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No.21 酒 井 寿 紀 2000/11/18
最近は、新聞でもテレビでも、連日「IT」、「IT」と大騒ぎである。
しかし、「IT」という言葉の意味は明確なのだろうか?
先日テレビを見ていたら、ある有名な評論家が、「シンガポールでは政府が1984年からITに力を入れている」と言っていた。また新聞の座談会で、ある大学教授が、「日本も少なくとも10年前からITにもっと力を入れるべきだった」という発言をしていた。
ここで言われている「IT」は、現在森内閣が連日唱えている「IT」と同じものなのだろうか?
11月6日に政府が「IT戦略会議」に提示したIT政策の「基本戦略(草案)」によると、「我が国のIT革命への取り組みの遅れ」の項の書き出しが、「我が国のインターネット利用の遅れの主原因は…」となっている。またその「基本戦略」の「重点政策分野」の項によると、「世界最高水準のインターネット網の整備」、「インターネット時代にふさわしい制度整備」、「行政情報のインターネット公開」が重点政策とのことである。
従って、政府が言う「IT」とはまさに「インターネット」そのものである。
そうだとすると、はじめの評論家や大学教授の発言はちょっとおかしい。インターネットが軍や大学の手を離れて一般的に使われ出し、社会・経済上も大きい影響を与えるようになったのはアメリカでも1995年前後である。
あのビル・ゲイツでさえ、「1993年時点では、われわれはインターネットに『照準』をあわせてはいなかった」と自著の「思考スピードの経営」(大原 進訳、日本経済新聞社)で明言している。しかしその後マイクロソフト社はインターネット対応に全力をあげ、一連の技術を95年の12月に公開した。
従って、80年代にシンガポール政府が力を入れたというのは、私はその内容を知らないが、現在日本の政府が唱えている意味での「IT」ではない。
もともと「IT」とは「Information Technology」つまり「情報技術」である。情報といってもいろいろあるが、コンピュータで扱えるようなディジタル情報を処理し、蓄え、伝える技術全般を指すのがそもそもの意味だと思う。
そうだとすると、これは何もインターネットに限らず、ディジタルコンピュータが使われ出した1950年代から延々と発展して来た技術である。そして日本の政府も、1960年代以来、通産省を中心にして、コンピュータ開発の補助金支給、メーカー間の協力関係の促進、第5世代コンピュータの開発推進等、民間企業にとっては有り難迷惑なくらい力を入れてきた。
従って、「IT」をこのように本来の広義の意味で使っても、前の評論家や大学教授の発言はやっぱりおかしい。
「IT」についての議論を聞く時は、その人が何をさして「IT」と言っているのかを先ずよく認識する必要がある。政府が「IT」等と言わず、端的に「インターネット」と言ってくれればこんな混乱は起きなかったのにと思う。
いずれにしても、本誌No.1「何故『ネット株』か?」でも述べた通り、今後5〜10年のレンジで見る時、われわれの経済活動に最も大きい影響を及ぼすものがインターネットであることは間違いない。そしてその普及について政府がやるべきことは、(1) 通信インフラの整備、(2) インターネットの使用を阻害している規制の撤廃、(3) 行政サービスのインターネット化、(4) インターネット・リテラシーの向上だと思う。従って、これらを「重点政策分野」として掲げている今回の「基本戦略」は概ね正しい方向を向いているように思う。
このように「IT」の意味が必ずしも明確でないため、現在のITブームに悪乗りして何でもかんでもITにしてしまう企業もあるので気をつけないといけない。これから伸びるのは「インターネット」であって、従来型のITではない。本誌No.2 「『ネット株』まがいにご用心」でも述べたように、ITと言ってもインターネット関連かどうかをよく見極める必要がある。
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