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オーム社「Computer & Network LAN」2004年8月号 掲載 PDFファイル
(下記は「OHM」2009年1月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part T」に収録されたものです)
これでいいのか? 日本のICタグメーカー
酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所
IPポリシーへのサインが遅れている日本のICタグメーカー
EPCグローバルは、商品についているバーコードの管理元であるEAN(現GS1)とUCC(現GS1 US)によって設立された団体で、現在、商品に付けるICタグの標準仕様を策定中である。ウォルマートなどの大手小売業が、この仕様のICタグを2005年1月から順次採用するので、多くのICタグ関連製品のベンダがそれに対応して活動を始めている。
EPCグローバルの仕様検討会議に参加したり、EPCグローバルから製品の認定を受けたりするためには、IP (Intellectual Property: 知的財産権)の扱いを定めた「IPポリシー」にサインする必要があり、現在すでに130社以上の企業がサインしている。
しかし、日本のICタグメーカーでは、NECが2004年5月20日にサインしたことを発表したのが初めてで、他のメーカーはまだサインしていない(2004年6月21日現在)。それは、IPポリシーに問題があるからだと言われているが、本当にそうなのだろうか?
IPポリシーには問題があるのか?
EPCグローバルのIPポリシーの中身を見てみよう1)。
EPCグローバルは、同団体が定めた「標準仕様」を満足する製品を、極力安価にして全世界に普及させるため、この標準仕様をライセンス料を必要としない技術だけによって制定しようとしている。そのため、IPポリシーにサインした「参加企業」以外のIPの使用を避けるとともに、参加企業には標準仕様に必要なIPを、原則として無償で提供するよう求めている。
ここで「原則として」というのは、つぎの二つの例外を認めているからである。まず、参加企業がどうしても無償では提供したくないIPは、事前に(最悪、最終仕様案公開後30日以内に)申し出れば、標準仕様で使わないようにするということ。そして、もう一つは、無償では提供できないが、安い費用で、相手を差別することなく提供することを申し出ておけば、たとえ有償であっても標準仕様に採用することがあり得るということである。しかし、これらはいずれも例外であり、標準仕様に必要なIPは、極力無償で提供してほしいというのがEPCグローバルの基本的スタンスである。
この趣旨を理解して、ハードウェアのベンダでは、IBM、フィリップス・セミコンダクタ、テキサス・インストルメンツ、STマイクロエレクトロニクスなどがIPポリシーにサインした。
ただ、IPポリシーにサインしても、ICタグの製造方法やシステムの実現方法など、標準仕様そのものに直接関係しないIPは本IPポリシーの対象外である。そして、どうしても無償では提供したくないIPに対しては、上記のような例外の道も残されている。
日本のメーカーの対応は妥当か?
日本のICタグメーカーは、IPの調査期間が最終仕様案の発表から30日では短すぎると言っているという2)。しかし、これは上述のように、例外規定の限界を示す期間であり、どうしても使われては困るIPがあれば、事前に通知しておけばいい。参加企業になれば標準仕様制定の動きが把握できるので、標準仕様に採用される可能性があるIPは、事前に分かるはずである。
日本のメーカーはさらに、子会社のIPまで対象とする点に不満を持っているという2)。たしかに、欧米と異なり、日本にはゆるい関係の子会社が多いのは事実である。しかし、国際社会の契約で、子会社を含めた企業グループが一つの企業として扱われるのは常識である。
企業にとって核になる技術をプロプライエタリな技術として囲い込み、仲間うちだけでカネを稼ぐ道を選ぶか、あるいは、無償で公開して全世界の標準にする道を選ぶかは、大きな選択である。しかし、標準仕様に関するような技術は、無償で公開するのが正道である。例えば、ゼロックスがイーサネットの特許を無償で公開したので、今日のようにイーサネットがLANの世界標準になった。カネを稼ぐ方法はもっと別のところで見つけるべきである。
なぜEPCグローバルへの加入を急ぐ必要があるのか?
世界最大の小売業であるウォルマートのほか、ドイツの大手小売業のメトロ・グループや米国国防省も、2005年の初頭からEPCグローバルのICタグを採用する。また、イギリスのテスコやフランスのカルフールなどの大手小売業も、本規格の採用を検討中という。そのため、本規格のICタグが、今後数年間に爆発的に広がる見通しである。
したがって、日本のICタグメーカーも早くこの市場に参入しないと量産効果の恩恵に浴することができず、価格競争力を失ってしまうことになるだろう。
「Computer & Network LAN」 2004年8月号
[後記] 日本でEPCグローバルの規格を管理している流通システム開発センターによると、IPポリシーにサインした企業名は非公開だが、現在は日本でも多くの企業がサイン済みとのことである。
技術的問題、経済効果の問題などのため、EPCグローバルのICタグの普及が当初の計画通りに進んでいないのは「OHM」2006年8月号の「商品用ICタグの今後の問題は」の[後記]に記したとおりである。しかし、全世界で使われている商品用バーコードと同じ団体が推進している本ICタグが、商品用ICタグの本命であることに変わりはない。
参考文献
1) “EPCglobal Intellectual Property Policy”, EPCglobal
(http://www.epcglobalinc.org/what/ip_policy/031223EPCglobalIPPolicy12152003A.pdf)
2) 「ICタグ標準化団体への加入に難題」、日経コンピュータ、2004年3月22日号、p.18、日経BP社
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