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(株)オーム社 技術総合誌「OHM 2008年8月号 掲載        PDFファイル

 

 

WiMAXLTEが合流?

 

酒井 寿紀(さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

 

WiMAXの現状は?

WiMAX(ワイマックス)とは、無線LANの通信距離の延長を図ったもので、2001年のWiMAXフォーラムの設立以来、開発・商用化が進められてきた(a),(b)。一方、今年6月号の本コラムに記したように、LTE (Long Term Evolution)という携帯電話の次期規格が最近急速に脚光を浴びてきた(c)。両者は、実は技術的に非常に近く、適用分野も大幅にオーバーラップしている。今後両者の関係はどうなっていくのだろうか? まず、WiMAXの最近の状況を見てみよう。

韓国ではKTSKテレコムがWiBro(ワイブロ)というWiMAXの一種でサービスを提供している。WiBroは韓国の国家プロジェクトとして大々的にスタートし、2005年には、加入者数が2007年には230万人、2008年には490万人になると予想されていた。しかし、20084月末の加入者は約16万人に過ぎないという(d)

米国では、スプリント・ネクステルとクリアワイアが今年5月に、新会社を設立してWiMAXを推進すると発表した(e)

そして日本では、KDDIなどが出資するUQコミュニケーションズが、来年夏に東京、大阪、名古屋でWiMAXの商用サービスを始める予定である。

現在先進国の大都市圏で大規模なWiMAXのサービスを提供済み、あるいは計画中なのは上記だけである。AT&TBT、ドイツ・テレコム、NTTドコモなどもWiMAXの試験をしていたが、大都市圏で採用する計画を発表したところはない。

他方、WiMAXは、ブロードバンドのインフラが整備されてない開発途上国や先進国の僻地で、ブロードバンド接続の最後の部分、いわゆる「ラストマイル」の接続用としてかなり使われている。一例だが、WiMAXの機器ベンダーであるエアスパンの今年第1四半期の売り上げの30%はアフリカと中東で、24%はラテンアメリカである(f)。また、フランス・テレコムはWiMAXをアフリカ、ロシアなどで展開中である(g)

 

WiMAXLTEの関係は?

では、WiMAXLTEは技術的にどのような関係にあるのだろうか? 両者は、多重化、デュープレックス、変調などに基本的に同じ技術を使い、両者ともIP (Internet Protocol)を使って通信する。したがって、両者は技術的に極めて近い。

相違点の一つは、WiMAXが無線LANの通信距離の延長に始まったものなのに対して、LTEが現在の携帯電話の後継規格であることによる。そのため、LTEには第二世代、第三世代の携帯電話とのハンドオーバー機能があるが、WiMAXにはない。また、移動中の通信はWiMAXが時速120kmまでなのに対して、LTEは時速350kmまで可能である。しかし現在、発展途上国などで敷設されているWiMAXが、今後携帯電話にも使われるようになると、両者に対する要求の差は減っていく。

もう一つの相違点は開発時期の差からくるものである。WiMAXについては、2001年にWiMAXフォーラムが設立され、固定WiMAXの規格が2004年に制定され、その製品は2006年から出荷された。その後、モバイルWiMAXの規格が2005年に制定され、2007年からその製品の出荷が始まった。一方、LTEの検討が始まったのは2004年で、規格が実質的に固まるのは2008年末と言われ、製品の出荷は2009年から始まると言われている。そのため、現仕様の理論上の最高伝送速度は、WiMAX70Mbpsなのに対してLTE326Mbpsである。しかし、WiMAXも次期仕様では最高伝送速度1Gbpsを目標にしているという。

このようにして、適用分野や開発時期の違いからくる両者の差は今後狭まっていき、両者が並存する必要性は減少していくと思われる。

 

WiMAXLTEが合流?

第二世代の携帯電話ではGSMが事実上の国際標準で、GSM系の電話会社にとっては、第三世代のUMTSを経てLTEに移行するのが自然な流れだ。ヨーロッパの携帯電話会社、米国のAT&Tなどがこのグループで、日本のNTTドコモやソフトバンクモバイルも、第三世代以降このグループになった。現在もう一つの勢力であるCDMA系のグループでも、米国のベライゾンや日本のKDDIは次世代にはLTEを採用すると言われ、他のCDMA系各社も同じ道を選ぶ可能性が大きい(c)

このようにして、2010年頃から携帯電話各社がLTEへ移行していくとすると、これらの企業にとってWiMAXを採用する必要性はあまりない。

一方、開発途上国や僻地でのラストマイルの解決策としてのWiMAXのニーズは当面大きいので、これらの地域でのWiMAXの展開はこれからも続くだろう。しかし、これらの地域でも遅かれ早かれ携帯電話はLTEやその後継規格に切り替わっていくので、そうなればラストマイルの解決策もLTEになっていくものと思われる。

こういう状況を踏まえると、今後WiMAXの規格はできるだけLTEに近づけることが望まれ、また、LTEの規格は将来WiMAXも吸収しやすいものにすることが望まれる。そして、WiMAXLTE両規格に対応しているベンダーにとっては、要素技術や部品をできるだけ共通にして、将来の市場の変化に備えることが重要と思われる(h)

 

[関連記事]

(a) 酒井 寿紀、「WiMAXの登場で何が起きる?」、OHM、2005年6月号、オーム社  (http://www.toskyworld.com/archive/2005/ar0506ohm.htm)

(b) 酒井 寿紀、「WiMAXはどうなる?」、OHM、2006年6月号、オーム社  (http://www.toskyworld.com/archive/2006/ar0606ohm.htm)

(c) 酒井 寿紀、「携帯電話の世界に激震!?」、OHM、2008年6月号、オーム社  (http://www.toskyworld.com/archive/2008/ar0806ohm.htm)

(d)  "KT starts roll out of WiBro Wave 2", 22 May 2008, Telecompaper  (http://www.telecompaper.com/news/kt-starts-roll-out-of-wibro-wave-2--620361)

(e)  "Sprint and Clearwire to Combine WiMAX Businesses, Creating a New Mobile Broadband Company", May 7, 2008, Sprint

        (http://newsroom.sprint.com/news-releases/sprint-and-clearwire-to-combine-wimax-businesses-creating-a-new-mobile-broadband-company.htm)

(f)  "Airspan Networks Announces First Quarter 2008 Results", May 7th, 2008, Airspan

        (http://www.airspan.com/2008/05/07/airspan-networks-announces-first-quarter-2008-results/)

(g)  "WiMAX is lever to France Telecom plans for expansion", 27 January 2008, Developing Telecoms

        (http://www.developingtelecoms.com/business/regional-trends/22-sub-saharan-african/1099-wimax-is-lever-to-france-telecom-plans-for-expansion.html)

(h) 酒井 寿紀、「WiMAXがLTEに合流」、OHM、2013年3月号、オーム社  (http://www.toskyworld.com/archive/2013/ar1303ohm.htm) 

    


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