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オーム社「Computer & Network LAN」2005年1月号 掲載 PDFファイル
(下記は「OHM」2009年3月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)
いつか来た道・・・携帯電話のプラットフォームはどうなる?
酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所
携帯電話のプラットフォームの動向
最近の携帯電話のプラットフォームについての動きから拾ってみよう。
まずOSについて見ると、2003年12月に、NTTドコモが今後のFOMAのOSをSymbian OSかLinuxにすると表明した。2004年3月には、富士通と三菱電機がSymbian OSをベースにしたプラットフォームの共同開発について発表した。同年4月には、KDDIがBREW(米国クァルコムの携帯電話用プラットフォーム)の全面的採用を表明した。同年6月には、NECがLinuxを搭載した携帯電話の試作機を展示した。また、同年7月にはシャープがSymbian OSの採用を発表した。そして、2004年10月には、インテルとノキア、シンビアンが、インテルのCPUとSymbian OSを使った携帯電話の開発について、提携を発表した。
アプリケーション・ソフトについて見ると、2004年6月にアクセスがBREW向けのブラウザを発表した。また、同年8月には、ノルウェーのブラウザ専門ベンダであるオペラ・ソフトウェアが、BREWと、マイクロソフトの携帯電話用OSであるWindows Mobileにも対応することを発表した。
これらの動きは何を意味し、今後携帯電話のプラットフォームはどういう方向に進むのだろうか?
垂直統合から水平分業へ
従来、多くの携帯電話端末のメーカーは、それぞれ独自のOSを使っていた。そしてその市場は、通信キャリアや端末メーカーごとに垂直に分断されていた。そのため、携帯電話の機能がどんどん膨らみ、ソフトウェアが複雑になると、端末メーカーの開発費の負担が膨大になり、また事故が多発した。そこで、広く使われ、品質が安定し、アプリケーションの品揃えも豊富な専業ベンダのOSを使うようになってきた。こうして、CPU、OS、アプリケーション・ソフトと、携帯電話端末の構成品ごとの水平分業が進んだ。このような傾向は、かつてメインフレームでもパソコンでも見られた。
日本の携帯電話では、ITRON仕様に準拠したOSが広く使われていたが、最近Symbian OSやLinuxの採用が増えているのはこのためである。今後も「餅は餅屋に」という傾向がさらに強まるだろう。
寡占化が進む
こうして、構成品ごとに水平に分業する市場が形成されると、構成品の市場での競争が激化し、強いところはますます強く、弱いところはますます弱くなって、寡占化が進む。メインフレームでもパソコンでも同じだった。
OSの世界では、現在のところSymbian OSが全世界の携帯電話の80%以上を占めていると言われ、BREW、Windows Mobile、Linuxがこれに続く。CPUの世界では、テキサス・インスツルメンツ(TI)のOMAPが、Symbian OSを使っている製品の85%以上で使われていると言われ、インテルがこれに食い込もうとシンビアンと提携した。ブラウザの世界では、日本のアクセスとノルウェーのオペラ・ソフトウェアが全世界で熾烈なシェア争いを展開している。
ITRONは、日本では多くの製品に使われていた。しかし、これをOSとして独立した製品に仕立てあげ、性能や品質を保証し、アプリケーションの品揃えに努める強力な企業がなかった。そのため、市場の水平分業化、寡占化が進むなかで取り残されてしまった。
寄らば大樹の陰
携帯電話用CPUのベンダとして、TIに遅れを取っていたインテルは、最近、最大のOSベンダであるシンビアンと組んだ。ブラウザのベンダのオペラ・ソストウェアは、Symbian OSのほか、BREWやマイクロソフトのOSにも対応し始めた。そしてアクセスは、自社のOSのほか、Symbian OSやBREWにも対応している。
CPUもOS、ブラウザも、所詮携帯電話端末の一構成品に過ぎない。いかに優れていても、他の有力な構成品と組み合わせて使えなければ、世の中への出番はない。「大樹」に群がるのはそのためである。大樹の方も、組み合わせて使える相手が多いほど、相手を牽制できる。シンビアンにとって、インテルとの提携はTIに対する牽制になる。
内弁慶は通用しない
CPU、OSなどのプラットフォーム製品は、全世界で共通に使える。そして、全世界でのシェアが大きい方が、開発費の負担、量産効果などの点で圧倒的に有利だ。したがって、これらの製品については、「全世界のトップグループに入るか、しからずんば死か」の二者択一の道しかない。すなわち、日本国内だけで生き延びる道など存在しない。これはパソコンの世界でも同じだった。今のところ、携帯電話のプラットフォームで生き残れる可能性がある日本の製品は、アクセスのブラウザだけのようだ。
メインフレームもパソコンも携帯電話も、ハードウェアとソフトウェアが組み合わされた複雑なシステムという点では同じである。そのため、製品が高度化し、市場が成熟すると、みんな同じ道をたどることになる。歴史は繰り返す。したがって、歴史の教訓をビジネスに生かした者が競争に勝つことになる。
「Computer & Network LAN」2005年1月号
[後記] 2007年に、アップルがiPhone OSを使った携帯電話iPhoneを発売し、グーグルが携帯電話用OSのAndroidを発表した。詳細は、OHM2008年4月号「外圧で開国?・・・日本のケータイ」をご参照いただきたい。
無償で提供されるAndroidに対抗して、ノキアは2008年6月に出資先のシンビアンを完全子会社化し、Symbian OSも無償にした。また、2006年以来Linux系プラットフォームを合弁会社で共同開発していたNECとパナソニックは、2008年8月に合弁会社を清算し、今後はLiMoファウンデーション(Linuxをベースにした携帯端末用プラットフォームを開発する国際的組織)でのもっと大規模な標準化の方向に進むことになった。
このように、プラットフォーム間の主導権争いはますます激しくなり、主力製品による寡占化が進みつつある。
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