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No.15                             酒 井 寿 紀                      2000/05/14


日本のインターネットは米国に追いつくか?

 

前号に記したように、携帯電話でインターネットを使うのは、インターネット全体から見ればごく一部に過ぎない。従って、携帯電話でのインターネットの使用では日本が一番進んでいるからといって、それだけで日本がインターネットでの最先端の国になることはない。

インターネットの世界では、まだ当分の間パソコン中心の時代が続くと思われる。その世界で日本は今後どんな位置づけになるのだろうか?

アイルランドのNua社がまとめた統計によると、日本の今年3月のインターネット普及率(インターネット使用者の全人口に対する割合)は17%で、米国の今年2月の普及率は45%とのことだ。米国が現在の日本並の普及率だったのは3年前の97年4月で、16%だったという。と言うことは、日本のインターネット使用者が今後、最近の米国並の年間40%程度のペースで増加すれば、3年後には日本のインターネットの普及率は現在の米国並になるということだ。時期は多少ずれても、近年中にそうなることは間違いない。

それでは、普及率が現在の米国並になった時、インターネットの世界で、日本は現在の米国に近いような状態になっているだろうか?

先ず、インターネットのシステムを構成する主な製品についてはどうだろうか?

現在インターネットのクライアントに使われている全世界のパソコンの約90%はIntel社の仕様のマイクロプロセッサとMicrosoft社のOSを使ったものと言われている。いわゆるWintel製品である。またネットワークの制御に使われる全世界のルーターの71%はCisco Systemsの製品だということだ。(98年2QについてのDataquest社の統計) いずれも米国製である。

これらの製品は全世界共通でいいから、他社より少しでもよくて安ければ、それが全世界を制覇する。「一人勝ち」の世界である。そして現在のところ、勝者はすべて米国の企業で、全世界への供給基地としての米国の立場は、数年後にも変わりそうもない。それどころか、日本ほかでインターネットの普及が進む分だけ、米国の輸出が増えることになるだろう。

次に、インターネットの歴史を振り返ってみよう。

そもそも、インターネットの元になったコンピュータ同士の接続の技術は、1960年代にMIT等米国の大学で研究が始まったものである。その後、67年に軍の研究所で「ARPANET」というインターネットの前身のコンピュータネットワークの建設計画が発表されてから、ごく最近迄、約30年間に渡って、インターネットの基礎技術の開発、基幹ネットワークの構築と運用、アドレスの割当て等の管理の費用はすべてアメリカの連邦政府の予算で賄われてきたのである。この間われわれはずっとアメリカ人が納めた税金の恩恵をこうむり続けてきたのである。

この歴史を思えば、他の国がインターネットの世界をそうやすやすと制覇できるはずがなく、またアメリカ人がそうやすやすと他の国の制覇を認めるはずもないことが分るだろう。

次に、現在及び将来のインターネットの管理・運用について見てみよう。

米国のNSF(National Science Foundation)が構築し、運営してきたインターネットの基幹ネットワークは、95年以降、民間への移管が進められてきた。また連邦政府は、97年以降、IPアドレスやドメイン名の登録等の仕事をICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という非営利団体へ移管しつつある。現在はその試行期間である。民間企業用のドメイン名の登録業務は、このICANNがさらに、Network Solutionsという民間企業に委託している。

これらの移管に当たっては、商務省とICANNとの間等で詳細に移管条件を規定した契約が交わされている。それを読むと、商務省は、試行期間を設けてその間にICANNの能力を確認し、満足のいく移管が実施されなければ、いつでも契約をキャンセルできるようになっており、またICANNがドメイン名の登録業務等を民間企業に委託する時は、事前に商務省の許可を受ける必要があるようになっている。要するに、米国政府の手を離れつつあると言っても、まだ米国政府は完全に手綱を手放したわけではないのだ。

また、民営化の目的は競争原理の導入によるコスト減と米国以外の国の参加の容易化ということで、ICANNの役員はアメリカ人以外も含むが、この団体の権限は米国の商務省との契約で規定されているものであり、またこの団体はカリフォルニア州法に基づく非営利団体で、そういう意味では紛れもなくアメリカの団体である。そして、世界各国のIPアドレスやドメイン名の登録機関はこのICANNの下部組織なのだ。

インターネットの関連団体や委員会には、この他にも、IETF(Internet Engineering Task Force)、ISOC(Internet Society)等いろいろあり、その階層関係や役割分担は必ずしも明確でないようだ。インターネットは、ボランティアが手弁当で集まって、草の根的な活動の中から、自然発生的に組織を作ってきたものなので、現状のこういう姿もやむを得ないと思う。しかし、これらの団体等も、ICANN同様、アメリカ中心のものであることに変わりはない。

これが現在及び近い将来のインターネットの世界の実態である。この状況は携帯電話やゲーム機の出現ぐらいで簡単に揺らぐものではない。各国の経済活動の根幹を支えるネットワークが、これほど米国中心の組織に押さえられていていいかどうかは問題があろう。しかし、善し悪しは別として、これは厳然たる事実なのだ。

アメリカのインターネット関連企業はこういう歴史と現状の下で生まれ育ってきたのだ。「ネット株」を買うなら、本命は、当分の間はやはり「アメリカのネット株」だと思う。


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