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オーム社 技術総合誌「OHM」2004年8月号 掲載 PDFファイル [(株)オーム社殿のご提供による]
HEDLINE REVIEW エレクトロニクス
フラッシュ・メモリの進歩でAV機器はどうなる
酒井寿紀(さかい としのり)
酒井ITビジネス研究所 代表
ディジタル・カメラや携帯音楽プレーヤなど、さまざまな分野での利用が増えているフラッシュ・メモリについて、今後の見通しなどを解説します。
Q フラッシュ・メモリとはどういうものですか
フラッシュ・メモリとは、半導体メモリの一種で、電源の供給をやめても記憶内容を保持することができる不揮発性のメモリです。これにはブロックと呼ばれる単位で、データを一度に消去したり、書き込んだりできます。フラッシュ・メモリの半導体メモリの中での位置づけを図1に示します。
フラッシュ・メモリは1980年代の末に発明され、ディジタル・カメラなどの記録媒体に適していたため、1990年代に急速に普及しました。フラッシュ・メモリのチップ当たりの容量は、1990年代の半ばには16Mbit程度でしたが、現在は2Gbitのものまで販売されています。またその1MB当たりの価格は、90年代半ばには1,000円程度していましたが、2000年には100円程度に下がりました。現在は1MB当たり30〜40円になっています。
Q フラッシュ・メモリはどのような製品に使われているのですか
ディジタル・カメラの記憶媒体は、ほとんどがSDカード、コンパクト・フラッシュ、メモリ・スティックなどのフラッシュ・メモリです。
ソニーの「ウォークマン」にはじまった携帯音楽プレーヤの記録媒体は、元はカセット・テープが主流で、その後MDやCDも使われるようになりました。しかし、最近はフラッシュ・メモリを使ったものが現れました。韓国のサムスンが販売している携帯音楽プレーヤは、大半がフラッシュ・メモリを使ったもので、ほかにハード・ディスクやCDを使ったものもありますが、テープを使うものはもうありません。
テープ・レコーダは、その名前どおりテープを使っていましたが、最近はフラッシュ・メモリを使うものが増えています。もはやテープ・レコーダとは呼べないのでICレコーダと呼んでいます。
携帯電話もフラッシュ・メモリの大ユーザーです。電話帳などのデータ、カメラ付き携帯電話で撮った静止画、動画などのデータがフラッシュ・メモリに蓄えられています。
パソコン、PDA、携帯電話などの間で、データをやり取りするのにもフラッシュ・メモリが使われています。以前は、データをやり取りする簡便な媒体といえばフロッピー・ディスクでしたが、これでは大きすぎて携帯電話などにはとても使えず、また、フロッピー・ディスクの容量は1MB程度なので、画像データなどはろくに入りません。フラッシュ・メモリに個人用のアドレス帳、電話帳、ブックマーク、仕事に必要なデータなどを入れて持ち歩けば、世界中どこへ行っても、旅行先のパソコンを使って、オフィスや自宅にいるときと同じような環境で仕事ができるので大変便利です。
そのほか、パソコンのBIOS (Basic Input/Output System: パソコンのマイクロプロセッサとオペレーティング・システムの間にあって、基本的な周辺機器を制御するプログラム)用のメモリなど、一般のユーザーからは見えないところにもフラッシュ・メモリが使われています。
Q フラッシュ・メモリは今後どう進歩するのでしょうか
半導体メモリが出現した1970年代以来、半導体メモリの価格は、だいたい5年間に1/10、10年間に1/100になる値下がりを続けてきました。1965年にゴードン・ムーアが、半導体技術はこのように指数関数的に進歩すると唱えたので、これをムーアの法則と呼んでいます。フラッシュ・メモリの価格も、前述のように、1990年代の後半以来だいたいこのペースで値下がりを続けています。(図2)
フラッシュ・メモリは2000年に1MB当たり100円程度、つまり1GB当たり10万円程度でしたが、このペースが今後も続くとすれば、1GBのフラッシュ・メモリの価格は、2005年には1万円、2010年には1,000円、2015年には100円になることになります。(図2)また、1万円で買える容量は、2005年には1GB、2010年には10GB、2015年には100GBになることになります。
最近の東芝の広告記事によると、1チップあたりの容量は、2004年には4GBit、2007年には32GBitのものが実現できる見込みだということです。(1) これが同じ価格になるとすれば、容量当たりの価格が3年間に1/8になることになります。これは、従来の3年間に約1/4になるムーアの法則よりかなり速いピッチになります。
また、現在使われている最先端の半導体の最小加工寸法は90nmですが、これは今後まだまだ進歩する見通しで、20nm程度までは製品開発計画が提示されています。
半導体部品の価格は、技術の進歩だけでなく、企業の戦略によっても左右されるため、将来の価格の予想は非常に困難ですが、前述のような状況から、2010年代には1万円で100GBのフラッシュ・メモリが手に入る日が来るものと思われます。
Q フラッシュ・メモリの進歩によってAV機器どう変わる見通しですか
現在、携帯音楽プレーヤの記録媒体には、カセット・テープ、CD、MD、ハード・ディスク、フラッシュ・メモリなどが使われていますが、今後はフラッシュ・メモリを使うものが増えると思われます。その理由には、フラッシュ・メモリの方が小型化に有利で、衝撃に強いこともあります。
現在256MBのフラッシュ・メモリが1万円程度で買えます。このメモリには約5時間分の音楽が入るので、しょっちゅう聴きたい曲を入れておくことができます。そして、10GBのフラッシュ・メモリに蓄えられる音楽は約200時間分になりますが、2010年前後にはがこれが1万円程度になると思われます。
現在、インターネットでダウンロードした曲を聴くアップルの”iPod”は4〜40GBのハード・ディスクを使っていますが、こういう機器は容量が小さいものから順次フラッシュ・メモリに置き換えられていくものと思われます。
フラッシュ・メモリ化が進むもう一つの理由は、音楽データをインターネットでダウンロードして、パソコンのハード・ディスクに蓄え、その中からしょっちゅう聴きたい曲を携帯音楽プレーヤなどに移して聴くのが一般的になると思われるからです。例えば、2003年4月にサービスを始めたアップルの”iTunes”という音楽のダウンロード・サイトは、最初の1年間に7,000万曲以上を販売したということです。
そして、インターネットによる音楽の配信が一般化すれば、音楽の販売用やレンタル用としてのCDやMDなども減り、携帯音楽プレーヤだけでなく、据え置き型のステレオ装置やカーステレオの記録媒体もフラッシュ・メモリに変わっていく可能性があります。
では映像の世界はどうでしょうか? 現在ビデオ・カメラの記録媒体にはミニDV規格のカセット・テープと8cmDVDが主として使われています。映像の記録に必要な容量はオーディオより1〜2桁多いため、ビデオ・カメラへのフラッシュ・メモリの適用はオーディオ機器より遅れるでしょう。しかし、10GBのフラッシュ・メモリには4時間以上の標準精細の映像データを蓄えることができます。したがって、前述のように2010年前後に10GBのフラッシュ・メモリが1万円程度で手に入るようになれば、ビデオ・カメラの記録媒体にもフラッシュ・メモリが使われるようになるものと思われます。
もうすでに携帯電話では動画の記録にフラッシュ・メモリが使われています。映像の世界でも、このように小画面、低精度のものから順次フラッシュ・メモリが使われるようになっていくでしょう。
そして映像の世界でも、テレビ放送で配信された映像データをHDD/DVDレコーダやホーム・サーバにいったん蓄えて、あとで視聴することが一般化しつつあります。また、光ファイバを使ったインターネット網が普及すれば、インターネットによる映像データの配信も増えるでしょう。そうなれば、映像の世界でも販売用やレンタル用のDVDなどの媒体は減ることになります。
AVの世界がこのような方向に進めば、DVDなどの記録媒体に対する、AVコンテンツの販売用、レンタル用、視聴用としてのニーズは減ります。しかし、ファイルのバックアップ用媒体としてのニーズは今後も残り、それがDVDなどの主な用途になると思われます。それは、ハード・ディスクやフラッシュ・メモリは記録容量に制約があり、また、つねにデータ破壊の危険にさらされているからです。
このようになれば、AV機器用の、モータ、磁性体、テープやディスクのプラスティック材料、光ピックアップなどに対する需要は大幅に減ります。したがって、このような技術で生きている企業は、フラッシュ・メモリの進歩とそれがAV機器に与える影響をよくウォッチしていく必要があると思われます。
■参考文献■
(1) 日経エレクトロニクス:「メモリ技術最前線」, 日経BP, 2004年3月1日号
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