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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」2007年12月号 掲載        PDFファイル

(下記は「OHM20091月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part T」に収録されたものです)

 

40年目の正直?・・・SaaS登場

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

SaaSとは?

最近、SaaS(サース)が世界中で流行している。これはおそろしい病気のSARSとは違い、ソフトウェアの提供形態の一つで、 “Software as a Service”の略である。

ソフトウェア製品は、ソフトウェア・ベンダーがパッケージソフトとして販売し、ユーザーはそれを購入して企業や個人のコンピュータにインストールして使うのが普通である。それに対してSaaSでは、ソフトウェア・ベンダーが自社のセンターにソフトをインストールし、ユーザーに回線を介して使ってもらい、ユーザーは使用料をベンダーに支払う。

1999年に設立された米国のセールスフォース・ドット・コム(Salesforce.com)という企業が、顧客管理のソフトをSaaSで提供し急成長した。現在、全世界の35,500社以上にサービスを提供し、20081月までの年間売上高は約7.5億ドル(約790億円)である。日本でも日本郵政、東京海上日動フィナンシャル生命保険などが同社のサービスを採用している。このセールスフォースの躍進に刺激されて、大手ソフトウェア・ベンダーのSAP、オラクル、マイクロソフトなども最近SaaSに力を入れている。

 

なぜ今SaaSか?

データ処理サービスを回線を介して提供するという考えは、実は大変古くからある。

米国で1960年代に、ユーティリティ・コンピューティングという考えが一時流行した。これは、将来データ処理が電話、電力、水道などの公共サービスと同じように、回線を介してどこでも誰でも享受できるようになるだろうというものだった。

1970年代には電電公社が電話回線を介して、科学技術計算サービス、販売在庫管理サービスなどの提供を始めた。これらは一時かなり使われたが、コンピュータが安く手に入るようになると使われなくなってしまった。

1990年代の後半には、ASP (Application Service Provider)というビジネスが流行した。これは一般には、ソフトウェア・ベンダーのソフトをそのまま使って、別の企業がデータ処理サービスを提供するものだった。ユーザーごとにソフトウェアをカスタマイズして、別個のハードウェアにインストールしていたため、センターの利用効率があまりよくなかった。また当時は、高速回線の普及が十分でなく、価格も高かったため、それほど普及しなかった。これらの流れを踏まえて、2000年代に入ってSaaSが出現した。そのメリットとしては次のような点がある。

SaaSを採用すれば、ハードウェアの導入もソフトウェアのインストールも不要である。したがって、イニシャルコストが極めて少なく、経費負担だけで済み、システム導入に要する期間も大幅に短縮される。そして、データセンターのハード、ソフトを多くのユーザーで共有するので、全体としての費用の節減を図ることができる。また、ソフトウェアのバージョンアップやパッチの適用など面倒な作業を専門業者がやってくれるので、ユーザー企業はコア事業に経営資源を集中できる。

これらのメリットはASPでもある程度同じである。しかしSaaSでは、ソフトウェア・ベンダーが自らSaaS用のソフトを準備するので、ソフトの一つのコピーを複数のユーザーで共用するようにしてセンターの利用効率が改善され、また個々のユーザーの要求により柔軟に対応できるようになった。

こうして、ソフトをサービスとして提供するというアイディア自体は、40年も前からあったが、今世紀に入って本格的に日の目を見つつある。

 

SaaSの今後

ソフトウェアについて、製品としての販売とサービスとしての提供といずれがよいかは、過去40年以上にわたって議論されてきた。その間、サービスとしての提供がいろいろな形で試みられたが、ビジネスとして真に成功したものはなかった。SaaSもこれらと同じようにやがて消え去ることはないのだろうか?

企業にとって、コア事業以外をアウトソースすることが一般化し、それに対する抵抗感がなくなった。また個人としても、Googleの検索サービスや国税庁の確定申告書作成サービスなどでソフトウェアをサービスとして利用することが日常的になった。このように、企業にも個人にもSaaSを受け入れる下地ができている。そして、世界中の大手ソフトウェア・ベンダーが、SaaSに本格的に力を入れている。これらの点から、今後SaaSは、極めて重要なソフトウェアの提供形態になるものと思われる。

では、SaaSは従来のソフトの販売形態を全面的に置き換えてしまうだろうか? 多数の小規模な企業で使われるソフトは、SaaSでの提供が増えると思われるが、銀行の預金オンラインや鉄道の座席予約システムなど、数が少なく規模が非常に大きいソフトは、SaaSにはならないだろう。そして、会計処理、顧客管理など、標準的な機能でよいものはSaaSになる可能性が高いが、自動車会社の設計自動化など、ソフトそのものが他社差別化のキーとなるものは、SaaSにはなりそうもない。どこまでSaaSになるかはソフトウェア・ベンダーの力の入れ方にもよるので予想は難しいが、いずれにしても製品販売と共存していくものと思われる。

OHM200712月号

 

[後記] セールスフォース・ドット・コムはその後も売上を順調に伸ばし、2009会計年度第1四半期(200824月)の売上高は前年同期比53%アップだった。

SaaSの普及には現在、経産省も非常に力を入れている。20081月には、稼働率や障害復旧時間など、SaaSの契約で明確にしておくべき点をガイドラインとして公表した1)。また、2008年度から2年間かけて、中小企業50万社を対象にしたSaaSの活用基盤の構築を推進中である。

 

参考文献

1) 「『SaaS向けSLAガイドライン』公表について」、経済産業省、報道発表、2008121

(http://www.meti.go.jp/press/20080121004/20080121004.html)

 


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