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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 2009年6月号 掲載 PDFファイル
おサイフケータイの行く末は?
酒井 寿紀 (Sakai Toshinori) 酒井ITビジネス研究所
FeliCaが日本市場を席巻
首都圏ではSuica(スイカ)という非接触型のICカードを持っていれば、どの電車にもバスにも乗れるようになり、いちいち切符を買う必要がなくなった。他の地方でも同様なことができる。そして最近は、このカードの機能が携帯電話に組み込まれた。「モバイルSuica」と言われるもので、買い物などにも使える「おサイフケータイ」の一機能である。
これらにはすべてソニーのFeliCa(フェリカ)という非接触カードの技術が使われている。ソニーによれば、そのICは2007年3月までに、カード用1億6,000万個、ケータイ用4,000万個、合計2億個出荷したという。これは日本だけでなく、香港やシンガポールの交通機関でも使われている(a)。
では全世界の非接触カードの市場でFeliCaはどういう位置づけなのだろうか? そして将来はどうなるのだろうか?
クレジットカードを制する者が世界を制する?
現在、全世界で広く使われている非接触カードには3種類ある。一つはFeliCaで、他の一つはフィリップスによって開発されたMifare(マイフェア)である。これはロンドンやソウルの交通機関用などに10億個以上出荷したという。ISOの14443タイプAという標準規格に制定されている。
もう一つはモトローラによって開発された14443タイプBで、クレジットカード用としてMasterCardが2005年から、Visaが2007年から採用している。普通のクレジットカードとしてはVisaが約17億枚、MasterCardが約10億枚発行されているというので、今後はこの14443タイプBの数が急激に増える可能性がある。
FeliCaもJCBなどの日本のクレジットカードには使われているが、クレジットカード用としてはあまり普及していない。その理由の一つに、日本人はクレジットカードを非接触にする必要性をあまり感じていないことがあると思われる。非接触型にすれば店員にカードを渡す必要がなく、店舗でのカード番号の流出を防止できる。このメリットを重視する海外では、今後クレジットカードの非接触カード化が急速に進む可能性がある。そしてクレジットカードは寡占市場なので、Visa、MasterCardなどが採用している方式が業界標準になる。JCBも海外では本方式を採用している。
MasterCardも2000年頃にはMondexという電子マネー用にFeliCaの採用を検討していたが、結局採用に至らず、FeliCaはクレジットカードの大市場への参入のきっかけを逃した。
カードからケータイへ
非接触技術は前述のようにICカードから始まったが、2004年に日本で「おサイフケータイ」が出現し、世界に先駆けて携帯電話に取り込まれた。それは携帯電話の方がカードより便利な点が多いからだ。カードを入れた財布よりケータイの方がポケットなどから取り出しやすいこと、何枚ものカードを1台のケータイに集約できること、紛失したときすぐ電話回線で無効にできること、電話回線を使って残金を補充できることなどがケータイの利点だ。
これらの利点は海外でも同じなので、最近は海外でも非接触カードのケータイへの取り込みが進みつつある。無線通信については、Mifare、FeliCa、14443Bの規格を含むNFC (Near Field Communication)という規格が2003年にISOで承認された。現在NFCはNXP(フィリップスの半導体部門がスピンアウトした企業)、ソニーなどによって推進されている。
携帯電話での非接触技術の扱いについてはGSMアソシエーション(GSMA)という団体が活動している。無線通信についてはNFCを採用し、アプリケーションの仕組みは、UICC (Universal Integrated Circuit Card)という個人情報を記憶しておくカードに保持させるのが基本的な考えだ。UICCとNFCチップのインタフェースを「シングル・ワイヤ・プロトコル」という規格で標準化することによって、電話機を切り替えてもアプリケーションを継続して使えるようにする。GSMAはMifare、14443タイプB、FeliCaなどのアプリケーションをすべて考慮の対象としているが、目下推進中の試行にはMasterCardとVisaが参画しているので、14443タイプBが先行する可能性が高い。
いずれにしても、今後の非接触機能付きの携帯電話ではNFCのチップとアプリケーション用のチップが主役になる方向だ。もはやMifareやFeliCaのチップの時代ではなくなる。そのため、ソニーとNXPは2007年にモベルサ(Moversa)という合弁企業を設立し、NFCチップと組み合わせることによって、FeliCa、Mifareなどのアプリケーションが扱えるU-SAM (Universal Secure Access Module)という汎用のチップを開発することにした。
こういうチップを使った携帯電話が普及すれば、同じ携帯電話で東京の地下鉄もロンドンの地下鉄も乗れるようになり、世界中どこへ行っても、同じ携帯電話でクレジットカードを使った買い物ができるようになる。
日本の通信事業者や携帯電話機メーカーにとっては、現在提供中のサービスを継続しつつ、こういう新しい世界に軟着陸させることが今後の大きい課題になる。対応を誤ると、またガラパゴス島に取り残されることになるので、気を付ける必要がある。
[関連記事]
(a) 「FeliCa(フェリカ)ICチップ累計出荷2億個達成」、2007年03月01日、ソニー
(http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200703/07-021/)
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