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(株)エム・システム技研 「MS TODAY」2007年1月号 掲載 PDFファイル [(株)エム・システム技研のご提供による]
ITビジネスから見た海外事情
(第1回) 外国人とのビジネスにはジョークが重要
酒井ITビジネス研究所 代表 酒 井 寿 紀
私は、長年IT関係の業務に携わってきて、その間、35回海外出張もしました。
本連載では、これらの経験の中から読者に役立ちそうな話をご紹介していきたいと思います。第1回はジョークを取り上げます。
アメリカ人にとってジョークとは?
アメリカ人のジョーク好きは有名です。私が初めてアメリカ人のジョークに実際に接したのは、今から40年以上前の入社したてのことでした。
アメリカの会社から人が来て会食があり、私も同席しました。食事中にアメリカ人の一人が何か言うと、いっしょに来たアメリカ人は笑いましたが、日本人には意味がよく分かりませんでした。すると、そのアメリカ人は、「じゃあ、こういう話はどうですか」と言って、次のような話を聞かせてくれました。
「ある図書館に、毎週分厚い本を何冊も借りていく人がいました。図書館の人が、本当に全部読んでいるのか疑問に思って、あるとき、借りていくたくさんの本の間に電話帳を挟んでおきました。次の週、その男が本を返しに来たとき、図書館の人が、『あの本はいかがでしたか?』と聞くと、その男が答えました。『そうねえ。プロットが弱く、登場人物が多すぎたね』」
私よりずっと年長の偉い人が、ちゃんとした会食の席で、こういうたわいない話をしたので、会社に入ったばかりの私は大変驚きました。
このようなに、たわいない話を頭の中の引き出しにいくつも用意しておいて、時と場合、相手によって使い分けられないと、アメリカでのビジネスはうまく行かないようです。このアメリカ人は日本人にも分かりそうなジョークを引き出しから探し出して使ったのでしょう。
アメリカ人との会食で、こういうこともありました。
会食の後、アメリカ人の一人が、「私の “Joy and Pride”(喜びと誇り)を見たいですか?」と私に聞きました。何のことか分らず怪訝な顔をすると、財布に入っている写真を見せて、「これです」と言いました。その写真には、“Joy”というブランドと“Pride”というブランドの飲み物のビンとカンが並んで写っていました。私が、ますます怪訝な顔をすると、その人はにっこり笑って写真の裏側を見せてくれました。そこにはきれいな奥さんとかわいい子供が写っていました。
本当はこの写真を見せたくてうずうずしていたのです。しかし、いきなり家族の写真をつきつけるのは気恥ずかしかったので、ちょっと細工をしたのです。アメリカ人には珍しくシャイな人でした。
肝心な話の前には、まずジョーク。これがアメリカ人の常識のようです。商談も講演も、家族の紹介もジョークで始まるわけです。
ドイツ人のユーモア
ドイツの会社の人ともよく付き合いました。アメリカ人に比べると、ドイツ人には一見気難しい顔をした人が多く、はじめの頃は冗談などあまり言わないのだろうと思っていました。しかし、だんだん付き合っていくと、これは大変な誤解だと分ってきました。
ドイツの会社で打ち合わせがあったとき、天気がいいので昼食を近くの公園でとろうということになりました。みんなで、屋外のテーブルで食事をしていると、公園の上空を軽飛行機がグルグルと飛び回り始めました。すると、ドイツ人の一人が言いました。
「あれはドクターUかも知れない」
ドクターUとは彼らの事業部門のトップで、飛行機の操縦が趣味でした。そして、その人はひと言付け加えました。
「彼はいつも上の方からわれわれを見ている」
またあるとき、ドイツで雪の日に会議がありました。一人のドイツ人が、履いてきたオーバーシューズを脱いで机の下に置き、会議の後、それを忘れて帰ってしまいました。私が気がついて、「Hさんは足を持って帰るのを忘れた」と言うと、ドイツ人の一人が言いました。
「この前、頭を持って帰るのを忘れた人がいた」
またあるとき、来日したドイツ人と雑談中にテニスの話になりました。部長格の人がもう一人を指して、「彼はわれわれの部で一番のテニス・プレーヤーだ」と言いました。すると、そういわれた人がすかさず言いました。
「私はわれわれの部でただ一人のテニス・プレーヤーだ」
このように、別に頭の中の引き出しに溜め込んでなくても、その場その場で機知に富んだ応答ができるのが本当のユーモアなのでしょう。その場に居合わせなかった人には、あまり面白さが感じられないかも知れませんが、いかつい顔をした、眼光鋭いドイツ人が、にこりともしないでこういうことを言ってにやっと笑うと、みんなの笑いを誘わずにはいられませんでした。
ドイツ人との会話は、仕事の話も食事中の雑談も英語でした。これはイタリア人、デンマーク人などの非英語圏の国の人との会話も同じでした。彼らは、平均的にはわれわれよりずっと英語が上手でしたが、彼らにとっても英語は外国語なので、アメリカ人やイギリス人と話すときより話しやすい点もありました。
人間の体で一番大事なところは?
欧米人と付き合っていくうちに、だんだん彼らの流儀が分かってきました。そこで、できるだけ彼らの流儀に合わせるように努めました。
あるとき、アメリカから来た数人の人と会食がありました。乾杯のときに、日本人の一人がイタリア流に「チンチン」と言うと、日本人はみんな笑いました。しかし、アメリカ人には何がおかしいのか分らず、怪訝な顔をしていました。
私は、このままではまずいと、「『チンチン』というのは日本語で、男の一番大事なところです」と言いました。アメリカ人の一番年長の人は、ちょっと考えていましたが、どうやら察しがついた様子で、「歳をとりすぎたので忘れてしまった」と言いました。
そこで私が、「5人のユダヤ人が、人間の体でどこが一番大事か、という問題について議論した話を知っていますか」と聞いたところ、みんな知らない様子なので、昔ジョーク集で読んだ次のような話をしました。
「まず、モーゼが言いました。『人間の体で一番大事なところは頭だ。何と言っても、人間には知恵が一番大事だ』
次に、キリストが言いました。『いや違う。一番大事なのは心臓だ。人間には心が一番重要だ』
それを聞いて、マルクスが言いました。『いや、一番大事なのは、もっと下の方にある胃だ。人間にとっては食べることが一番大事だ』
すると、フロイトが言いました。『いや、一番大事なところはもう少し下の方にある』
最後に、アインシュタインが言いました。『みんな違う。すべては相対的なのだ』」
このジョークは、過去3,000年以上に亘る人類の歴史で、ユダヤ人が大変な働きをしてきたという話なのです。しかし、自分がユダヤ系であることを隠している人もいるので、このような人種問題が絡むジョークは一般的には避けた方が無難でしょう。
また、幸いにして、この会食の席には女性はいませんでした。ジョークも相手によって使い分けないととんでもないことになります。
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