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title.gif (1997 バイト)

No.24                             酒 井 寿 紀                      2000/12/14


地価は再上昇するか?

 

私が現在住んでいる東京の郊外の地価は、バブルのピーク時には坪当たり1千万円近くしていたが、現在は200万円程度である。また、私が前に住んでいた首都圏の都市の地価は、一時坪当り100万円近くしていたが、現在は40〜50万円程度だ。

この10年間に、これらの住宅地の地価は5分の1から2分の1に値下がりした。もっと下がったところもあるだろう。今後これらの土地の地価はさらに下がるのだろうか? それとも、そのうち下げ止まって、再上昇するのだろうか?

日本の地価は、終戦時から1990年のバブル崩壊まで、ずっと上がり続けてきた。その値上がりの原因が基本的に変ってないのなら、バブル崩壊による暴落が一段落すれば、また再び上がり出すだろう。しかし、状況が基本的に変ってしまったのなら別だ。

戦後40年以上に渡って、地価の上昇が続いた原因は何だろう。そして、それは今後どうなるだろうか?

先ず第1は、何と言っても需給関係だろう。

日本の人口が増え続け、それに伴い住宅地の需要が増え続けた。特に大都市の近郊では著しかった。それに加えて、生活が豊かになるにつれて、海外で「ウサギ小屋」と呼ばれた小さな家を捨て、もっと広い家を求めるようになった。これが地価上昇の最大の原因だ。

しかし人口は今後減少に向かう。政府の予想では、2007年に1億2800万人とピークになった後、2050年には1億人まで減るという。20%以上の減少である。それに伴い住宅地の需要も減る。

また戦後増え続けた工場用地の需要も今後減るだろう。衣料品や家電品の工場は、安い人件費を求めて、どんどん中国等に移転している。今後は自動車工場等も出て行くだろう。地方都市が工場誘致を狙って工業団地を造成したが、来てくれる企業がなくてぺんぺん草が生えているところがたくさんある。

その他、ゴルフ場やレジャーランドも増え続け、広大な土地を占拠してきたが、人口が減ればこれらの施設の利用者も減るので、もう新規に建設されることはほとんどないだろう。

こうして、先ず需給面から、地価は下がり続けるだろう。

戦後地価が上がり続けた第2の要因は、土地が極めてリスクが低くてリターンが大きい投資対象であり続けたことだ。

年収の何倍もの借金をしてでも、早く土地を買って家を建てた人が必ず得をした。

自分で住む為に土地を買うのはまだいい。不動産屋は将来の値上がりを見越して土地を買いあさった。土地を使う為に買うのではなく、単に投資の対象として買うのだ。東京の都心から10キロメートル位しかない浦安が、まだ山本周五郎の「青べか物語」に出てくるような一面に葦が茂る荒れ地だった頃買い占めた不動産業者は一体どれくらい儲けたのだろうか?

地価の値上がりを見込んで買う。そういう人が多いので、どんどん値が上がる。その為さらに買う人が増える。こういう、実需とはまったく関係がない投資の世界が存在した。そして「地上げ屋」は、転売による利益を増やす為に、あらゆる手を使って値上げを図った。

こういう商売人は別にしても、一般の人にとっても、土地は長期的な投資の対象として非常にうまみがあった。その為、親から相続した土地や、転勤で住まなくなった土地を売らずにそのまま持ち続ける人が大勢いた。また、大都市の近郊の農家には、ほとんど農業をやらなくなり、土地が不要になっても、売らずに持ち続ける家が多かった。さしあたり金が要らないと、売ってごっそりと税金を取られるより、その方が賢明だった。

こういう、投資の為の土地の需要が、実需による需要に上乗せになり、土地の需給関係をより一層タイトにした。

しかし、土地の値段が下がり始めた途端に、土地は投資の対象にはならなくなった。土地に投資をする人はいなくなり、むしろ早く手放した方が財産を減らさないで済むようになった。その為、今後は土地の需要が減るだけでなく、供給量が増え、ますます値下がりに拍車がかかるだろう。

第3の要因として相続税の制度にも問題があった。

土地の相続税は路線価を基準に課税されるが、これがその土地の市場価格よりはるかに安い時代がずっと続いた。その為、同じ市場価格の財産でも、土地の形で相続した方が相続税がはるかに少なくて済んだ。これが土地の需要をますます増やした。

しかし、バブルが崩壊して、土地の市場価格が下がってしまい、路線価との差がなくなってしまった。その為、相続税対策としての土地の需要も今後はなくなる。

さらに第4の要因として、大半が農民を先祖に持つ日本人の、土地に対する異常な執着がある。成田の農民を、体を張り、命を懸けても、空港建設反対に駆り立てた原動力である。親子代々伝わった土地を売っては、あの世でご先祖様に合わす顔がない、少なくとも自分の代には手放したくない、という気持ちが非常に強い。これが土地に供給量を減らした。

これは何百年にも渡って身にしみついたものなので、10年や20年で簡単に変るものではない。しかし、農業離れが進むにつれて、長期的にはなくなっていくことは間違いない。

このように状況が一変したので、土地の価格は、まだまだ下がり続けるだろう。将来インフレーションが起きれば、名目価格は上がる時期もあるかも知れないが、実質価格は間違いなくまだ下がっていくだろう。

もちろん地域によるばらつきがあり、利用価値が上がって値上がりする土地も一部にはあるだろうが、それは極一部の例外だろう。

しかし驚くにはあたらない。今迄が異常だったのであり、世界の標準に近づくだけなのである。


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