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オーム社「Computer & Network LAN2004年7月号 掲載       PDFファイル 

(下記は「OHM20093月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)

 

モバイル族の道具はどうなる?

 

酒井 寿紀  (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所

 

モバイル接続の今昔

旅行に出かけるときは、ノートパソコンを持っていくことが多い。これさえあれば世界中どこにいても、その気にさえなれば、原稿を書いたり仕事の連絡をとったりすることができる。このようなモバイル族が世界中で増えているものと思われる。彼らの道具はどう変わってきて、今後どうなるのだろうか?

昔は、海外の出張先から国内へ連絡をとるには電話しかなかった。やがてパソコン通信が使えるようになると、海外出張にはノートパソコンを持参して電話代を節約した。そして、1990年代の半ばからインターネットが普及し出すと、これを使ってメールを送るようになった。

出張先のホテルでノートパソコンを電話回線につなぐときは、電話機の電話線を外してパソコンに接続し、ダイヤルアップ接続でつなぐのが普通だった。アメリカだけでなく、インドネシアやブルネイのホテルでもこうして国内と連絡をとった。ホテルの電話交換機によっては、外線接続のための「0」のあと、次の番号までの間にちょっと間をとる必要があるものがあり、これをパソコンにやらせるために電話番号の設定に工夫が要ることもあった。しかし、古い由緒あるホテルで、電話機の接続がモジュラ・ジャックになってないところではどうしようもなかった。その点、最近できた安モーテルなどの方が問題は少なかった。

最近泊まった日本のペンションの電話は、1か所がISDN、もう1か所がIP電話になっていて、簡単にダイヤルアップで接続できず困った。回線の高速化で、旅行者にはかえって不便になってしまった。また、軽井沢の宿泊先を探していたら、各室にLANの接続口が用意されているホテルが見つかったのでそこを利用した。そのホテルの部屋に入ると、LANがあるかわりに電話がないので驚いた。後でそこのオーナーに聞いたら、「最近のお客さんは、ほとんど携帯電話を持って来るので、電話の設備を入れるのを止めてその分安くしました。そして、中にはインターネットを使いたいという人がいるのでLANを用意しました」と言っていた。

 

今後はどうなる?

オフィスや家庭でブロードバンドが一般化したので、従来のようにホテルなどの電話回線でインターネットにつなぐのは遅くて耐え難くなった。したがって、今後設備の整ったホテルは各室にLANの接続口を用意するようになるだろう。

しかし、すべての旅館やペンションがLANの設備を用意するのは難しい。携帯電話はデジタル情報のパケットを扱っているので、データ通信に向いている。そして速度も上がり、たとえばNTTドコモのFOMAは、現在は最大384kbpsだが、2005年にサービスを始めるというHSDPA (High Speed Downlink Packet Access)では、技術的には最大14.4Mbpsになる。現在の一般のLANADSLに匹敵する速さである。したがって、今後外出先では、携帯電話機やデータ通信用のカードをノートパソコンやPDAに取り付けて、携帯電話回線を使ってインターネットに接続することが一般化するだろう。そうなれば、ホテルなどのLANの設備は必ずしもいらなくなる。

もう一つの外出先でのインターネットへの接続方法に無線LANがある。街なかの「ホットスポット」と呼ばれているところに無線LANのカードを搭載したノートパソコンやPDAを持っていけば、メールの送受信やウェブの閲覧ができる。例えば、NTTコミュニケーションズのサービスに加入すれば、1か月1,600円で、ドトールコーヒー、モスバーガー、ミニストップなどの店やホテルのロビーでインターネットを使うことができる。また、アメリカのT-Mobileのサービスに加入すれば、1か月約30ドルで、スターバックスのコーヒー店、空港のラウンジなど、全米の約4,600か所(20045月現在)でインターネットが使える。

このホットスポットの問題は、無料のものは別にして、契約した業者のホットスポットしか使えないことである。また、ホットスポットを街中に広げて、「点」でなく「面」で使えるようにしようという試みもあるが、もしそうなったとしても、市街地のごく一部に限られ、全国どこでもというわけにはいかない。したがって、携帯電話回線による高速モバイル接続が一般化すれば、無線LANは、オフィス、家庭、飛行機などの中で、WANによるインターネット接続の延長として、ケーブル接続のLANのかわりに使うのが中心になるだろう。

どの携帯電話会社も、自社の通信網を単なるインターネットへのアクセス網として提供することに積極的でなく、メールのサービスやコンテンツの提供と合わせて付加価値を上げることに熱心である。しかし、モバイル族にとっての最大のニーズは、どこからでも安くインターネットにアクセスし、契約しているプロバイダや勤務先のサーバへアクセスすることなので、それを軽視したらうまくいかないだろう。

Computer & Network LAN20047月号

 

[後記] NTTドコモのHSDPAは、計画より遅れて20068月にサービスが始まった。

NTTコミュニケーションズのホットスポットは、その後使える場所がかなり変わったが、現在国内約4,000のアクセスポイントで使えるという。またT-Mobileのホットスポットは全米で1万か所以上に増えたという。

その後、ここに記したように、データ通信カードを使ってパソコンを携帯電話回線に接続し、インターネットを使うことが一般化しつつある。それには、HSDPAなどの高速回線が普及したことのほか、携帯電話事業者がデータ通信料金に定額制を導入したことが大きく寄与した。現在は3 Mbps程度の通信が6,000円/月程度と、速度も不十分で料金も高いが、2010年に登場すると言われるLTEという次期携帯電話は100Mbps以上になるので、今後、携帯電話回線がモバイル族の道具の主流になっていくと思われる。

 


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