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オーム社 技術総合誌「OHM」2005年7月号 掲載 PDFファイル
(下記は「OHM」2009年3月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)
携帯電話と無線LANが結合
酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所
NTTドコモが無線LANでも使える携帯電話を発売
NTTドコモが、2004年7月に、同社の第三世代の携帯電話であるFOMAの機能と、802.11bの無線LANでIP電話をかける機能を兼ね備えた、「PASSAGE DUPLE(パッセージ・デュプレ)」という携帯電話システムを発表した。2004年11月に販売が開始され、すでにJFEシステムズ、イトーキなどに導入されたという。こういう、携帯電話回線と無線LANが使えるデュアル・モードの携帯電話は、NTTコミュニケーションズも検討中と言われ、また、海外にも現れている。そのメリットは何なのだろうか? そしてこれは、今後どういう位置づけになるのだろうか?
デュアル・モードの携帯電話のメリットは?
固定電話の世界では、企業でも家庭でも、IP電話*1) が普及しつつある。それは、IP電話の方が従来の電話より圧倒的に安いからだ。一方、企業や家庭内で、無線LANを使ってパソコンをインターネットに接続するのが一般化している。この無線LANを流れているデータはIP (Internet Protocol)なので、これに携帯電話を接続すれば、携帯電話でも安いIP電話が実現できる。これを企業の従業員に持たせれば、デスクの上の固定電話が不要になり、その点でも経費節減が図れる。
そして、デュアル・モードの携帯電話を持っていれば、無線LANが使える社内にいるときは、IP電話で社内外の人と連絡を取れ、社外にいるときは、普通の携帯電話として使える。相手がどこにいても同じ番号で電話をかけられるようにすることもでき、そうすれば、相手がどこにいるか調べてから電話をかける必要がなくなる。そして最近、営業部門などでは、個人の専用デスクを持たないオフィスが増えているが、この携帯電話を使えば、こういうオフィスでも電話の問題は起きない。
また、各人が携帯電話を持っていれば、会議中でも、移動中でも、いつでも緊急の連絡が取れる。電話に出ることができないときは、携帯電話の電子メールやボイス・メールを使えばよい。
そして、携帯電話の基本的な問題として、建物の中では電波が届かないことがあるが、この携帯電話を持っていれば、無線LANが使える限りどこでも電話ができる。
海外の動きは?
では、こういうデュアル・モードの携帯電話の、海外の動きはどうだろうか? 2004年7月に、モトローラはアバイア、プロクシムと組んで、ヨーロッパを中心にして使われている携帯電話のGSM/GPRS*2) と、802.11a*3) の無線LANが併用できる携帯電話システムを発表した。このシステムで使われる携帯電話には、テキサス・インスツルメンツのLSIが使われている。このシステムでは、NTTドコモのシステムと違って、携帯電話と無線LANの間でのハンド・オーバー機能が使える。つまり、無線LANで電話をしながら、無線LANが使える建物を離れれば、自動的に携帯電話回線に切り替って話を続けられる。その逆も同じだ。ただ、このシステムは802.11aというあまり普及してない無線LANを使っているためか、これを扱う通信事業者やこれを導入する企業が現れるのはこれからのようだ。
また、ロイヤル・フィリップス・エレクトロニクスは、2005年3月に携帯電話用の無線LANのLSIを発表した。サムスンが無線LAN用の携帯電話にこのLSIを採用するという。
そして、2004年8月に、携帯電話に携わる企業グループがGSM/GPRSの携帯電話と802.11*3) の無線LANを併用する携帯電話システムについて、UMA (Unlicensed Mobile Access)という仕様を公開した。この仕様を土台にして、第三世代の携帯電話の仕様を制定する組織である3GPPで、正式な標準仕様を制定しようとしている。このUMAを提唱しているグループには、現在、エリクソン、モトローラ、ノキア、BT、シンギュラーなど14社が名前を連ねている。
今後の課題は?
まず、このデュアル・モードの携帯電話で使う無線LANは、モトローラが使っている802.11aではなく、広く使われている802.11b*3) か802.11g*3) にするべきだろう。電話だけのために新たに802.11aを導入するのは、顧客の負担が大きすぎる。
そして、このデュアル・モードで使われる携帯電話や、電話回線と無線LANを接続するSIP (Session Initiation Protocol)サーバの基本的な仕様を標準化し、各社の製品が使えるようにする必要がある。上記のUMAは、GSM/GPRSについての標準化の試みだ。今後、NTTドコモなどのUMTS系、KDDIなどのCDMA2000系についても同様の規格の制定が望まれる。
また、現在のNTTドコモのデュアル・モードではハンド・オーバー機能が使えないが、将来はこの機能によって、ユーザーが意識することなく、シームレスに携帯電話回線と無線LANが使えるようにするべきだろう。
そして、携帯電話の事業者は、デュアル・モードを提供すれば、かなりの通話・通信がIP電話に流れ、収入が減少することをおそれているようだ。しかし、自社が提供しなければ、これを提供する他社に顧客を取られ、収入がもっと減るだけだ。
これらの問題はあるが、前述のようにメリットが大きいため、今後このデュアル・モードの携帯電話は普及するものと思われる。
「OHM」2005年7月号
[後記] 固定電話と携帯電話が結合したシステムは、一般にFMC (Fixed Mobile Convergence)と呼ばれるようになった。そして、その後NTTドコモは、サーバの管理・運営を同社が実施することによって導入の容易化を図った「ビジネスmoperaIPセントレックス」、家庭用の「ホームU」などの品揃えを増やした。これらはデュアル・モード端末を使うものだが、同社はこのほか、携帯電話の基地局を客先に設置することによって、通常の携帯電話を固定電話の代替としても使える「OFFICEED(オフィシード)」というサービスも始めた。今後、安価な小型基地局が出現すると、こういうデュアル・モード端末を使わない広義のFMCが普及する可能性もある。
また、イギリスのBT、米国のT-MobileなどはUMAの規格に準拠したFMCのサービスを開始した。
*1) IP電話: 電話の音声をディジタル化してインターネットで使われるIP (Internet Protocol)という通信規約で伝送する電話
*2) GSM: Global System for Mobile Communicationsの略。第二世代の携帯電話の規格の一つ。ヨーロッパをはじめ全世界でもっとも普及している。
GPRS: General Packet Radio Serviceの略。GSM系のパケット通信の規格
*3) 802.11: 無線LANの標準規格。802.11bは最大11Mbps、802.11aと802.11gは最大54Mbps
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