home > Tosky's Archive >
(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2009年9月号 掲載 PDFファイル
iモードの時代は終わった!?
酒井 寿紀 (Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
iモードからの撤退が続出
携帯電話でのインターネットの利用は、日本では1999年に始まった。この年に、NTTドコモはiモードのサービスを開始し、国内での普及を図るとともに、海外展開に努めてきた。その結果、海外のかなりの通信事業者もiモードのサービスを始めた。しかし、2007年7月に、オランダのKPN(*)、イギリスのO2、オーストラリアのテルストラがiモードから撤退し、ドイツのE-プルスも2008年4月にサービスを打ち切った(a),(b),(c),(d)。
その背景には、アップルのiPhoneが2007年1月に発表され、同年7月から出荷されたことが大きく影響したと思われる。iPhoneは携帯電話でのインターネットの使い方に変革をもたらし、2009年3月までの2年弱で2,100万台出荷したという。では、これはiモードとどう違うのだろうか?
ウェブの閲覧を中心に見てみよう。
iモード vs. iPhone
iモードのウェブはいわゆる「公式サイト」が中心である。これはドコモの管理下にあり、そのサーバはドコモのネットワーク内にあって、インターネットからはアクセスできない。ドコモの携帯電話からは、このほかにインターネット上にある「勝手サイト」もアクセスできる。一方、iPhoneには公式サイトのようなものはなく、パソコン用のサイトをすべて閲覧できる。現在は映像の視聴などに制約があるが、将来的にはもっと多くのものが閲覧できる方向を目指していると思われる。
そのため、画面の操作方法にも両者に大きな違いがある。
iモードはおなじみの十字ボタンや数字ボタンで操作するが、パソコン用の大きいウェブページの閲覧にはこれでは不便だ。そのためiPhoneの画面はタッチスクリーンになっていて、指で画面に触れて上下左右に自由にスクロールできる。また、画面を2本の指でつまんで広げたり狭めたりすることによって画面の拡大・縮小ができる。
iPhoneには物理的なキーボードはなく、文字入力には画面上のキーボードを使う。しかし、キーボードでの文字入力は携帯端末の最大の難点なので、iPhoneの新機種は音声入力に力を入れている。名前か電話番号を言えば電話をかけられ、演奏者名を言えば音楽の再生ができる。ウェブで閲覧できるiPhoneのデモのような音声認識能力があれば、文字入力の必要頻度は相当減るだろう。現在、復唱する音声の品質は、英語はともかく日本語はお粗末だが、アップルは今後これらの問題を改善し、音声入力の適用範囲を拡大することに力を注ぐものと思われる。
ビジネス面での違いはどうだろうか?
iモードでは、有料の公式サイトについてはドコモが情報料の回収を代行し、その手数料を取る。一方iPhoneでは、サイトを有料にするか無料にするか、広告を掲載するか否かはサイト運営者の自由だ。
また、iモードには携帯端末上のソフトを他社に自由に開発させるという考えはないが、iPhoneではこれができる。ただし、その配布にはアップルの承認が必要で、配布はアップルが運営するサイト経由に限られる。すでに6万5,000本以上のソフトが登録されていて、iPod touchと合わせて15億件以上ダウンロードされたという。
このようにiPhoneはパソコン用ウェブの世界の一端末という位置づけである。では、iモードは最初から道を誤ったのだろうか?
iモードが道を切り開いたが・・・
携帯電話によるインターネットの利用のため、1998年にWAP 1.0という規格が制定された。しかしその規格は、通信手順もウェブ記述言語も、インターネットと大きく異なっていた。
1999年にサービスを開始したiモードは本規格を採用せず、インターネットにより近い仕様を採用した。そしてドコモは、2001年にサービスを開始した第3世代では、さらにインターネットに近い仕様を取り入れた。また、ドコモの働きかけによって、2002年に制定されたWAP 2.0にはこの仕様が取り入れられた。
こういう経緯を踏まえて2007年にiPhoneが登場した。この一連の流れは携帯電話独自の世界から標準のインターネットとの統合へと向かうもので、かつてはドコモがリードしていた。
この流れの背景にあるのは、この10年間のハードウェアの飛躍的進歩だ。通信速度は数十kbpsから数Mbpsと2桁速くなり、フラッシュメモリの価格は1/100以下に下がった。10年前に携帯電話でインターネットのようなことをするには、通信規格を簡易化し、ソフトを軽くせざるを得なかった。しかし、この間のハードウェアの進歩で、仕様を簡易化してコストを下げるよりも、インターネットと同じ仕様にして利便性を向上させる方が得策になった。その結果携帯電話は、パソコン、ネットブック、ビデオゲーム機、カーナビなど、数あるインターネット端末の一つになりつつある。
ドコモはかつてこの流れの先頭を走っていた。しかし、ITビジネスの競走では初めからゴールが決まっているわけではない。大集団が目指すところがゴールになる。トップを走っているつもりでも、振り返ったら誰もついて来なくなっていることもある。したがって、トップランナーは後続集団が向かう方向に常に注意を払う必要がある。これはドコモに限らず、ドコモを目標に走っている者、そしてKDDIなど全世界のWAP系の走者についても同じである。
(*) 誤記修正 (14/6/22)
[関連記事]
(a) "O2 scraps i-mode mobile internet service", 17th Jul 2007, London South East
(b) "Telstra kills off mobile i-mode", July 18, 2007, Australian IT
(c) 「KPN, i-Modeを静かに消滅させる計画」、2007-07-20、Portfolio News (http://www.portfolio.nl/article/show/1564)
(d) "E-Plus kills i-mode service", 20 Mar 2008, The Register (http://www.theregister.co.uk/2008/03/20/eplus_kills_imode/)
(e) 酒井 寿紀、「外圧で開国?・・・日本のケータイ」、OHM、2008年4月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2008/ar0804ohm.htm)
(f) 酒井 寿紀、「携帯電話のウェブがついに開国?」、OHM、2006年12月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2006/ar0612ohm.htm)
(g) 酒井 寿紀、「iモード開国!? (コンテンツ)」、2001/02/18、Tosky's MONEY
(http://www.toskyworld.com/money/2001/money104.htm)
「Tosky's Archive」掲載通知サービス : 新しい記事が掲載された際 、メールでご連絡します。
Copyright (C) 2009, Toshinori Sakai, All rights reserved