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No.23 酒 井 寿 紀 2000/11/20
最近政府が発表したITの「基本戦略」の「重点政策分野」のひとつに「電子商取引」があり、そこで「電子商取引を阻害する規制の改革」が謳われている。これを早く実現しないと、今の日本の実態では、インターネットの活用による生産性の向上等とても望めない。
ある銀行のオンライン取引を申し込んだら、毎月200円の引き落としの連絡を葉書で送ってくる。
またある銀行は、オンラインで振り込む度に葉書で連絡がくる他、毎月、預金口座の入出金の明細等を何ページにも渡って印刷して郵送してくる。いつでもインターネットで見ることができる内容である。
またある証券会社は、株を売買するたびに取引報告を送ってくる他、毎月1ヶ月分の取引と残高の明細を郵送してくる。これもインターネットで全部見ることができるので必要ない。
法律で縛られているためか、役所の指導のためか、あるいは単に過去の習慣を踏襲しているだけなのか知らないが、実に馬鹿げたことが行われている。オンライン取引のメリットが半減している。
こういうものは、いつでもインターネットで見ることができ、必要なら印刷すればいいので、まったく不要である。郵政省と製紙会社を儲けさせるだけだ。その分預金金利を上げたり、株の売買手数料を下げたりしてくれた方がずっといい。
確かに現在のオンライン取引のしくみでは不充分な点もある。ハードコピーを取っておこうとしても、印刷ができなかったり、あるいは取引情報をディスクに取り込んでおくことができなかったり、また1ヶ月分の入出金の合計が見られなかったりする。
しかし、それを紙で補おうとするのは筋違いで、あくまでオンラインシステムをもっと使いやすいものにするべきだ。
以前ウィーンのコンサートのチケットをインターネットで申し込んだら、電子メールで、「あなたの番号はXXです。このメールを印刷して当日会場に持って来て下さい」という連絡があった。料金はクレジットカードでの引き落としである。こんな簡単なしかけで大丈夫かと思ったが、言われた通りにすると、入口でメールのコピーの紙切れをリストとチェックしてチケットを渡してくれ、難なく入れた。
番号だけ変えた電子メールのコピーを持って、早目に会場に行けば、誰でも入れるようないい加減なシステムである。しかし、少数の悪いことをする奴を捕まえるために金をかけるより、紙代や郵便代の節約を図って、その分安くコンサートを聴いてもらった方が皆のためだ、という判断なのだろう。
後で人に聞いたら、アメリカ等ではこういうやりかたは当たり前なのだそうだ。
確かに紙や郵便を使わないことによって発生するリスクもあるだろう。しかしそれを、紙や郵便を使わず、別の方法で回避する方法もあるはずだ。そして最後には、リスクの大きさと、リスクの低減にかかる費用とを天秤にかける問題になる。
しかし、現在の日本の銀行や証券会社のオンライン取引は、こういうリスク低減以前の問題である。誰にとってもほとんどメリットがない紙や郵便に費用をかけ、ただ紙屑を増やして、環境破壊に貢献(?)しているだけだ。
もし規制が邪魔しているなら、排除すべき規制は即刻撤廃すべきだ。
そして規制されている方の責任もある。紙や郵便を使わなくても、利用者が不安を感じないようなシステム作りにもっと力を入れるべきだ。
郵政省と製紙会社が、収入が減ってしまって困るようにならないと、インターネットによる生産性向上等おぼつかない。
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