で携帯電話端末がつながることになる。

そうなれば、携帯電話端末を固定電話の端末としても使いたくなるのが自然だろう。大家族の家庭では、固定電話のコードレスの子機がいくつもあり、その上、各人が携帯電話端末を持っていることも多いだろう。これらが携帯電話端末だけで済めば便利だ。したがって、コードレス電話の市場は衰退していくと思われる。

では固定電話の親機はどうか? 固定電話の発着信にも携帯電話端末が使えるようになれば、親機が必要なのはファックスを使うときぐらいになる。しかし文書や図面はメールに添付して送受信することが増えつつある。必要ならパソコンに接続されたプリンタ/スキャナを入出力に使えばよい。将来は、携帯電話端末も、無線LANでつながった家庭内ネットワークの一員になり、パソコンのプリンタやスキャナを共用できるようになるだろう。

そうなったとき、はたして現在のファックスは生き残れるのだろうか?

 

[関連記事]

(a) 酒井 寿紀、「固定電話がなくなる?」、新電気、2007年4月号、オーム社

        (http://www.toskyworld.com/archive/2007/ar0704shindenki.htm)

     


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