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オーム社「Computer & Network LAN」2005年2月号 掲載       PDFファイル 

(下記は「OHM20091月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part T」に収録されたものです)

 

オモチャが道を切開く?

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

ファミコン・ショック

19837月に任天堂がファミリーコンピュータ、通称ファミコンを発売し、1987年には日本国内の累計販売台数が1,000万台を突破した。1990年代には他社との競合が激しくなったが、1980年代のビデオ・ゲームの市場はファミコンの独壇場だった。

ファミコンが出現した頃は、大型コンピュータの端末もパソコンも、ブラウン管の黒い画面に、一定の大きさの白い文字が並んでいるだけだった。ところが、14,800円のファミコンでは、カラーのスーパー・マリオが音楽に合わせて飛んだり跳ねたりするのだ。しばらくすると、パソコンの画面にも、カラーでいろいろな大きさの文字や図形や画像が表示されるようになった。そして、パソコンが大型コンピュータの端末としても使われるようになった。

また、それまでの大型コンピュータの端末は、ほとんどの処理をコンピュータ本体で行っていたため、レスポンスが非常に遅かった。しかし、ファミコンのアクション・ゲームはボタン操作に瞬時に反応した。そして、碁や将棋の高度な判断も一瞬のうちにしてしまう。やがて、大型コンピュータの端末にパソコンが使われるようになり、多くの処理がパソコンで行われるようになって、レスポンス・タイムが大幅に改善された。

このように、大型コンピュータはオモチャのファミコンに下から煽られて、機能や性能を改善してきた。しかし、ファミコンがインパクトを与えたのは製品の機能や性能の面だけではなかった。

もともと大型コンピュータの基本的なソフトは、ハードの付属品として無料で付いていた。そのため、コンピュータ・メーカーはその有償化に苦労していた。そして、コンピュータを買った企業は、アプリケーション・ソフトの多くを自社で開発していた。ところが、ファミコンで遊ぶ子供たちにとっては、パッケージ・ソフトを有償で買うのは当たり前だった。ファミコンはソフトのパッケージ化と有償化を常識にした。

そして当時は、ソフトには膨大なマニュアルが添付されていた。ところがファミコンを買った子供は、遊び方の説明書など読まずにいきなり遊びだした。もちろん初めは試行錯誤を繰り返すのだが、それで自分なりの遊び方ができればいいわけだ。やがて、パソコンのソフトでも印刷物のマニュアルがなくなり、「いろいろやってみて、目的を果たせればそれでいい」という使い方が普通になった。

また、ファミコンのゲームでは、意図的に作った隠し機能なのか、バグなのかの判断がつかないことが多かった。そして、積極的にバグを活用する高等戦術も現れた。もともとバグとはマニュアルとプログラムの違いなので、マニュアルが存在しなければバグもないわけだ。ファミコンで育った子供たちはバグに寛容になり、一般のソフトについても、代替手段で目的を果たせればよしとする風潮が一般化した。

このように、ファミコンはコンピュータの製品だけでなく、ユーザーのコンピュータに対するスタンスを大幅に変えた。それは一つの意識革命だった。

 

そして、今後は・・・

2005年から2006年にかけて、ソニーもマイクロソフトも任天堂も、ビデオ・ゲームの新機種を出すと言われている。では、ビデオ・ゲームは今後もさらに新しい道を切開いていくのだろうか? 

米国の調査会社In-Stat/MDRは、全世界の(テレビの画面を使う)ビデオ・ゲームの販売台数は、20022003年には年間4,000万台程度だが、2007年になっても5,000万台程度と予想している1)。中国などの新市場を開拓しない限り、もう台数の飛躍的増加は望めない。ということは、ビデオ・ゲームがもう成熟産業になったということで、ビデオ・ゲームは今後成熟したITビジネスがすべてたどってきた道をたどる可能性が高い。その兆候がすでに現れている。

任天堂は現在IBMPower系のプロセッサを使っているが、次期製品ではソニーも、現在使っている東芝のMIPS系からPower系に切り替え、マイクロソフトもインテルからPower系に切り替えるという。そして、任天堂は現在グラフィックスにATIの技術を使っているが、次期製品ではマイクロソフトも、現在のNVIDIAからATIに切り替えるという。

パソコンと同じように、メーカーは違っても中身はどこも同じようなものになりそうだ。ハードが似たものになれば、価格競争が激化し、体力の弱い企業が淘汰される。そして、強いハードにはソフト・ベンダが群がり、弱いハードは誰も振り向かなくなるため、市場の寡占化が進む。また、それはデ・ファクト・スタンダード確立への道であり、勝ち残ったハードウェアに対しては、PCM (Plug-Compatible Machine)が現れるかもしれない。

これらは、形は違っても、メインフレームやパソコンなどのITビジネスがすべて歩んできた道であり、携帯電話も今やこの道をたどりつつある。成熟すれば、この同じ道をたどることになるのはITビジネスの宿命であり、ビデオ・ゲームもその例外ではない。

Computer & Network LAN20052月号

 

[後記] ここでのマイクロソフトの次期製品は、Xbox 360として200511月に発売され、ソニーの次期製品はPLAYSTATION 3として200611月に発売された。また、任天堂の次期製品もWiiとして200611月に発売された。

現在のところ3社は全世界で熾烈な戦いを繰り広げていて、まだ決定的な差はついていない。

 

参考文献

1) “Video Game Console Market Entering Cyclical Downturn”, In-Stat Press Releases, November 24, 2003 (http://www.instat.com/press.asp?Sku=IN030703ME&ID=813)

 


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