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title.gif (1997 バイト)

No.20                             酒 井 寿 紀                      2000/08/23


今の米国株はバブルか?

 

本誌No.3で、日本の実体経済の代表的指数であるGDPと、日本の株価の総額を代表するTOPIXを過去50年に渡り比較してみた。その結果、長期的に見れば両者はほぼ比例しており、一時的には比例関係が崩れても、数年以内には元に戻っていることが分った。

80年代後半の、実体経済から遊離した株高、いわゆる「バブル」は長続きせず、数年後には元の比例関係に戻っていた。

ではアメリかはどうだろうか? やはりこの比例関係が成り立っているのだろうか? もしそうだとすると、現在のアメリカの株価は、やはりバブルと見るべきものだろうか?

日本の場合と同様に、米国のGDPと、米国の株価の総額を代表するS&P500を過去50年に渡って比較してみよう。GDPは米国商務省のウェブサイトで、またS&P500はYahoo! Financeのウェブサイトで、それぞれ詳細数値が公開されているので、日本よりはるかに便利だ。その結果を下記の表に示す。

S&P500をGDP(単位10億ドル)で割り、分かりやすくするため、10倍したものを仮にSGR (S&P-GDP-Ratio) として表に示した。

これを見ると、SGRは過去50年に渡って、一時期を除き、0.5〜1の間にあることが分る。一時期この範囲を逸脱しても、10年以内には元に戻っている。この50年間にGDPはほぼ30倍に増えているが、この関係は保たれている。日本の場合と同様である。やはり株価は実体経済に比例するところに戻っている。

それでは最近の株価はどうだろうか?

1998年のSGRは1.24、1999年のSGRは1.43で、ともに過去50年間の最高値だ。さらに今年の3月にはS&P500が1,520迄上がったので、これを仮に昨年のGDPで割るとSGRは1.6以上になる。

これをバブルと呼ぶかどうかは別にして、こういう状態が10年以上に渡って続いたことはこの50年間になかった。また、こんなにはなはだしく比例関係を逸脱したこともなかったのだ。

比例関係からの逸脱が大きいということは、比例関係へ引き戻そうとする力も大きいと見るべきだろう。従って、現在の株高は長続きせず、今後5年以上も続く可能性は少ないと見るべきだろう。

そして株価は常にオーバーシュートする。実体経済からの逸脱が大きく、株価を引き下げようとするエネルギーが地下にいっぱい溜まっているので、ちょっとしたきっかけで大暴落を引き起こす可能性があるように思う。

現在のアメリカの実体経済はまだ絶好調なので、そんな気配はまったく見えないが、キャピタルゲインを当て込んだ消費、借金が多くなっているので、いったん株価が下がり出すと、消費が激減し、実体経済も崩れ出すという悪循環に陥る可能性が高い。

そして問題は、この影響を受けるのはアメリカだけではないことである。いやそれどころか、これは現在の日本の株価にとっても最大のリスクだと思う。

これは関東地方の大地震と同様、いつ起きるかは分らないが、いつかは必ず起きる問題だと思う。

これに対して、米国政府やFRBがいろいろ手を打ってもほとんど無力だろう。それは株高自身が問題の根源だからである。多少有効な手があるとすれば、地下のストレス解消の小地震をしょっちゅう起こして、株価を少しでも実体経済に近づけておくことと、借金のし過ぎに注意を促すことぐらいだろう。

暦年

GDP

a

S&P500

b

SGR

10b/a

暦年

GDP

a

S&P500

b

SGR

10b/a

暦年

GDP

a

S&P500

b

SGR

10b/a

1950

294.3

18.44

0.63

1967

834.1

92.18

1.11

1984

3,932.7

160.32

0.41

1951

339.5

22.36

0.66

1968

911.5

98.54

1.08

1985

4,213.0

188.97

0.45

1952

358.6

24.64

0.69

1969

985.3

97.58

0.99

1986

4,452.9

238.92

0.54

1953

379.9

24.70

0.65

1970

1,039.7

83.45

0.80

1987

4,742.5

285.99

0.60

1954

381.1

30.06

0.79

1971

1,128.6

98.21

0.87

1988

5,108.3

268.05

0.52

1955

415.2

40.88

0.98

1972

1,240.4

109.78

0.89

1989

5,489.1

326.31

0.59

1956

438.0

46.48

1.06

1973

1,385.5

106.51

0.77

1990

5,803.2

332.68

0.57

1957

461.5

44.25

0.96

1974

1,501.0

81.48

0.54

1991

5,986.2

381.53

0.64

1958

467.9

46.79

1.00

1975

1,635.2

87.13

0.53

1992

6,318.9

417.12

0.66

1959

507.4

57.81

1.14

1976

1,823.9

102.79

0.56

1993

6,642.3

453.45

0.68

1960

527.4

55.60

1.05

1977

2,031.4

97.48

0.48

1994

7,054.3

460.66

0.65

1961

545.7

66.65

1.22

1978

2,295.9

95.46

0.42

1995

7,400.5

546.88

0.74

1962

586.5

61.96

1.06

1979

2,566.4

103.33

0.40

1996

7,813.2

674.85

0.86

1963

618.7

70.22

1.13

1980

2,795.6

119.58

0.43

1997

8,318.4

875.86

1.05

1964

664.4

81.55

1.23

1981

3,131.3

127.84

0.41

1998

8,790.2

1,087.86

1.24

1965

720.1

88.47

1.23

1982

3,259.2

120.28

0.37

1999

9,299.2

1,330.60

1.43

1966

789.3

84.46

1.07

1983

3,534.9

160.72

0.45

(注) GDPの単位は10億ドル

               S&P500は月の終値の平均値


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