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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2010年6月号 掲載 PDFファイル
総務省がSIMロック解除を要請!
酒井 寿紀(Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
ソフトバンクが猛反発
総務省は、4月2日に「携帯電話端末のSIMロックの在り方に関する公開ヒヤリング」を開催した。SIM (シム、Subscriber Identity Module)カードとは、携帯電話端末の中に入っているICカードで、日本の携帯電話では、他社のSIMカードと差し替えることができないようにロックされている。このSIMロックを今後どうするべきかという話である。
このヒヤリングで、総務省のSIMロック解除の要請がおおむね合意され、報告を受けた原口総務大臣は喜んだと報道された。携帯電話事業者の中では、ソフトバンクが最も強硬に反対したが、強制ではなく、事業者の自主性にゆだねるとの総務相の言葉を引き出して、最終的には納得したようだ(a),(b)。
この問題は、2007年9月号の本コラムで取り上げたように、2007年に「モバイルビジネス研究会」で議論され、2010年に問題を先送りすることになったものだ。(1)
そもそも何が問題で、どうあるべきなのだろうか? 振り返ってみよう。
そもそもSIMは何のため?
SIMカードには契約者を特定する番号が記入されていて、これによって全世界の携帯電話が識別できる。このSIMカードを差し替えることによって、1つの携帯端末を別の通信事業者の回線で使うことができる。
この機能を使えば、普段使っている端末を海外でも使える。国内でも、より安い通信事業者に容易に乗り換えられる。ただし、同一通信方式の事業者間でないと乗り換えはできず、例えば、NTTドコモとKDDIの間での乗り換えはできない。また「iモードメール」など、通信事業者が提供しているメールのアドレスは変わってしまう。
また、この機能を利用すれば携帯端末の選択肢が広がる。必要に応じて、通話とショートメッセージしかできないシンプルで安い端末から、新発売のスマートフォンまで、通信会社との契約を変更せずに自由に切り替えられる。
このようにSIMカードを自由に差し替えられる端末を「SIMフリー」、差し替えを禁じたものを「SIMロック」という。SIMロックは、パソコンのネットワークの世界で言えば、パソコン、通信回線、コンテンツについて、すべて同一の企業から提供を受けなければならないようなものだ。抱き合わせ販売の最たるものである。
海外では?
ヨーロッパや日本以外のアジア諸国ではSIMフリーの端末が普通だ。2,000円台の、通話とショートメッセージしかできないものから、数万円のスマートフォンまで、SIMカードのないSIMフリーの端末を買うことができる。端末メーカーが販売しているものの中から気に入ったものを選べばよい。一般の電気製品と同じだ。これらの端末に通信事業者から別途購入したSIMカードを挿せば携帯端末として使える。
米国など、海外にもSIMロックされた端末もある。また、アップルのiPhoneは、多くの国で日本と同様にSIMロックされたものしか販売されていない。
このように、海外ではSIMフリーが一般的だが、SIMロックが法的に禁止されているのはシンガポールぐらいで、その他の国では企業が自主的にSIMフリーを採用している。
望ましい姿は?
では、どういう市場形態が、ユーザーにとっても、企業にとっても望ましいのだろうか?
ユーザーにとっては、自分に合った端末が自由に選べ、それが安い通信回線でどこでも使えることが望ましい。
端末メーカーにとっても、自社独自の特長ある端末を開発して、全世界で販売するためには、基本的にはSIMフリーが望ましいはずだ。現に、Simbian、Windows Mobile、AndroidなどのOSを使ったスマートフォンにはSIMフリーのものが多い。
通信事業者は、安く、高速で、信頼性が高く、サービスエリアが広い回線を提供することをコア・コンピタンスにするべきだ。人気端末の独占販売権を獲得し、SIMロックをかけて自社の通信網でしか使えないようにして差別化を図るのは、一時的な事業戦略としてはよくても、ユーザーの利便性をそこなう。自社の通信網の弱みを他社の人気端末の強みで補おうとしても、長期的な事業の発展は望めないだろう。
SIMフリーは、原口総務相も言うように、政府が強制すべき問題ではない。本来企業が自主的に採用すべきものだが、日本の情報通信機器メーカーの団体である情報通信ネットワーク産業協会の見解が、SIMロック解除に対してきわめて後ろ向きなのが気になる(c)。
総務省としては、まずは通信事業者がSIMカード単体を販売するように導くことだろう。そうすれば世界中のSIMフリーのスマートフォンが日本に上陸し、ユーザーの選択肢が増えるとともに、通信事業者の通信料収入も増大する。もちもん、中国製や台湾製の安い端末もどんどん入ってくるだろうが、通話とショートメッセージだけでいい人も多いはずだ。日本の端末機メーカーにとっては歓迎できない事態かもしれないが、日本の市場が海外並みになるだけなので、これに対応できなければ海外への進出などおぼつかない。
(1) 「携帯電話ビジネスの課題は?」, OHM, 2007年9月号, オーム社 (http://www.toskyworld.com/archive/2007/ar0709ohm.htm)
[関連記事]
(a) 「携帯電話のSIMロック、解除を要請へ--総務省」、2010/04/05、CNET (http://japan.cnet.com/news/com/20411543/)
(b) 「ソフトバンクが総務省の「SIMロック解除」方針に猛反発する理由」、2010年04月06日、現代ビジネス
(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/416)
(c) 「携帯電話端末のSIMロックの在り方について意見表明」、10/04/07、情報通信ネットワーク産業協会
(http://www.ciaj.or.jp/jp/pressrelease/2010/04/07/4/)
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