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No.19                             酒 井 寿 紀                      2000/07/30


株を持ってはいけない時

 

前号に続いて、今度は「株を持ってはいけない時」の話。

誰でも、過去を振り返って、持っている株が値下がりした時は、株を売っておけばよかったと思う。月単位での売買を考えている人は、過去1ヶ月間に値下がりすればそう思うだろうし、年単位での売買を考えている人は過去1年間に値下がりすればそう思うだろう。1日単位での売買をする、いわゆるデイトレーダーについても同じで、彼らは値下がりした日にはしまったと思うだろう。

だから、人によって期間は違うが、「値下がりする期間」は「株を持ってはいけない時」である。

「そんなことを言ったって、それが事前に分れば苦労しない」と思われるだろう。その通りである。百発百中は絶対に不可能だ。しかし、自分が売買を考えている期間に、値上がりするか値下がりするかの予想が、最悪3勝2敗でも、4勝3敗でもいいから、とにかく勝ち越さないなら株は止めた方がいい。もちろん、証券会社に聞こうが、株の雑誌を利用しようが自由だが、最後は自分で判断するしかない。

「値下がりすると思ったら売りなさい。値上がりすると思うなら持ち続けなさい」とは、あまりにも当たり前の、馬鹿馬鹿しい話と思われるかも知れないが、そうでもないのだ。「株を持ち続けるか売るべきかを判断する時は、将来の株価予想以外のすべてを排除すべきだ」というのがポイントで、これはあまり一般に言われていないことだと思う。

先ず、「いくらで買ったか」、「今売ったら利益が出るか損するか」は「持ち続けるべきか、売るべきか」の判断をする時には忘れるべきだ。これはなかなか難しい。しかし、現時点の評価額を1ヶ月先とか、1年先に少しでも増やすのが目的なら、過去にいくらで買ったか、あるいはいくらで相続したかは全く関係ない。買った時点から現時点までの値上がりや値下がりはあくまでも済んでしまった過去の話であり、今後の損益に影響するのは今後の値動きだけだからである。従って、現時点でどうするかは、今後の株価の見通しだけから判断するべきだ。

よく「損切りのタイミングは非常に難しい」と言われる。心理的にはよく分る。しかしこれを難しく考えてはいけない。買った値段や相続時の評価額は無視するべきで、そうすれば「損切り」等という概念自身がなくなる。

「損切り」の心理的負担をやわらげる方法として、「併せ切り」という方法を奨める人もいる。値下がりした株と同時に値上がりした株を売って、「損切り」の損を薄める方法である。しかしこれはまったくの気休めにすぎない。値上がりした株にさらに値上がりが予想されるなら、絶対に売るべきではない。気休めのためにみすみす今後の利益を見過ごすことはない。「売るべきか保持すべきか」は銘柄ごとに独立に判断するべきだ。まだ値上がりが予想されるのに売っていいのは、より高い値上がりが予想される株を買うための資金が必要な時だけである。

「株を持ってはいけない時」の判断で問題になるのは一般の株式の投資信託の投資スタンスである。投資信託のファンドマネージャは企業の経営状況を丹念に調べ、毎月投資先を見直して、少しでも資産の運用益が上がるように努力している。しかし、市場全体の値下がりがある程度予想されても、基本的には株を持ち続けるというのが彼らのスタンスだ。

確かに株価は、グリーンスパン議長や日銀総裁のちょっとした発言がきっかけで暴落したり、マイクロソフトの訴訟問題やそごうの処理の展開に振り回されたりして、見通しが非常に難しい。しかし、例えば今年に入っても、昨年12月の異常な暴騰の後の今年1月の値下がりとか、3月の期末決算対策のための株の処分による値下がりとかはある程度事前に予想できたと思う。月単位で売買する人にとっては、これらの月は「株を持ってはいけない時」だったのだ。しかし、こういうことにはお構いなしに、常にほとんどの資産を株で持ち続けるのが一般のファンドマネージャのスタンスのようだ。

確かに、資産総額が何千億円というような大型の投資信託にとっては、たとえ株価の値下がりが予想されても、短期間に売ったり買い戻したりするのは難しいだろう。強行すれば市場が混乱する恐れがある。しかし、だからと言って、値下がりが予想されても株への組み入れ比率をほとんど下げようとしないのは、銘柄の選定に細かい注意を払っている割には、雑な運用だと思う。投資信託を利用する時は、投資信託とはこういうものだということをよく理解しておく必要がある。

「株を持ってはいけない時」に持たないようにしようとするなら、はじめから投資信託を買わないか、「持ってはいけない時」になった時に投資信託を解約するしかない。


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