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(株)オーム社 技術総合誌「OHM」 7月号 Headline Review に掲載
すべての商品に適用が広がるか 世界共通の「無線タグ」
PDFファイル [(株)オーム社殿のご提供による]
Q 無線タグとはどういうものですか
現在JR東日本の改札口では、従来の定期券のかわりに「Suica(スイカ)」というICカードが使えます。これを使えば、従来の定期券のように改札口のリーダ/ライタに挿入しなくても、リーダ/ライタの上にかざすだけで読み取ってくれます。したがって、従来のようにいちいち定期入れから定期券を取り出す必要がありません。これはICカードの中の半導体メモリに書かれている情報をリーダ/ライタが電波を使って読み取っているのです。
このようにカードやタグの中の半導体に書かれている情報を、電波(つまり無線)を使って読み取り、そのカードやタグを持っているヒトやそれがついているモノを識別することをRFID (Radio Frequency Identification)といい、それに使われるカードやタグが「非接触ICカード」とか「無線タグ」とか呼ばれています。最近は「電子タグ」、「ICタグ」などの言葉も使われています。ここではカード状のものも含めて「無線タグ」と呼ぶことにします。
図1に無線タグを使ったシステムの基本的な構成を示します。
Q 無線タグにはどういう種類があるのですか
表1に無線タグのおもな種類を示します。
「Suica」はリーダ/ライタが出す電波のエネルギーを使って電波を送り返す「受動型」ですが、距離が離れたところから読み取るのには大きい電力が必要なため、電池を内蔵した「能動型」もあります。最近は「受動型」が主流で、図1は「受動型」を示します。
また、定期券の機能だけであれば「読み取り専用型」でいいわけですが、「Suica」のようにプリペイドカードの機能も持つものは「読み書き可能型」である必要があります。
また、読み取れる距離によって、リーダ/ライタにピッタリつけて使う「密着型」、10cm程度まで離しても読み取れる「近接型」、さらに距離が長い「近傍型」、「遠隔型」などがあります。
表1 無線タグの主な種類 | ||
分類方法 |
種 別 |
機 能 |
電源の供給方法による |
受動型 |
リーダ/ライタからの電波を使用 |
分類 |
能動型 |
電池を内臓 |
読み書きの機能による |
読み取り専型 |
データの追加変更ができない |
分類 |
読み書き可能型 |
データの追加変更ができる |
密着型 |
〜2mm |
|
リーダ/ライタとの距離 |
近接型 |
〜10cm |
による分類 |
近傍型 |
〜70cm |
遠隔型 |
70cm〜 |
Q 無線タグは現在どういうところで使われているのですか
無線タグの用途には、大きく分けてヒトの識別とモノの識別があります。
前述の「Suica」のように交通機関の利用者が使うのはヒトの識別の一種です。「Suica」にはソニーのFeliCa(フェリカ)という無線タグの技術が使われていて、2001年11月にサービスが始まりました。その利用者は2003年4月に600万人を突破したということです。FeliCaは香港やシンガポールなどでも交通機関の支払手段として使われ、香港では1,200万枚(2002年6月現在)出荷したということです。またFeliCaはコンビニエンスストアのam/pmなどでプリペイド型の電子マネーとしても使われています。
ヒトの識別としては、このほか、オフィスの入口でドアの鍵と連動して入退室管理に使われたり、レジャーランドの施設やスキー場のリフトの利用券として使われたりしています。
モノの識別としては、ブタなどの体に埋め込んで家畜の管理に使われたり、列車の車両の識別に使われたりしています。
従来は無線タグ1個が数百円以上もしたため、主としてヒトの識別に使われてきました。
Q 最近急に無線タグという言葉をよく耳にしますが、どういうことが起きているのですか
最近、無線タグを安く作る技術が現れたため、商品の識別に急速に広がる可能性がでてきたのです。
例えば、アメリカのエイリアン・テクノロジが開発した技術は、エッチングで半導体のウェハ上のチップを切り離すことによって、直径8インチのウェハ1枚から0.15mm角のチップを25万個取り、このチップを、液体を使った特殊なプロセスでプラスチックのフィルムに搭載するものです。このタグの価格は2004年には1個5セント(約6円)になるといわれています。
また日立製作所は2001年6月に、ミューチップという、128ビットの情報を0.4mm角のチップに入れた無線タグを発表しました。これは現在1個50円前後しますが、この2月14日に発表した0.3mm角のものはさらに大幅に価格が下がるということです。
これらの半導体チップは非常に小さいため「ゴマ粒チップ」とも呼ばれています。
このような安い無線タグの出現によって、一般の商品への適用が可能になりました。商品の識別には従来からバーコードが使われていますが、バーコードは一般に10桁程度で、情報量が少なく、商品の詳細情報は記入できませんでした。しかし、無線タグを使えば、半導体に情報を書き込んでおくので情報量が飛躍的に増えます。そこで、無線タグを使って生産工場から小売店の店頭で顧客の手に渡るまで一貫して商品の流れを管理し、流通・在庫管理の合理化を図ろうという動きが起きているのです。
例えば、プロクター・アンド・ギャンブルは、期待通りにいけば、これによって在庫を半分に減らすことができ、年間4億ドルの経費節減ができると言っています。そして、これを使うことにより、在庫切れを事前に検知して補充できるため、「品切れ」による機会損失も減らせます。また盗難、破損、誤配、紛失などによるロスが流通コストの3〜5%を占めるといわれ、これらが減ることによる効果も大きいと言われています。
そして、この無線タグ上のコードは、不良品の回収、修理の履歴管理、リサイクル時の素材情報の明確化、偽ブランド品の流通防止などにも有効に使われることが期待されています。
Q 商品の識別に無線タグを使うにはどのような問題がありますか? また現在その問題に対してどう対処しようとしているのですか
バーコードでも無線タグでも、全世界のすべての商品に基本的には同じ規格で情報が書かれていないと、流通過程や小売店で情報を読み取ったり、読み取った情報を処理したりするのに大変なロスが発生します。そのため、いろいろな組織が標準化の活動をはじめています。
1999年にマサチューセッツ工科大学内に設置されたオートIDセンターはその一つで、現在、プロクター・アンド・ギャンブル、ウォルマート、コカコーラ、ジョンソン・アンド・ジョンソンなど94社がスポンサーになっています。
オートIDセンターは、無線タグを安くするため、商品を識別する96ビットまたは64ビットのEPC (Electronic Product Code)というコードだけを無線タグに持たせ、そのほかの情報はPML (Product Mark-up Language)という言語で記述して、インターネットで参照するようにしています。また、このネット上の情報を使うためには、EPCを使ってその情報が入っているサーバーの場所を検索する必要があるため、ONS (Object Naming Service)というディレクトリ・サービスを設けようとしています。全世界でこのしかけを使えるようにするためには、無線タグ、リーダのほか、これらのしかけの標準化が必要になるわけです。
エイリアン・テクノロジの無線タグはこのオートIDセンターの規格に適合した最初の無線タグです。ジレットは今年の1月6日に、米国市場向けの一部の商品にこの無線タグを適用する試験を開始すると発表しました。今後数年間に最大5億個の無線タグをエイリアン・テクノロジから買う計画ということです。
日本でも今年の1月に、このオートIDセンターのアジア初の研究拠点が慶応義塾大学内に設立され、村井純教授がリサーチ・ディレクタに就任しました。
また今年の3月に東京大学の坂村健教授が中心になって、ユビキタスIDセンターという同じような目的の組織が設立され、活動を始めています。
政府も、経済産業省が中心になって、商品につける無線タグのコード体系の標準化に乗りだし、今年の2月に「商品トレーサビリティの向上に関する研究会」という会を発足しました。この研究会が4月のはじめに公表した中間報告は、業界の壁を越えて共通化を図る「業際性」、国際的に通用する「国際性」、既存のコード体系との「互換性」を重視して標準化を進める必要があると言っています。
現在商品に付いているバーコードについては、アメリカとカナダでは12桁、そのほかの国では13桁が標準と、2通りの規格ができてしまいました。こうなると、規格が違う国へ輸出するには、メーカーが輸出先の国の規格に合わせたバーコードを付けるか、輸入業者が自国のバーコードに付け替えるかしなければなりません。
このような事態になるのを避けるためには、普及がはじまる前に標準化を図ることが不可欠です。商品への無線タグの適用はここ1〜2年以内に始まろうとしているので、これからしばらくの間が標準化にとって非常に重要な時期になるでしょう。
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