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オーム社「Computer & Network LAN」2003年11月号 掲載 PDFファイル
(下記は「OHM」2009年3月号の別冊付録「ITのパラダイムシフト Part U」に収録されたものです)
いいウェブサイト、悪いウェブサイト
酒井 寿紀 (さかい としのり) 酒井ITビジネス研究所
重宝したウェブサイトからの情報
2001年5月に8人でフロリダに行った。わたしを含めた同行の8人は、1965年に、仕事のためフロリダのウェスト・パーム・ビーチに滞在していた。そこを36年振りに再訪しようということになったのである。歳を取ると、だれでも昔いたところに行ってみたくなるようだ。そのときにウェブを活用した話からいくつかを拾ってみよう。
まず、当時滞在していたモーテルをインターネットで探すと、自分のウェブサイトも持っていない小さいモーテルだが、地域のウェブサイトにはちゃんと昔の名前で出ていて、電話で予約することができた。突然日本から予約の電話が入り、管理人はいぶかしがっていたようだ。
次にレンタカーが必要だ。8人なので2台必要だが、1台に4人のスーツケースを積むため、トランクのサイズが問題だった。ところがレンタカーのサイトの説明には、それぞれの車に大小のスーツケースが何個積めるかが詳しくでていた。レンタカーの情報としては、エンジンの性能などよりこの方がはるかに重要だ。
ノートパソコンを持参して、現地でレストランを探した。しかし、例えばウェスト・パーム・ビーチのシーフードのレストランを探すと、なんと300軒以上もあってどうしようもない。そこで、市街地の中心から10マイル以内で、値段が30から50ドルという条件を指定するとやっと10数軒になった。さらにザガットというレストラン・ガイドが推薦しているところに絞ると6軒になり、どうにか手に負える範囲になった。レストラン・ガイドなどでは、ただ数多く登録されているだけでなく、このように絞込みの機能がいろいろそろっていることが重要である。
現地で買った地図に美術館が出ていたが、その付近を車で探し回っても見つからない。モーテルに帰ってウェブで調べたら、最近移転したとのことだった。2年前に発行された地図がもう役に立たなくなっていた。情報の新しさでは、ウェブにかなうものはない。
次の日に移転先に行ってみたが、美術館といっても、一方通行だらけの市街地にある小さなギャラリーで、しかも少し離れた駐車場に車を入れる必要があったため、ウェブの詳しい説明を見ていなかったらとても行けなかっただろう。
同行者の一部の人は「PGAナショナル」という大きなゴルフ場でゴルフをしたが、このゴルフ場のサイトには各ホールの攻略法の詳しい説明が載っていた。ゴルフ狂(失礼!)の1人はそれのコピーを持参して、行きがけの飛行機の中で熱心に予習していた。
マイアミでクルージングをしようと適当な船を探したところ、「ヘリティジ・オブ・マイアミ」という帆船があることが分かり、それに乗ってみることにした。女性の船長が操船から観光ガイドまでやっている船だったが、ちゃんと自分のウェブサイトを持っていて、写真入りの詳しい説明が載っていた。このサイトがなかったら、たぶんこの船に乗ることはなかっただろう。
いいウェブサイトの条件とは
この旅行では幸いにして「いいウェブサイト」に巡り合うことができ、ウェブが大変役立った。しかし、いつもこのようにウェブで適切な情報が入手できるとは限らない。それは米国でも日本と同じである。では、ウェブサイトの利用者に役に立ち、そしてその提供者にも利益をもたらす「いいウェブサイト」とはどういうものだろうか? 主な条件をあげてみよう。
●利用者が必要とする情報や機能が用意されていること。レンタカーなら、トランクに積めるスーツケースの数など。レストラン・ガイドなら、場所や値段で絞り込む機能など。
●不要な情報が少ないこと。不必要に大きい写真、用もないアニメ、そらぞらしい宣伝文句、ケバケバしい広告などは少なければ少ないほど目的とする情報を探しやすい。
●目的とする情報にたどりつくまでの手かずが少ないこと。1ページ目は使用言語を選ぶだけとか、やたらとプルダウン・メニューが多く一覧性に欠けるものなどは無駄な手かずがかかる。
「悪いウェブサイト」はこの逆である。では、どうしてこうも世の中には「悪いウェブサイト」が多いのだろうか? その原因には下記のことがあると思う。
●ウェブの最新技術を駆使することが生きがいの、パソコン坊やのなれの果てにウェブサイトの作成を任せきりにしている。
●見かけがきらびやかなウェブサイトを作成して依頼者からカネをふんだくろうとする、悪質なウェブサイト制作業者に仕事を放り投げている。
新技術は、それを使う人に利益をもたらすものでなればならない。現在のウェブの状況を見ると、新技術をもてあそぶこと自身が自己目的化してしまっているサイトが多いように思う。
新技術は、それが真に役立つところで道具として使うべきもので、道具に使われてしまってはならない。
「Computer & Network LAN」2003年11月号
[後記] 本稿を書いてから5年以上経つが、いまだに不便極まりないウェブサイトが横行しているように思う。電気製品やクルマの仕様を調べるとき、なかなか目的のページにたどり着けず、いらいらするのは私だけだろうか? ただし、日本の航空会社のサイトでも、最初のページでフライトの予約ができるようになった点などには改善の跡が感じられる。
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