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title.gif (1997 バイト)

No.16                             酒 井 寿 紀                      2000/05/31


「熊」の出番来たる?

 

4月に引き続き、5月に入ってからも、日本の株価はアメリカの株価に振り回されっぱなしだ。従って、当分の間は、アメリカの株価の見通しが極めて重要になる。

NASDAQは3月10日に5,049ポイントのピークを記録した後、5月23日には3,165まで下がり、5月30日現在3,459まで回復したが、今後回復は続くのだろうか?

ダウは1月14日の11,723ドルのピークの後、3月7日には9,796ドルまで下がり、現在10,527ドルまで回復しているが、再び下がることはないのだろうか?

4月以降NASDAQが暴落したことは確かだ。この暴落を前から予想し、暴落に備えた商品を販売している、その名も「 Prudent Bear (用心深い熊)」という、ベアマーケット向けの投資信託会社がある。「熊」の言うことを聞いてみよう。

「株価の上昇が続いた後の低迷は長期間に渡る。1929年の大恐慌直前に、ダウにリンクして投資したとすると、金が取り戻せたのは、配当を再投資したとして、インフレを考慮すると、24年後の1953年になる。また、1966年に株を買った場合は、70年代の不況のため、元が取れたのは28年後の1994年になる」1)

「従って、相場のピークで投資することは避けなければならない。多くの投資アドバイザーが 『 buy and hold 』 を勧めるが、彼らは1982年以降のことしか知らないのだ」1)

「われわれは現在このような相場のピークにいるのだ」1)

これらは、同社のウェブサイトに載っている同社の紹介記事によるもので、たぶん今回の暴落前に書かれたものだろう。

では現在の相場をどう判断するべきか? 5年前の95年にこの「熊」会社を作った「熊親分」の David Tice は言う。

「(現在の高株価の元になっている)インターネットビジネスは、ISP、プッシュ技術、コンテンツ事業等次々と出てくるが、その多くのビジネスモデルは成り立たない」2)

「現在のAOLの株価を正当化するには、今後20年に渡って年率39%の成長を続けなければならないという。既にアメリカのシェアの60%を確保しており、インターネットは成熟期に入っているので、こんなことが起きるわけがない」2)

さらに、「熊親分」は言う。

「FRBの統計によると、アメリカの家計の金融資産中の株の比率は、1982年には14%だったが、1998年には34%になった。1989年には32%の家庭しか株を持っていなかったが、98年には49%が持つようになった」3)

そしてアメリカ人はキャピタルゲインに喜んでどんどん借金するようになった。

「家計の負債の可処分所得に対する比率は、1986年には78%であったが、98年には98%に達した」4)

つまり平均して税引き後の年収に匹敵する借金を抱えているのである。

そこで「熊親分」は心配する。

「消費者はかつてないほど高金利のリスクにさらされている。消費者金融の1/6から1/3は変動金利なのだ」4)

そして、昨年の6月以来アメリカの金利は上がりつつあり、これからもまだ上がると言われている。家計の圧迫が続くのは明らかだ。

その結果何が起きるか。この「熊親分」はテレビ東京の5月21日の「日高義樹のワシントンリポート」のインタービューで言っていた。

「今回の暴落など氷山の一角に過ぎない。現在は完全に資産バブルの状態だ。FRBの金利政策などまったく期待できない。中央銀行は信用の拡大防止にもっと注意を払うべきだった。年内にダウは5,000ドル以下になり、NASDAQは1,000ポイント以下になるだろう」

96年の相場に戻るというのである。大暴落だが、日経平均が90年から約2年半で半分以下になり、バブルの始めの86年の相場に戻ってしまったことを思うと、歴史上前例がないわけではない。

この「熊」会社は、相場の下落を予想する投資家を対象にした、カラ売り、先物売り、プットオプション購入、金への投資等が中心の投資信託を商売にしている。従って、株価が暴落すればするほど、また景気の見通しに悲観的な投資家が増えれば増えるほど儲かる会社なのだ。「熊」の話を聞く時はこの点に気をつける必要がある。しかし、さすがに投資信託の先進国だけあっていろいろな会社があるものだ。そして「熊」は言う。

「株価が下がった時に儲けようというカラ売りは、汚い、反社会的行為だという人がいるが、そうではない。これは株価が上がりすぎるのを押さえ、市場の資金の流動性を増し、バブルの抑制に貢献するのだ」1)

今迄にどれだけ実績を上げたのかは知らないが、これから「熊」の本当の出番が来るのかも知れない。バブルの抑制上、日本にもこういう熊の出現を望みたい。

 

1) PrudentBear.com ( http://www.prudentbear.com/Prudentbear/overview.htm )

2) On Wall Street ( April 2000 )

3) On Wall Street ( March 2000 )

4) On Wall Street ( November 1999 )

     2)〜4) : http://www.prudentbear.com/Prudentbear/onwallstreet.htm


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