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オーム社 技術総合誌「OHM」2006年12月号 掲載 PDFファイル
(下記は「OHM」2009年3月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)
携帯電話のウェブがついに開国?
酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所
携帯電話のウェブに開国の兆し?
携帯電話用のウェブサイトには「公式サイト」と「一般サイト」がある。公式サイトとは通信事業者公認のサイトで、NTTドコモの「iメニュー」のようなポータルサイトからディレクトリを階層的にたどって捜すことができる。有料サイトの場合は通信事業者が電話代といっしょに料金の徴収を行う。そして、公式サイトは通信事業者によって囲い込まれた鎖国の状態で、パソコンや他社の携帯電話端末からは一般に見ることができない。
一方、一般サイトは通信事業者に関係なく、コンテンツ・プロバイダーが勝手に作ったサイトである。そのため「勝手サイト」とも呼ばれる。そして、どの携帯電話端末やパソコンからも見ることができる。
筆者は本誌2003年8月号の別冊付録『どうなる? ITカオス』に、「ドコモの国は鎖国状態」であり、「公式サイトはもういらない」と書いた。サイト数がどんどん増えれば、一企業がその内容を審査することなど実質上不可能になり、また、インターネット上のコンテンツはどの通信事業者の端末からも閲覧できることが望ましいというのがその理由だった。
しかし、この鎖国状態は、ドコモ以外の携帯電話会社も含めて、その後もずっと続いた。むしろ各社は、コンテンツの充実をユーザー獲得の強力な武器と考え、コンテンツ担当の事業本部などを設置して、従来以上にコンテンツに力を入れてきた。
しかし最近、この鎖国状態に多少変化の兆候が現れた。KDDIの携帯電話では、2006年7月からポータルサイトで、Googleを使って、一般サイトを含めたサイトの検索ができるようになった。また、NTTドコモの携帯電話でも、2006年10月からGoogleなどで一般サイトの検索ができるようになった。ソフトバンク(旧ボーダフォン)の携帯電話でもYahoo!モバイルで検索できる。従来は一般サイトを見ようとすると、そのサイトのURLを調べて人手で入力しなければならず、非常に面倒だった。しかし、最近このようにポータルサイトでパソコンと同じように検索エンジンが使えるようになったので、一般サイトについても検索が容易になり、URLを入力する手間も不要になった。
開国の理由と今後の方向は?
では、なぜ最近になって、一般サイトを公式サイトと平等に扱うようになったのだろうか? そして、今後はどういう方向に進むべきなのだろうか?
最近の開国の第一の理由は、一般サイトの利用が急激に増えたためである。NTTドコモによると、2006年6月の全ページビューのうち約3/4が一般サイトだという。通信事業者の方も、公式サイトをこれ以上増やすのはだんだん難しくなり、むしろ一般サイトの増加によってユーザーの要望を満たし、それによってユーザー数を増やした方が得策だと思うようになったのだろう。そこで、ポータルサイトのディレクトリでは一般サイトは捜せないため、パソコンと同じようにGoogleなどの検索エンジンを使えるようにして利用者の便宜を図るようになったのである。
パソコンで閲覧できるコンテンツの量や質に比べれば、携帯電話のコンテンツはまだきわめて貧弱だ。コンテンツをさらに充実させるためには、通信事業から独立したコンテンツの市場を育成する必要がある。そして、パソコンのウェブの世界と同じように、全世界の携帯電話用コンテンツを、どの通信事業者の端末からも見ることができるようになることが望まれる。いずれ「公式サイト」という言葉は死語になるだろう。
最近鎖国状態が崩れ始めた第二の理由は、通信速度の向上とパケット定額制の普及で大容量のデータ転送が可能になり、携帯電話のウェブページでも画像を使った広告が一般化し、広告付きの無料サイトが増えたことである。無料になれば、料金徴収のために通信事業者に公式サイトとして扱ってもらう必要がなくなる。
パソコンのウェブでは、ニュース、株式、天気予報、地図、辞書などの高度な情報が無料なのに、携帯電話ではパソコンより簡約化された情報が有料なのはおかしい。米国などでは携帯電話でも無料が普通のようだ。
一般に、パソコンのウェブでは、パソコン、OS、ブラウザ、通信回線、プロバイダーがそれぞれ別の企業から提供される。しかし、携帯電話のウェブの世界では、これらがすべて一つの通信事業者によって提供されている。さらにその通信事業者は、公式サイトのコンテンツ・プロバイダーでもあり、また広告代理店の機能も果たしている。いわば究極の垂直統合の世界で、通信事業者ごとに完全に縦割りの別世界になっている。携帯電話の勃興期には、これにもそれなりの意義があったが、多様化する顧客ニーズを満たし、得意分野に経営資源を集中して経営効率を上げるためには、今後、水平分業に切り替わっていく必要がある。
現在、携帯電話のウェブの活用では日本は世界のトップの座を占めている。しかし、いずれ他の国が追いかけてくるのは間違いない。日本は今までに、他の国に先行して特徴ある技術を生み出したが、やがて世界の主流から取り残されてうまくいかなかったことが多い。例えば、アナログ方式のHDTV、PDC方式の携帯電話、PHSなどがそうだ。携帯電話のウェブでも、気が付いたら世界の孤児になっていたということにならないよう、技術の面でもビジネス・モデルの面でも世界の主流となる方向に事業を展開する必要がある。
「OHM」2006年12月号
[後記] 2008年4月から、NTTドコモのiモードで、「iメニュー」のトップページの検索ボックスを使って検索すると、公式サイトの検索結果とともに、携帯電話の一般サイトおよびパソコン用サイトの検索結果も同時に表示されるようになった。
こうして一般サイトの検索が一段と容易になり、また、携帯電話用とパソコン用のウェブサイト間の垣根も低くなった。
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