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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2010年3月号 掲載 PDFファイル
酒井 寿紀(Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
スマートフォンのOS別シェアは?
携帯電話の売り上げが伸び悩んでいる中で、勢いがいいのはスマートフォンだ。そのOS別の台数シェアは、Canalysの2009年第3四半期の統計によると、上位から順に、Symbianが46%、BlackBerryが21%、iPhoneが18%、Windows Mobileが8.8%、Androidが3.5%だという。これら5 OSで97%強を占め、その他は3%弱に過ぎない(1) 。
小生は5年前にオーム社の雑誌に、携帯電話のプラットフォームもパソコンなどと同じように今後寡占化が進むだろうと記したが、スマートフォンについてはその傾向が顕著になってきたようだ(2) 。今後さらに寡占化が進むと思われるが、市場を制するのはどのOSだろうか? まず、最近の推移を見てみよう。
現状ではSymbianが圧倒的なシェアを占めている。しかし、上記統計によると、2年前の2007年第3四半期のSymbianのシェアは68%で、Symbianはこの2年間にシェアを22ポイント落としている。
この間に最もシェアを伸ばしたのはiPhoneで、この2年間にシェアを3%から18%へと15ポイント増やした。そして1年前にAndroidが戦列に加わり、この1年で3.5%のシェアを獲得した。このAndroidのシェアが今後どうなるかが、当面の注目の的だ。そこで、Android陣営の状況を見てみよう。
続々とAndroidを採用
Androidは 2007年11月にグーグルによって発表された。Androidを使ったスマートフォンのトップバッターは台湾のHTCによるもので、2008年10月から順次世界各国で発売された。日本でも、その後継機のNTTドコモ版であるHT-03Aが昨年7月に発売された。
HTCに続いて昨年6月以降、サムスン、モトローラ、LG、デル、エイサー、グーグルが発売した。また、ソニー・エリクソン、シャープ、NEC、パナソニックなども製品を発表したり、検討中と表明したりしている。
これらの企業の中には、モトローラやエイサーのように、従来使っていたWindows MobileをAndroidに切り替えたところもある。なぜ、このように多くのメーカーがスマートフォン用OSにAndroidを選択したのだろうか?
なぜAndroidか?
まず第1に、iPhone OSなどが「クローズド」で、それを使うハードウェアは特定のメーカーしか作れないのに対して、Androidは「オープン」で、誰でもハードウェアを開発・販売できることがある。
オープンな世界では多種多様なニーズに応える製品が現れる。Androidを使ったスマートフォンには、4インチの大型ディスプレイを備えたもの、8メガピクセル以上のカメラを持つもの、11mm台の薄さを誇るもの、GSM系の回線で使えるもの、CDMA系の回線で使えるものなどあり、非常にバラエティに富んでいる。1社の製品ではとてもカバーしきれない。
この品揃えの豊富さがシェアの拡大につながり、そして、それがまた新企業の参入を促して、シェアの拡大再生産が実現する。パソコンの世界で、アップルのクローズドなMac OSの方が技術的には先行していて、優れている点が多かったが、ビジネス面でオープンなWindowsに勝てなかったのも同じだ。
第2の理由は、AndroidがWindows Mobileなどと違い、オープンソースで、ユーザーが自由に変更できることだ。そのため、例えば特定の業種や業務向けのスマートフォンを容易に作ることができる。この点で、特にビジネス用に向いている。
その他の理由として、Windows Mobileなどは、次世代のスマートフォンの操作の基本になると思われるマルチタッチ・スクリーンをまだサポートしてないこともある。また、スマートフォンのメーカーにとっては、Androidが無料であることももちろん重要な点だ。
これらの理由から、各社がAndroidへと走っているのだろう。では、Androidに問題はないのだろうか?
Androidの問題は?
一つの問題は、オープンソースで自由に変更できるために、相互に通用しない「方言」を含んだAndroidが多数できるおそれがあることだ。特定の業種向けなどに変更できる強みが逆に弱みにもなる。必要な「方言」は結構だが、「標準語」を使うべき分野にまで侵食しては困る。方言の適用範囲を厳しく規制する必要がある。
もう一つの問題は、すべてをウェブで処理しようという、クラウド指向のOSだということだ。スマートフォンでのデータ処理は大半がウェブでも片付くかもしれないが、やはり端末側で処理した方が合理的なものもあるのではなかろうか?
Androidの本格的な登場はこれからで、Androidにもこのような問題があるが、現在のところこれが今後最も有望なOSだと思われる。
(1) “Canalys
Q3 2009: IPhone, RIM taking over smartphone market”,
AppleInsider, November 3, 2009
(2) 酒井 寿紀:「いつか来た道・・・携帯電話のプラットフォームはどうなる?」、Computer & Network LAN、2005年1月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2005/0501itsukakitamichi.htm)
[関連記事]
(a) 酒井 寿紀、「自由か、統制か?・・・Androidの進む道」, OHM, 2012年2月号, オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2012/ar1202ohm.htm)
(b) 酒井 寿紀、「オープンか、クローズドか?・・・アップルのシェアが示すもの」、 OHM、2013年10月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1310ohm.htm)
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