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オーム社「Computer & Network LAN」2005年5月号 掲載 PDFファイル
(下記は「OHM」2009年1月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part T」に収録されたものです)
Itaniumはどうなる?
酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所
開発が遅れ、販売目標は未達、そして・・・
Itaniumは、ヒューレット・パッカード(HP)とインテルによって1989年以来共同開発が進められ、次世代を担うマイクロプロセッサとして期待された。そして2005年初め現在、HPのほか、デル、IBM、SGI、ユニシス、富士通、NEC、日立などがサーバに使っている。しかし、最近の状況はあまりかんばしくない。
当初Itaniumは1999年に量産が開始される予定だったが、2年遅れて、2001年になって量産が始まった。しかし、それは800MHzの性能が不充分なもので、性能が改善されたItanium 2が量産に入ったのは2002年である。
1999年には、インテルは2002年にサーバの42%がItaniumになると予想していたが、2003年になってもItaniumは10万個しか出荷されなかった。2005年になってもサーバの約90%にインテルのx86系のマイクロプロセッサが使われていて、残り10%をItanium、IBMのPower、サン・マイクロシステムズのSPARCなどが占めている。
米国の調査会社のIDCは、2000年には、Itaniumを使ったサーバの売上が、2004年に280億ドルになると予想していた。しかし、同社は2004年1月には、2007年になっても75億ドルにしかならないだろうと、予想を大幅に下方修正した1)。
そして2004年9月に、HPが今後のワークステーションをItaniumからx86系に切り替えると発表した。
また、マイクロソフトは2004年11月に、2005年にリリースする、128プロセッサまでサポートするサーバ用Windowsについて、最初のバージョンはx86系のみで、Itaniumはサポートしないと発表した。さらに同月、サン・マイクロシステムズのCEOのマクニーリは、同社の主力OSであるSolarisをItaniumでも使えるようにする検討を打ち切ったと表明した。
加えて、HPは2004年12月に、Itaniumの開発から撤退し、その開発部隊をインテルに移籍すると発表した。
このようにして、Itaniumは今後衰退の一途をたどるのだろうか?
サーバ用プロセッサの市場全体を見ると・・・
サーバ用プロセッサの市場で現在最も優勢なのは、インテルとAMDによるx86系のマイクロプロセッサである。これは従来32ビット・アーキテクチャだったが、AMDに続いてインテルも64ビット版の販売を始めた。
IBMは高性能サーバにPowerというRISC*1) プロセッサを使っている。Power系のプロセッサはBlue Geneといスーパーコンピュータや、iSeriesという、ビジネス用の中型メインフレームの後継製品にも使われ、また、任天堂やソニーのビデオ・ゲームにも使われている。
HPはPA-RISCというRISCプロセッサを使ってきたが、2005年には新規開発を止めるという。また、旧DECのAlphaはすでに開発を止め、Itaniumへの移行を進めている。
SGIはMIPSのプロセッサを使っていたが、MIPSは高性能プロセッサの開発を止め、SGIの新しいサーバはItaniumを使っている。
サン・マイクロシステムズはSPARCというRISCプロセッサ使っている。しかし、SPARCを使ったサーバの出荷台数が、今後のSPARCの開発費を正当化できるかどうかは問題である。もし正当化できなければ、サンの主力OSであるSolarisをItaniumやPowerで使えるようにすることを再検討する必要が生じるだろう。
そして、サーバ用プロセッサとしては、まだメインフレームが大量に使われている。このメインフレームに取って替わるプロセッサが今後必要になる。
このように、サーバ用プロセッサの世界でも、弱肉強食で淘汰が進みつつあり、今後のサーバの市場を担える可能性があるプロセッサはx86系とPowerとItaniumと考えられる。
Itaniumはどうなる?
では、これら3系統のプロセッサは、今後どうなるだろうか? x86系は1971年に世に出たインテルの4004以来のしがらみを引きずっているので、将来性には限界があるだろう。そして、Powerはシステム・メーカーであるIBMの製品なので、ほかのメーカーは使うのに抵抗があると思われる。
一方、Itaniumは、これらのプロセッサの中では最も新しく、命令の並列実行に適したEPIC (Explicitly Parallel Instruction Computing)という斬新なアーキテクチャを採用している。そして、HPがItaniumの開発から手を引いたため、ほかのメーカーは使いやすくなった。
インテルは、2007年頃にはItaniumがサーバ用のx86系と同等の価格で、2倍の性能になると言っている。もしそうなれば、ハイエンド・サーバのかなりの部分がItaniumになるだろう。ただ、低価格を実現するためには生産量の確保が必要であり、両者は鶏と卵の関係にある。これをインテルが戦略的に乗り越えられるかどうかがカギである。
これらの状況から、Itaniumは、当初の計画からは遅れたが、今後勢力を盛り返す可能性が高いのではないかと思われる。
「Computer & Network LAN」2005年5月号
[後記] 2005年にはIBMとデルがItaniumのサーバの販売を中止した。その影響もあってIDCはItaniumのサーバの売上予想をその後も下方修正し、2006年には、2009年になってもItaniumのサーバの売上は66億ドルにしかならないと予想を改めた。しかし、同社によると、Itaniumのサーバの売上は、2004年に14億ドル、2005年に24億ドルとのことなので、同社はItaniumの売上が、当初の予想より大幅に少ないものの、伸びつつあると見ている2)。
一方、あるIBMの副社長は2008年初めに、Itaniumは事業の継続に必要な需要を確保できず、今後5年以内に姿を消すだろうと発言した3)。
インテルは現在、2008年末と2010年頃の出荷を目標に、2種類のItaniumの新製品を開発中という。これらによってItaniumが息を吹き返すかどうかは、インテルとHPの事業戦略に負うところが大きい。
*1) RISC: Reduced Instruction Set Computerの略。少数の単純な命令のみで構成することによりハードウェアの物量を減らし、命令の実行速度を上げるプロセッサの方式
参考文献
1) “IDC rains on Itanium parade”, CNET News, January 13, 2004
(http://news.cnet.com/IDC-rains-on-Itanium-parade/2100-1006_3-5140161.html?tag=mncol;txt)
2) “Analyst firm offers rosy view of Itanium”, CNET News, Feb. 14, 2006
(http://news.cnet.com/Analyst-firm-offers-rosy-view-of-Itanium/2100-1006_3-6038932.html)
3) “IBM gives Itanium five years to live”, The Register, 10th January, 2008
(http://www.theregister.co.uk/2008/01/10/ibm_itanium_five_years/)
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